僕は自転車(2)

2018-11-25 06:52:12 | 童話
男の子は、夕飯の時にお母さんに教えてあげた。
『あのね、僕、自転車に乗れるようになったよ。』
すると、お母さんは
『あらそう、頑張ったのね。良かったわね。』
と喜んでくれた。
そして、しばらくお父さんや友達と一緒に僕に乗って楽しんだ。

ある日、お父さんが男の子に
『大きくなったので新しい自転車を買ってやろうか?』
と言った。
男の子は嬉しそう『うん。』と言った。
だけれど、男の子は
『要らない、僕が自転車に乗れるようになったのは、この自転車だったからなんだ。僕はこの自転車が大好きなんだ。僕がこの自転車を乗らなくなると自転車がかわいそうだから。』
と言ったので、僕は『
ありがとう、だけど僕は違う子供に乗ってもらうから大丈夫だよ。』
と涙を抑えて言った。
お父さんが
『それでは、新しい自転車を買ってやるが、この自転車も家に置いておくから、時々この自転車にも乗ってやればいい。』
と言ったので、男の子は
『うん、そうする。』
と応えた。
僕は嬉しくなり、
『ありがとう、ありがとう。』
と何度も言った。

そして僕は、綺麗に磨かれて、油もさしてもらって元気にしている。
新しい自転車で帰って来た男の子は必ず僕の所に来て、サドルをボンポンとたたいてくれる。何も言わないが僕は嬉しい。

少し経って、僕の仲間ができた。男の子が大人になって、自分のお金でカッコいいマウンテンバイクを買ったのだ。
そして、今迄乗っていた大きな自転車も綺麗にして、僕の隣り置いてある。
2台の自動車で時々お話しをするので僕は寂しくない。

ある日、僕は他の家に貰われて行くことになった。
小さな子供が居る家で、自転車の練習をしたいというのだ。
僕は昔を思い出した。転びながら練習をしたよね。僕は今度の小さな子供も上手く乗れるようにしてあげようと思った。

僕が貰われて行く日に、男の子がやって来て、サドルをボンポンと叩いた。僕は涙をこらえるのが大変だった。僕は幸せだったし、今も幸せだ。

僕は自転車(1)

2018-11-24 08:03:03 | 童話
僕は自転車、この家の男の子の自転車。
男の子のお父さんの自転車は古いが、僕は新しい。
もう一つ、お父さんのとは違うところが有る。僕には補助輪が付いている。
男の子は頑張っているが、なかなか補助輪が外せない。

今日も補助輪を外して、お父さんと公園で練習をしている。
『お父さん、手を離さないでね。』
男の子が乗った僕がグラグラ、グラグラ。なかなか上手くならない。
お父さんが
『下ばかり見ているからだ、もっと遠くを見ないとダメだよ。』
だけれど男の子は遠くを見ることができない。
『ほらほらっ、前を見て、遠くを見て。』
お父さんの声は聞こえるが、顔が自然に前の車輪の地面を見てしまう。
急に僕がグラグラして転んでしまった。

お父さんが手を離したのだ。男の子は血のにじんだ膝を見ながら泣くのを我慢している。
『少し乗れるようになってきたから、もう少しだよ。』
お父さんが励ましているが、男の子は膝が痛くて仕方がない。
『男だろっ、頑張れ。』
男の子は『僕は男でなくてもいい。』と思った。

そこへ、男の子の友達が自転車でやって来た。
『なんだ、まだ乗れないのかよ。』
と言った。
自転車の僕は男の子が乗れるように頑張る
ことにした。
グラグラしていても、僕が倒れないようにすればいいのだ。
僕は男の子に
『一緒に頑張ろうよ、僕も倒れないようにするから。』
といって励ました。
『うん、頑張る。』
と言って、友達の前で僕を漕ぎ始めた。僕はグラグラしながらも倒れないように男の子を支えた。
友達は『なんだ、乗れるじゃないか。』
男の子は嬉しそうに
『うん、そうだね。』
と言って公園の中をぐるぐると、いつまでも僕に乗って走っていた。
だんだん上手くなり、僕はグラグラしなくなった。
お父さんさんが
『おぅ、乗れるようになったじゃないか。』
と言い、男の子以上に嬉しそうにしていた。

僕達の小さくて大きな森(9)

2018-11-23 09:44:18 | 童話
ある日、おじいちゃんに頼まれて庭の掃除をしていて、梅の木の根元の雑草を取っている時に、根元に何か動く物を見つけた。
『やぁ、人間君、元気?』
忘れていたあの小さくて大きな森の動物だった。ゾウもキリンもチンパンジーもいるし、小さく点のように見えるのはカブトムシとクワガタだった。

『やぁ、みんな元気だったんだね。』
『うん、みんな元気だよ。君が引越しをしなくても良くなるようにしてくれたからね。』
『だけれど、みんなどうしてここにいるの?』
『僕達は、小さくて大きな森の中でしか生きていられないけれど、人間の君達に会いに来たんだよ。もう帰らないといけないけれどね。』
『僕と友達は、どうして君達に会いに行けなくなったの?』
『僕達の小さくて大きな森はね、小さな子供だけが行ける所なんだよ。君達は大きくなって高校生になったから、小さくて大きな森には行けなくなってしまったんだよ。』
『そうなんだ。今、友達を呼んでくるから、ちょっと待っていて。』

僕は急いで友達の家へ行った。
『今ね、小さくて大きな森の動物達がやって来ているので早くおいでよ。』
『えっ、あの動物達が来ているの?』
『そうなんだよ。』

僕は急いで庭の梅の木の所に来て根元にいる動物達に会ったが、小さくて大きな森に帰る準備をしていた。
『君達も帰る時はエンピツなの?』
『そうだよ、エンピツが無いと帰れないんだ。』
『僕達と同じだね。』
『うん、そうだね。』
『今度はいつ来てくれるの?』
『もう来られないよ。』
『残念だけれど仕方ないね。』
『じゃぁ帰るからね、バイバイ。』

キリンが『うわっ。』
ゾウが『うわっ。』
チンパンジーが『うわっ。』
カピバラが『うわっ。』
カブトムシが『うわっ。』
クワガタが『うわっ。』
そうして、動物達はみんな小さくて大きな森に帰って行った。

僕は今も梅の木を大事にしている、小さくて大きな森の動物達のために。

  おしまい

僕達の小さくて大きな森(8)

2018-11-22 05:45:20 | 童話
それから、お母さん達は梅の花が咲いているのを楽しんでいるが、僕達は花が咲き終わるのを楽しみにしている。
『温かくなって来て、梅のお花も散ってしまったわね。』
『お母さん、梅の枝を挿し木するから僕に頂戴。』
『約束していたから良いわよ。』
『大事にするね。』

僕は梅の枝を庭に植えて、元気になるんだよと声をかけた。
そして、僕は友達の家に行って梅の枝を庭に植えたことを言った。
『良かったね、これで動物達が引越しをしなくてよくなるね。』
『そうだね。その事を動物達に教えてあげようよ。』
『そうしようか。』
僕達はエンピツを持って庭の梅の枝の所に来た。
『うわっ。』
『うわっ。』

僕達はお花畑を抜けて動物達がいる所にやって来たので、
『お~い、動物君達、もう引越しをしなくてよくなったよ。梅の枝を庭に植えてきたからね。』と教えてあげた。
すると、動物達が拍手をして僕達を喜んでくれた。
『うわっ。』
『うわっ。』
そして、僕達は動物に伝えたので家に戻ってきた。

庭の梅の木が大きくなり、今はエンピツを近付けてもブルブルとなることも無くなった。  しかし、動物達はみんな元気だと思う。
できれば、もう一度ブルブルとなり、『うわっ。』となって動物達に会いに行きたい。

僕達は高校生になり、友達も僕と同じ高等学校に行っている。
そして、挿し木した梅の木も大きく育ち、たくさんの実を付けるようになっていたが、僕達は勉強とクラブ活動で、あの小さくて大きな森の事は忘れてしまっていた。

僕達の小さくて大きな森(7)

2018-11-21 05:44:02 | 童話
気が付くと二人はお花畑にいた。
たくさんの種類の花が咲いている。
『きれいだね。』
『うん、きれいだね。』
僕達は、花を踏まないようにして、お花畑の中を歩いて行った。
そうすると、盆栽の時のように広場に出た。
『やぁ、また人間がやってきた。』
前に会った時と同じように、動物達が集まっていた。

『動物さん達、みんな元気?』
『ああ、元気だよ。』
『今日も何か相談しているの?』
『前の森は古い森だったので引越したけれど、今のお花畑はお花が枯れると引っ越さないといけないので、いつ引っ越さないといけないのか相談しているのだよ。』
『引っ越さなくても良い方法は有るの?』
『ああ、梅の花が終ったら捨てないでどこかへ植えると枯れないで大きく育つんだ。そうすると動物みんなが引越ししなくてよくなるんだよ。』
『ふぅ~ん。家に帰ったらお母さんにお願いしてみようよ。』
『うわっ。』
『うわっ。』

僕達は花瓶を飾っているテーブルの前に戻って来ていた。
『ねぇ、お母さん。この梅の枝は、お花が枯れたらどうするの?』
『ゴミで捨てるわよ。』
『捨てないで植えておくと大きくなるの?』
『良く知っているのね。挿し木と言ってね、木を増やす時に挿し木をするのよ。』
『じゃぁ、僕達の梅の木にするから、挿し木にして頂戴。』
『ええ、いいわよ。』
『やったぁ、これで動物達が引越ししなくてよくなるね。』
『うん、そうだね。』