小出裕章・今中哲二 Light up! journoal
2017年6月19日
電話インタビュー:小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
パーソナリティ:おしどりマコ・ケン
おしどりマコ :
今日は小出さんさんと電話が繋がっています。小出先生よろしくお願いします。
小出さん:
こちらこそよろしくお願いします。
おしどりマコ :
今日のトークテーマは脱原発の先進国ドイツとそして日本ということで小出先生にお話を伺おうと思います。
小出さん:
はい。
おしどりマコ :
世界の原子力はちょっともう推進ではなく脱の方で行っているのではないかと思っているんですけど、小出先生はどう思われますか?
小出さん:
世界は原子力から撤退しようとしているということはもう確実なことです。
おしどりマコ :
はい。
小出さん:
世界の原子力を牽引してきたのは米国と、まあヨーロッパが中心だったわけですけれども、例えば米国では、1960年代から建設が始まって、70年代にかけて猛烈な勢いで原子力に夢をかけようとした時代がありました。
しかし運転中と建設中と計画中と合計の基数が一番多かったのは1974年なんです。
おしどりマコ :
あっ、そんな昔なんですね!
小出さん:
はい、ですからそれからはもう計画中のものはすべてキャンセルされましたし建設中のものだって9割を超えて出来上がっていたものでさえキャンセルされていくというそういう時代にすでにもう入っていた。
それでまあそのマコさんやケンさんドイツに行ってくださいましたけども、ヨーロッパも一時期原子力の夢に浮かれたのですけれども、ヨーロッパで建設中、計画中の基数が一番多かったのは1978年でした。
すでに米国のスリーマイル島の事故が起こる前からもうヨーロッパですらが原子力に見切りをつけていたということであって、まあ日本のような愚かな国だけがいつまでたっても原子力に夢をかけ続けたということなのです。
おしどりマコ :
なるほど。
小出さん:
まあドイツにしても米国のスリーマイル島の事故を見てですね、どんどん撤退に入るということになったわけですし、福島の事故を見てあーこれはもうダメだということでドイツは徹底的に脱原発にいっているわけです。
おしどりマコ :
なるほどそうですね。ドイツに4回ほど毎年取材に行って福島第一原発事故は最後の決定打にはなってましたけど、スリーマイル島であったりチェルノブイリであったり、そして事故が起こる前から反対運動をされていた方々に取材もして、なんで事故の一つもないのに反対運動をしてたんですか?ってびっくりして取材したんだよね。
そしたら、我々はよく考えてもこのような技術を信頼できないと判断したっていうそういう回答を頂きました。
小出さん:
そうですね、ドイツの場合には原子力発電所の技術的な問題を考える専門の委員会と、それと倫理的な問題を考える専門委員会が2つ設置されていまして特に倫理的な問題を考える委員会っていうのが大変深く原子力の問題を考えていて、事故が起こればどうしようもないし、事故が起こらなくても産み出した放射性物質はどうしようもないと、こんなものは到底やってはいけないという、まあ極めて論理的な結論を出しました。そのためにもう脱原発になったわけです。
おしどりマコ :
はあ〜なるほど、そうですね。今年私、ドイツの研究所に行って、物理工学研究所ですね。それでその福島の事故に関するダストモニタリングの、空気中の放射性物質のデータを見せていただいたんですけども、そこでドイツにまで色々な放射性物質が届いているんだろうなと思って行ってたんですけど、あの半減期がものすごく短い 132Te(テルル132)と132I(ヨウ素132)もドイツでしっかり検出されていたというのには私はとても驚きました。
小出さん:
私たちもチェルノブイリの原子力発電所の事故が起きた時には、日本でもちろんテルル132も検出しましたし、もうそういうものなのです。
おしどりマコ :
あぁ、そうなんですね。
小出さん:
はい。もう膨大に放出されてしまったものですから、チェルノブイリの場合日本で検出できるし、福島の事故の場合にはドイツで検出できるという、そういうまあ地球規模の汚染になってしまったわけです。
おしどりマコ :
なるほど。地球規模の汚染であるにも関わらず、福島第一原発事故ではヨウ素132による評価は抜け落ちていますよね。
小出さん:
福島の場合には発電所の中にある測定器はみんな死んでしまっていましたし、周辺にあったモニタリングポストなどもほとんど地震で機能しなかった。だから短半減期のものに関しては情報が欠落しているという状態で今日まできてしまっているわけです。
おしどりマコ :
ヨウ素132の被曝評価がないまま甲状腺に関する議論が進んでいるということはどう考えてもアンフェアだなという気がするんですよね、先生。
小出さん:
私もそう思います。私は2年前まで京都大学原子炉実験所にいたのですけれども、私の同僚に今中哲二さんという人がいて、彼はなんとか当時の少ないデータをもとにコンピュータのシミュレーションで逆算できないかというような研究を続けていますし、これからも多分彼はそういう仕事をやってくれるだろうと私は期待しています。
おしどりマコ :
あ、なるほど。そうですね、今中先生は福島第一原発事故による生物への影響の研究会も毎年されていて、そこに毎年取材をさせていただいているんですけれども、蝶々とか植物に限らず、魚であったり貝であったり、様々な昆虫であったり、哺乳類のサルやら牛やら、たくさん直後の影響が出ているという評価が出ているんですけれどもそれがそんなに大きく取り上げられないというのもまた不思議なんだよね。
小出さん:
国にしても東京電力にしての影響がないと言いたいわけですし、彼らはマスコミを握っているわけですから、マスコミすらがそのようなことは報道しないということになっているのですね。ですからヨーロッパのマスコミはいわゆるジャーナリズムというものの立場をきちんと保っているわけですけども、日本のマスコミは全部が権力に対して頭を下げてしまっているというそんな状態になってしまっているように思えます。
おしどりマコ :
うわーおっしゃる通りです。今年ドイツの高校生に、なんで日本の報道は政府寄りなんだって質問されたんですね、学校で話してた時に。それで、うわー何から説明しようかなと思って。日本のマスコミのトップは安倍総理とよく食事会をしていましてというと悲鳴が上がって。ジャーナリストは政治家の会見で出されたコーヒーも飲まないくらい独立しないといけないんじゃないのかって言われたんです、高校生に。
小出さん:
普通はそういうものなはずなんですけど、でも日本の場合にはもう戦争の時からずっとそうではなくて、マスコミは権力にべったりと張り付いて大本営発表をやったわけですし、福島の場合も国や東京電力の都合のいい情報だけを流すということを今日まで続けているわけですね。
おしどりマコ :
なるほど。ドイツの高校生に、一緒に食事をするのならそれはジャーナリストじゃなくて政府の広報だって言われました。
小出さん:
おっしゃる通りですね。
おしどりマコ :
言ってやってくださいとドイツの高校生に言ってたんですけどね、本当に。ありがとうございました。やっぱり日本はものすごい遅れているどころかひどいということがわかりましたよね。
小出さん:
はい、私はそう思います。
おしどりマコ :
小出先生、ありがとうございました。
小出裕章・こいでひろあき
1949年生まれ。日本の工学者(原子力工学)。元京都大学原子炉実験所助教。原子力の平和利用を志して1968年に東北大学工学部原子核工学科に入学するも、放射能被害の実態を知り原子力に反対する立場を取り始める。女川原発の反対運動、伊方原発裁判、人形峠のウラン残土問題、JOC臨界事故など、放射能被害者の側に立って活動、原子力の専門家としてその危険性を訴え続けている。主な著書に『原発のウソ』(扶桑社新書) 、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)など。
今中哲二・いまなかてつじ
1950年生まれ。日本の工学者(原子力工学)。京都大学原子炉実験所助教 兼 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻助教。瀬尾健とチェルノブイリ原子力発電所事故後の追跡調査を中心に活動した。工学修士。広島県出身。熊取六人衆の1人。
主な著書に『Silent War 見えない放射能とたたかう』(講談社)、『低線量放射線被曝――チェルノブイリから福島へ (叢書 震災と社会)』(岩波書店)、共著に小出裕章、久米三四郎ほか『 「原発の安全上欠陥」原子力技術研究会』(第三書館)など。
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