【動画】特定秘密保護法施行日、首相官邸前で抗議する人たち=川村直子撮影

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 国民の「知る権利」や人権を脅かすおそれが指摘されたまま、動き出した特定秘密保護法。10日、東京・永田町の首相官邸前など、各地で施行反対や廃止を訴えるデモや集会が開かれた。この日、安倍晋三首相は関西で遊説。「民主主義って何だ!」の声は、主(あるじ)不在の官邸に届いたのか。

 この日午前に官邸前であったデモには約350人(主催者発表)が参加。日弁連で秘密法対策を担う海渡雄一弁護士が「これまでの抗議で問題点を多くの市民と共有できた。廃止まで戦い続けよう」と呼びかけた。東京都日野市の警備員都筑高志さん(64)は「情報統制された戦前の記憶が薄れた結果だ。廃止を求める手を緩めない」。夜は学生ら約1700人(同)が抗議の声を上げ続けた。

 「秘密保護法なんて許さない」。名古屋・栄の久屋大通公園では、市民団体「秘密保全法に反対する愛知の会」が集会を開き、ビラを配りながら訴えた。無職松原美佐子さん(66)=名古屋市守山区=は、「今回の選挙で秘密法は触れられない。政治家と国民の沈黙が信じられない」。

 大阪市中央区自民党大阪府連前。約150人が「怒」「秘密はNO!」と書いたプラカードなどを持って並んだ。会社員の松尾孝子さん(53)=大阪市城東区=は仕事帰りに加わり、「国民に十分な情報が開示されないまま、子どもの世代で戦争が始まらないか心配」と話した。

 一方、金沢弁護士会は10日夕に金沢市内で予定していた秘密法廃止を求める活動を中止した。石川県選挙管理委員会の「活動は政治的な主義・主張に当たる」との見解を受け、選挙期間中の政治活動を禁じた公職選挙法に触れるおそれがあると判断したという。兵庫県弁護士会も、10日に予定していたビラ配りを中止した。総務省選挙課の担当者は「(選管の見解は)あくまでもアドバイスで、判断は各団体に委ねている」とする。

■学生有志がデモ主導

 官邸前で異彩を放つデモを展開する若者たちがいる。秘密法に反対する学生有志の会「SASPL(サスプル)」。

 10日夜、中心メンバーの明治学院大国際学部3年、奥田愛基(あき)さん(22)はマイクを手に、「特定、秘密保護法、反対!」とヒップホップのリズムに合わせて、幅広い年代層が参加するデモをリードした。

 秘密法が成立した昨年12月6日夜も官邸前にいた。政治を学ぶ学生仲間らと秘密法を学び、秘密の指定や管理方法が他国と比べてずさんなことや、法案の審議時間が短いことなどに疑問を感じたからだ。「このままじゃだめ。僕たちもはっきり意思表示しなければ」。これが活動の原点だ。

 秘密法の成立後、仲間とSASPLを立ち上げた。

 首都圏の学生ら約50人の緩やかな集まりで、デモへの参加を促すポスターは「言うことを聞かせる番だ。俺たちが」とメッセージ性を強調。活動をBGMに乗せたドキュメンタリー風に映像化し、ソーシャルメディアで発信する。

 共感した若者らが10月には渋谷に約2千人、今月9日夜には官邸前に約1千人集まった。労組や市民団体を中心とした従来型のデモとは異なるが、「見せ方が違うだけ。いずれも必要」と奥田さん。施行後も活動を続けるつもりだ。「今日から新しいものが始まる。何度でも声を上げる」(吉浜織恵)

■雑誌協会など抗議声明

 特定秘密保護法が施行されたことを受け、日本雑誌協会の「人権・言論特別委員会」と、日本書籍出版協会の「出版の自由と責任に関する委員会」は「国民が知るべき公の情報を得ることはより困難になる」との抗議声明を出した。

 声明は、何が秘密か示されない法の施行によって、自由に発言できない空気が広がっていくと指摘。「この法律が暴走しないよう、今後も法の運用と政府の動きを監視し続け、あくまでも廃止を訴えていく」としている。