対馬は長崎県沖の玄界灘に浮かぶ国境の島である。
面積の9割を緑が占め、固有の動植物も多い自然豊かな島だが、この島にはかつて立ち入り禁止とされてきた場所がある。
その名も「オソロシドコロ」だ。
オソロシドコロは、対島に伝わる独特の宗教「天道信仰」の聖地である。
7世紀後半に島の南部のツツ地区に一人の男子が生まれた。
母は虚船(誰も乗っていない鉄の船・日本に伝わる伝説の乗り物)に乗って漂着した高貴な身分の女性で、太陽に感精して懐妊したという。
天童と名付けられた男子は、嵐をまとって空を飛ぶ事ができる超能力者で、成長すると「天童法師」と呼ばれる様になり、時の天皇の病を治した事もあった。
この天童法師の不思議な妖力に人々は信心を寄せ、やがて太陽と結びつけた天道信仰が根付いたのである。
オソロシドコロとはこの天童法師の墓所である「(表)八丁角」と、母親の墓所とされる「裏八丁角」の事だ。
いずれも天道信仰のご神体とされる瀧良山』(たてらさん)にあり、山全体も聖地として崇められた。
この二ヶ所を、地元ではオソロシドコロ、すなわち「恐ろしい所」とし、これに天道信仰の神事が行われていた多久頭魂(たくずたま)神社を合わせ、すべて聖地として畏敬の念を抱いているのである。
一説には、八丁角はもともと死体の埋葬地だったともいう。
現在は全てが立ち入り禁止という訳ではないが、安易な人の侵入を拒む神秘的なオーラは現在の様だ。