和歌山県の新宮市には、神倉山(かんのくらやま)という標高120mほどの山がある。
この山のちょうど中腹あたりに建っているのが神倉神社だ。
源頼朝が1193(建久4)年に石段を寄進したと伝えられるが、創建ははるか古代にさかのぼる様だ。
この様に古い歴史を持つ伝統ある神社なのだが、初めてここを目にする人は、その異様な光景に圧倒されるに違いない。
というのも、小さな社殿の上にある絶壁から、驚くほど大きな岩が突き出しているからである。
高さが約12m、幅は約10mという巨大な岩はゴトビキ岩と呼ばれている。
ゴトビキとは、この地方の方言でヒキガエルに似ている事から名付けられたのだというが、しかし、神倉神社を聖地としているのは、このゴトビキ岩に他ならないのだ。
社殿が造られるよりもずっと以前から、人々はゴトビキ岩を神が宿る御神体として崇拝していた。
それを証明するかの様に、岩の根元から銅鐸(どうたく・弥生時代の青銅器で祭器の一種とみられる)の破片や、経典を埋めた痕跡などが発見されているのである。
古代人は自然の力を恐れ敬い、木や岩などを信仰の対象にしてきた。
ゴトビキ岩もそうしたものの一つだったのだろう。
またここは『古事記』や『日本書紀』にも神武天皇が登った場所として記されており、古くから聖地と見られていた事がわかる。
どっしりとそそり立つコドビキ岩は、今も神が降りて来そうな雰囲気を漂わせている。