メディア各社の世論調査で内閣支持率が軒並み大幅に低下しているせいか、それとも歴史的な惨敗だった都議選に続いて前日の仙台市長選で、与党側が敗退したせいなのか――。7月24日に開かれた衆議院予算委員会閉会中審査において、安倍晋三首相は慎重に言葉を選び、始終低姿勢を貫いていた。
「李下に冠を正さずという言葉がある。私の友人が関わることだから、国民の皆様から疑念の目が向けられることはもっともなことだ。思い返すと、私の今までの答弁においてその観点が欠けていた、足らざる点があったことは率直に認めなくてはならないと思う。常に国民目線に立ち、丁寧な上にも丁寧に説明を重ねる努力を続けていきたい。改めてその思いを胸に刻み、今この場に立っている」
冒頭で安倍首相は、ひとことひとこと噛みしめるようにこう語っている。
多くの国民が政府の説明に納得していない
しかし質問に立った与党自民党の小野寺五典衆議院議員も「その総理の言葉だけでは信じられない多くの国民がいることも事実」と発言している通り、国民の多数は丁寧な言葉に納得しているわけではないだろう。共同通信が6月17日と18日に行った世論調査によると、政府の説明に「納得できない」と回答したのは73.8%。日経新聞が電子版読者に対して行った調査では、「納得できない」は81.4%にも上っている。
疑惑の中心は安倍首相と加計学園の加計孝太郎理事長との関係だ。安倍首相は一貫して「政治家になるずっと以前からの友人」「彼が私に対して、私の地位や立場を利用して何かをなしとげようとしたことは一度もない」「獣医学部の新設について、働きかけや依頼は全くなかった」と主張している。

首相と加計氏の接触は数多い
だが民進党の大串博志政調会長が指摘したように、第2次安倍政権成立以降、公にされているケースだけでも、安倍首相と加計氏は合計14回食事やゴルフで接触している。そのうち獣医学部が具体的に大きく動きだした昨年7月以降は6回と、なぜか頻度が一段と増した。
こうした客観的状況がありながら、加計学園にとっての一大事業である獣医学部新設の話が出た可能性を完全否定することは難しいのではないか。
加計氏は「関係業者」に該当する
そもそも会食について、安倍首相は「私が奢る時もあれば、加計さんが払うこともあった」と述べたが、これは2001年1月6日に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」に抵触する恐れがある。
同規範は「国務大臣、副大臣及び大臣政務官の服務等」で、関係業者との接触等について「倫理の保持に万全を期するため」として、「①関係業者との接触に当たっては、供応接待を受けること、職務に関連して贈り物や便宜供与を受けること等であって国民の疑惑を招くような行為をしてはならない」と規定しているのだ。加計氏が獣医学部の新設を申請するのは、安倍首相が議長を務める国家戦略特別区諮問会議であり、加計氏は「関係業者」に該当するといえる。
もっとも国家戦略特区制度を利用した加計学園の獣医学部新設について、安倍首相は「知り得る立場にあったが、具体的に説明がなかった」と答弁。そして加計学園が獣医学部新設を申請している事実を知った時期について尋ねられると、「(今年)1月20日に正式に決定した」「この時に知るに至った」と答えている。
しかしながら2016年11月9日に開かれた第25回国家戦略特別区域諮問会議で、安倍首相自身が「獣医学部の設置」を決定した。また2017年5月8日の衆議院予算委員会で民進党の宮崎岳志衆議院議員の質問に対して、「第2次安倍政権発足後も、内閣総理大臣が本部長である構造改革特区本部においてこの提案に対する政府の対応方針を決定しており、他の多くの案件と同様、本件についても知り得る立場にあった」と自ら述べている。
これで「加計学園が獣医学部の新設を申請していることを1月20日まで知らなかった」と主張するのは、全く苦しい言い逃れといえるだろう。多くの国民が論理的にも破たんしていると考えるのではないだろうか。
さまざまなところで綻び
疑惑を深める矛盾はまだある。獣医学部の設置が正式に決定した前日の11月8日、文科省は「加計学園への伝達事項」なる文書を作成し、高等教育局専門教育課の担当者から設置室、私学部関係者宛てに送付した。
その内容は、翌日の正式決定に沿うように文科省が加計学園に「指導」するもので、その指導内容に過不足がないか省内で事前確認したものだ。
「まさに加計ありきで文科省が動いていた証拠といえる。これは試験前に試験官が受験生に問題の範囲を教えるようなものだ」
民進党の予算委員会次席理事の大西健介衆議院議員はこう批判した。実はこの文書は文科省の追加調査の中で出てきたもので、7月24日の閉会中審査で玉木雄一郎衆議院議員がパネルで使おうとしていたものだったが、与党の理事らが「正当性に疑義がある」として反対していた。ところが予算委員会では一転して松野一博文科大臣が「本物だ」と認めてしまった。
「これには与党の予算委員会理事たちも委員会の後に、首をひねっていた」と大西氏は話す。
さまざまなところで綻びを見せる加計学園問題だが、それを解明するためにはやはり加計孝太郎理事長自身が説明することが必要だろう。安倍首相は冒頭で「常に国民目線に立ち、丁寧な上にも丁寧に説明を重ねる努力を続けていきたい」と述べたが、その言葉が本意から出たものなら、加計氏にも振りかかる疑惑を払拭するために、その心友に国会に出向くように説得してもよいのではないだろうか。
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