いわゆる観光名所でもない限り、普通は「聖地」と呼ばれる場所を見学するのにお金が掛かるイメージはないだろう。
ところが、まれに例外もある。
それが箱根町にある九頭龍神社だ。
箱根の九頭龍神社といえば、縁結びのパワースポットとして近年特に有名である。
神宮は箱根神社の境内に位置しており、誰でも気軽に参拝する事が出来るが、本宮はというと少々特殊な立地条件にある。
箱根神社から直線距離で3kmほどのところ、つまり芦ノ湖畔にあるのだ。
参拝手段は徒歩と船、あるいはバスやタクシーなどがあるが、多くの人は徒歩か船を選ぶ事になるだろう。
まず船は、月に一度月次祭(つきなみさい)の時にしか運航しない。
もちろん乗船は有料である。
一方、徒歩であればいつでも行けるが、本宮が置かれている場所は箱根プリンスホテルの敷地の奥で、参拝するには「九頭龍の森」という有料施設への入園が不可欠だ。
つまりどちらもでも、お金を払わずして参拝するのは不可能という事なのである。
聖地であるはずの神社に、なぜこの様な商業主義的な仕組みがつきまとうのか。
じつは、箱根では20世紀半ば、プリンスホテルを擁す西武グループと、小田急グループによる企業紛争があった。
おおまかに言えば、バス、鉄道、観光船といった、箱根に於ける輸送分野のシェア争いである。
一説には、九頭龍神社はこの交通開発戦争に巻き込まれたまま、現在に至ったと言われている。
やはり聖地と言えど、娑婆(しゃば)の世情と無縁ではいられないという事なのかも知れない。