東京電力福島第一原発のタンクにためられている高濃度汚染水の処理が正念場を迎えている。東電は年度内の処理終了を国と約束したが、トラブルが続いたために思うように進まず、今月も新たな装置を導入している。すべて順調に稼働したとしても完了は3月末で、達成は微妙な状況だ。

 福島第一原発では、溶けた燃料が落ちている建屋地下に地下水が流れ込むことで、高濃度汚染水が生まれ続けている。敷地内のタンクには15日現在で28万トンがあり、漏れれば海の汚染を拡大させかねない。東電は水漏れが相次いでいた一昨年9月、現場を訪れた安倍晋三首相に、今年度内の処理完了を約束した。

 しかし、切り札とされた多核種除去設備ALPS(アルプス)は一昨年春の稼働後からトラブルが続き、思うように処理が進まなかった。昨秋に増設、フル稼働なら1日1960トンを処理できる態勢にしたが、それでも年度内の処理終了は困難だった。そこで東電は昨秋、汚染の多くを占めるストロンチウムだけを除去する装置を投入。これも「処理済み」として扱うことにした。

 その後も増設分のALPSは想定通りの性能が出ず、フル稼働はずれ込んだまま。より構造が単純なストロンチウム除去装置の増設を示しては、年度内の約束とのつじつまを合わせる状況が続く。最新の計画では、10日に運転を始めた1機種と月内に動かす2機種の追加で、1日1800トンの汚染水からストロンチウムを除去。同時にALPSをフル稼働させ、3月末に処理を終えるとする。

 ただ、15日現在の汚染水を16日からフル稼働で処理したとして単純計算すると、終了はぎりぎり。実際は、どちらも18日現在でフル稼働していない。

 首相との約束は法律上の義務でないが、漏れるリスクを減らすのは早いほどよく、タンク周辺で働く作業員の被曝(ひばく)も減らせる。原子力規制委員会は昨年2月、汚染水タンク由来の放射線量を今年度中に1ミリシーベルト未満に下げるよう指示している。

 東電福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデントは15日の会見で計画の遅れを認め、3月の完了に向け「ぎりぎり踏ん張っている状況」と話した。

 タンク内の高濃度汚染水がなくなっても、低濃度汚染水は残る。新たに発生する高濃度汚染水の処理も引き続き必要だ。発生を防ぐため、東電は建屋周囲の地下を凍らせて地下水の浸入を防ぐ凍土壁の工事も進める。これも別の作業の遅れで工事できない部分が残ったまま、凍結開始目標の3月が迫っている。(長野剛