三輪山(みわやま)は奈良県の桜井市に位置している。
美しい円錐形で、標高467mとさほど大きくはないが、地元民にとってこの山は特別な意味を持つ。
と言うのも、三輪山はその麓に鎮座する大神(おおかみ)神社のご神体だからだ。
入山するには、大神神社の摂社(本社の祭神にゆかりがある神を祀る神社)である狭井(さい)神社の社務所へ届け出て、入山証の代わりに白いたすきを掛けて登る。
飲食、喫煙、撮影は厳禁で、入山は3時間まで。
山で見聞きしたものをみだりに他言してはならないという暗黙の了解もある。
山中には神の憑代(よりしろ)であるおごそかな磐座(いわくら・岩を祀ったもの)が置かれており、全てが聖域といえる。
祭祀は蛇神として知られる大物主大神(おおものぬしのおおかみ)だが、神にまつわる古い伝承には次の様な話がある。
その昔にある女の元に夜な夜な通ってくる男がいた。
そのうち女は子を授かるが、男の正体がどうもはっきり判らない。
そこで心配した女の親が、男の着物にこっそり糸をつけて正体をさぐると、糸は家の戸の鍵穴を抜け出て三輪山へと導かれ、その先には蛇の姿があった。
この蛇こそが大物主大神で、三輪山は蛇がとぐろを巻いた姿だとも言われているのだ。
この話は『古事記』に残されているものだが、蛇神と人間の婚姻譚はやはり神話的である。
神社の境内にある「巳の神杉(みのかみすぎ)」には、酒とともに蛇の好物である生卵が、今も数多く供えられているという。