序章:Depression of Molecular Gastronomy Ⅰ《分子美食学の憂うつ1》
「金星の大気温度を測れるというのに、スフレの中で何が起きているかを知らないというのは、我々の文明の貧しさを表している」 --ニコラス・クルティ
分子美食学(ガストロノミー)―― 料理とは化学であり、その過程において食材の変化の仕組みを分析、解明し、調理技術と美食学(ガストロノミー)上の現象を科学の視点から社会的、芸術的、技巧的な要素で解明するもの。
1992年、イタリアのエーリチェに科学者と数人の料理の専門家が集まり、伝統的な料理を科学的に分析を行うことを論議するために研究会を開催し、この研究会おいてハンガリーの物理学者ニコラス・クルティは、"Molecular and Physical Gastronomy(分子/物理ガストロノミー)" という造語で命名したことが発端となる。
分子ガストロノミーの概念は、もっとも有名なフランス料理シェフのアントナン・カレームが19世紀初頭に、スープを煮出す時は「湯をとてもゆっくりと煮ないと、アルブミンのコラーゲンが硬くなってしまう。水が肉に十分浸透する時間がなければ、オズマゾームのゼラチン質が分離していかない」と言ったのがその前触れだったといえる。
ただ、科学で培われた技術を食の研究に使うという発想は新しいものではなく、ロンドンに保管されている記録によれば、紀元前2世紀頃、天秤を使って腐った肉が新鮮な肉より軽いのではないか試そうとしていた。それ以来、多くの科学者が食と調理に関心を持ってきたのだ。
そして、ここ―― 総人口230万人弱、東京西部の大部分を占める巨大な都市。人口の8割が学生ということから『学園都市』と呼ばれ、外部より十年以上も進んだ最先端科学技術が研究運用されている科学の街が存在する。
『学園都市』で暮らす学生たちは、超能力開発という名において人為的な特殊なカリキュラムが組まれ全生徒に実施されていた。
そして個人ごとに、『無能力(レベル0)』から『超能力(レベル5)』の6段階に振り分けられいる。
そして個人ごとに、『無能力(レベル0)』から『超能力(レベル5)』の6段階に振り分けられいる。
都市は、完全に外の世界と隔絶しており、全ての学生は親元を離れ、自立を余儀なく強要され、一部を除き彼らは自炊していた。
これは学園都市に生きる者たちの日常を描いた物語である―― "調理"と"化学"が交差するとき、新たな物語が始まる。