東京の隅田川沿いの土手の近くにある三囲(みめぐり)神社は、宇迦之御魂命(うがのみたまのみこと)を祀った小さな稲荷神社だ。
じつは、その境内にはあの有名な三越デパート前のライオン像が置かれている。
その理由は、三囲神社と旧財閥三井家の深い縁にある。
三囲の名は、その建立の伝説に由来している。
源慶という僧が、弘法大師が建立した荒れ果てた小堂を発見し、その社殿を再興しようとした際、地中から白狐にまたがる翁の像を掘り起こした。
するとどこからともなく白狐が現れ、翁の像の周りを三回巡って消えたのだという。
江戸時代の三井家は三囲神社を守護社と定めた。
囲という字の中に「井」の文字が入っている事から「三囲は三井に通じ、三井を守る」と考えられたのだ。
さらに、三井家の本拠があった江戸本町から見ると、三囲神社のある場所は鬼門の方角に位置している。
不思議な因縁から、三囲神社は三井家に篤く信仰されて来たのである。
敷地内には、三井十一家代々の当主夫妻の120名余りの霊が神として祀られている。
ちなみに、三井家の経営する三越デパートの各店には、三囲神社の主神である宇迦之御魂命が分詞されている。
そして近年、三井家と三囲神社の関係の深さを象徴する様な出来事があった。
2009(平成21)年に東京池袋の三越が閉店した際、その入り口に置かれたライオン像が、神社からの申し出によって奉納されたのだ。
三越のシンボルとも言えるライオン像が、静かな神社の境内で狛犬の隣にひっそりと鎮座しているのは、何とも不思議な光景である。