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『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.5

2012-01-21 23:27:20 | とある化学
終章:Fatal Reencounter《運命的な再会》


 「この世の中で本当に喜びを与えてくれるものはいくつあろうかと指折り数えてみると、決まって最初に指を折らねばならぬものは食べ物であることに気づく。だから、家でどんなものを食べているかを見ることは、人の賢愚を知る確実なテストである」--林 語堂




 停電(ブラックアウト)の影響が残る翌日――


  御坂 美琴と白井 黒子は、学区内の病院にいた。『連続虚空爆破(グラビトン)』事件を引き起こした張本人、介旅 初矢が昏睡状態に陥ったとの報告を受けて急ぎ駆けつけてきたのだ。


「あの…… あたし、そいつの顔を思い切り、ぶん殴ちゃったんですけど……」


 美琴は控えめに右手を上げて、担当の医師に質問した。


「いや、頭部に損傷は見受けられません。というか、そもそも彼の体には、どこにも異常がないのです。ただ意識だけが失われて……」


 医師はカルテを見ながら答える。


「原因不明…… というわけですのね」


 黒子が医師の言葉を引き継いだ。


「ただおかしなことに今週に入ってから、同じ症状の患者が、次々と運ばれてきていて……」


「ええっ!?」


 美琴と黒子は驚きを隠せずにいた。医師が説明するカルテの患者には、今まで二人が関わった事件の首謀者たちの顔が並んでいたからである。


 医師の説明は続いた。
 
「情けない話ですが、当院の施設とスタッフには手に余る状態ですので、外部から大脳生理学の専門家をお呼びしました」


 ――と、彼らの元に近づく靴音が響く。


「お待たせしました。水穂機構病院院長から招へいを受けて来ました。木山 春生です」


「ご苦労様です」


 医師のねぎらいの言葉の先に、両手を白衣のポケットに突っ込み、栗色のロングヘアに目の下にクマつくった、どことなく疲れきった女性が立っていた。


「え! あなたは……」


 美琴は、あとに続く言葉を呑み込んだ。


 そう、目の前に立っている女は、数日前、道に迷っていたところを助けてあげた人物であり、そして、あの都市伝説の一つ『脱ぎ女』だったからだ。
 この再会は、『幻想御手(レベルアッパー)』事件における重要な出会いとなる―― "調理"と"化学"が交差するとき、新たな物語が始まる。   (完)







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.4

2012-01-21 21:22:39 | とある化学
四章:Ramen Wars Ⅰ Agin《ラーメン戦争1 再び》


 「美味とは食物そのものにあるのではなく味わう舌にあるものである」--ジョン・ロック




 その頃、上条 当麻の部屋では、調理(キッチンファイト)を終え、なべのラーメンをドンブリへ移し、きざんでおいた少量のネギを入れて野菜ラーメンを完成させていた。


「へへ…… 一丁あがり~」


 そして熱々のラーメンを食卓テーブルに運んでいる、そのときに停電(ブラックアウト)した。


「なにっ!?」


 部屋は一転して暗闇に包まれる。


「うっ!」


 これが停電(ブラックアウト)だけなら、人並み以上の運動神経をもつ当麻には、何の問題がなかったに違いない。けれど、このときは足元にケータイが落ちていた。暗闇の周りが見えない状況で、不運にもケータイを全体重をかけて踏みつけてしまったのだ。


「いてーー! あちちちーーーーーーっ!!」


 全体重をかけられたケータイは不気味な音を立てて破壊され、当麻は足を滑らして見事に転倒した。手に持っていた熱々のラーメンは空中に放り出されてシャワーとなって当麻に降り注いだのである。
 全身ラーメンまみれになって、空になったどんぶりを頭に被った当麻は、暗闇包む部屋の中で叫ぶ。


「ふ・ふ・ふ・ふこうだーーーーーーー!!」


 悲痛な叫び声は、寂れた部屋にむなしくこだまする。


 だが、彼は知らない。転倒した拍子に、ズボンの後ろのポケットに入れていた財布の中身、生活費(現金)を引き下ろすためのキャッシューカードを割ってしまっていることに。
 彼は知らない。先ほど掛かってきたケータイは、悪友にしてクラスメート土御門 元春からの夕食の誘いであったことを。
 そして、彼はまだ知らない。翌日、部屋のベランダに引っかかっていた白い修道服を着た不思議少女(インデックス)と運命的な出会いをすることに。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.3

2012-01-21 04:17:12 | とある化学
三章:A Skill and Close Friends and Rice Gruel Ⅰ《能力と親友とお粥1》


 「ジゴよ、私の賞賛を受けてくれ。私は君のためにしばしば袖にしたのだ。男爵夫人や公爵夫人の食卓で、最高の美味なる肥育鶏を、そして山鶉のキャベツ添えさえも」--ジョゼフ・ベルシュー




 御坂 美琴が、第7学区一帯を停電(ブラックアウト)させてしまう少し前。初春 飾利の部屋で、佐天 涙子が台所(キッチン)に立っていた。
 夏風邪を引き、学校を休んだ初春を涙子がお見舞いに訪れていたのだ。


 涙子は長い黒髪に白梅の花を模した髪飾りを着けている女の子。初春は黒髪のショートヘアに彩り鮮やかな花のカチューシャを付けていた。二人は、ともに柵川中学の1年生の同級で親友同士だった。


 実は、ここに先ほどまで美琴と黒子もいた。初春と黒子は、同じ『風紀委員(ジャッジメント)』に属し相棒(コンビ)を組んでいて、黒子は初春のたってのお願いから美琴を二人に紹介した。
 四人はすぐにうち解けた。知り合ってまだ日が浅かったが、年齢も近かったし、美琴は人見知りなど縁がなく、涙子も同様だった。


 そんなとき、初春が風邪を引き、三人でお見舞いに来たのだが、『幻想御手(レベルアッパー)』の情報を得たため、二人は飛び出していってしまい、初春と涙子が残されたのだった。


 台所(キッチン)に立つ涙子は、テキパキと調理していく。彼女も例に洩れることなく小学生の頃から学園都市に来て、一人暮らしをしていたからである。


 彼女は、風邪引きの初春のために、消化によいネギ粥を作っていた。



【風邪のお粥:薬膳ネギ粥】


【材料】
  ネギ →2本
  米  →50g
  砂糖 →スプーン1杯
  水  →500~600cc おかゆの固さはお好み


【作り方】
  1.ネギの白い部分を適当な長さに切る
  2.土鍋(どんな鍋でも可)にお米を入れ約500~600ccの水で煮る
  3.お湯が沸騰したら、弱火にして、米粒がくずれて粥状になるまで煮る
  4.そこへ、ネギ・砂糖を入れて、そのまま弱火で煮る
  5.ネギが柔らかくなったらネギ粥の完成



 サクサクと、包丁が、ネギを小刻みにきざむ音がする。


「そう、その『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』…… 勉強しとけ~って言われても、よくわかんないのよね~」


  涙子は、調理を続けながら、学校で出された宿題を初春に聞いていた。


 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』。それは異能力者が個々に持つ特殊な感覚であり、現実や常識から切り離された独自の、自分だけの世界を指し、これを得ることが超能力を獲得するための必須条件だ。


 初春は起き上がり、ベット横の小さなテーブルの前に座っている。


「う~~ん。何でしょうね…… 自分だけの現実って、知識としてはあるんですけど……」


 涙子が学校から持ち帰った宿題ノートを見ながら答えた。涙子はネギをきざみつつ、つぶやく。


「自分だけか…… 初春だけ。あたしだけ。そんな現実って、何だろうね? 妄想とか?」


「あ、 近いかも!」


 初春の言葉に思わず手を休めて涙子は振り返った。


「えっ?」


「妄想はアレですけど、思いこみとか、信じる力とか、そういう強い気持ちじゃないですかね~」


「へぇ~ 信じる力か……」


 彼女はふたたび手を動かし始めてネギを入れ、オタマでなべをかきまわした。


「わたし自身、レベル1なので、ぜんぜん説得力ありませんけど……」


「うう~ん。ありがとー! 正直、自分だけの現実って言われて、チンプンカンプンだったけど…… 何となくわかった気がする」


 おたまですくった熱いお粥を、ふう~ふう~と冷まして味見する。


「あたしも信じていれば、いつかレベル上がるかな?」


「たいじょ~ぶですよ。佐天さんは思い込みの激しい女(ひと)ですから」


「何気にひどいことを言うね~ キミは」


「へへへ……」


 涙子はできあがったお粥を初春の待つテーブルへと運んでいった。作ったお粥を二人で食べて、あと片付けも終わり、ひと息ついた頃。


「そうだ。初春、背中拭いてあげようか? 風邪引いて、お風呂入っていないんでしょ」


 初春は、涙子の言葉に驚いた。


「え~! そんな悪いですよ。佐天さん」


「なに遠慮しんのよ。困ったときは、お互い様。親友でしょ!」


 少し戸惑いながら初春は小さな声で答えた。


「じ・じゃ~ お願いします……」


 初春は少し頬を染めて、照れながら涙子を見つめる。


「よし! きた! 上着を脱いで、ここに座ってて。準備するから~」


 そう言った涙子はバスルームへ行き、洗面器にお湯を張って戻ってきた。そしてパジャマの上着を脱いで、それで前を隠した初春のうしろにに座り、彼女の背中を拭き始めたのだった。


「初春はさぁ~ 高レベルの能力者になりたいって、思わない?」


「え~?」


「御坂さんや白井さんみたいな」


「う~ん? そりゃ~ 能力が高いことにこしたことないですし、進学とか、その方がだんぜん有利ですけど~ 」


「やっぱりさぁ~ ふつうの学校生活なら、外の世界でもできるし、超能力に憧れて学園都市に来た人、結構いるでしょ」


 涙子は、初春の背中を拭いていたタオルを洗面器にひたしてしぼって、ふたたび彼女の背中を拭き始める。


「あたしもさぁ~ 自分の能力って何だろう? どんな力が秘められているんだろう…… って、ここに来る前の日は、ドキドキして眠れなかったよ。それが最初の身体検査(システムスキャン)で、あなたにはまったく才能がありません。レベル0です…… だもん。あ~あぁって感じ…… 正直へこんだし……」


「その気持ち、わかります。わたしも能力レベルはたいしたことありませんから…… けど、白井さんとお仕事したり、佐天さんと遊んだり、毎日楽しいですよ。だって、ここに来なければ、皆さんと会うこともできなかったわけですから…… それだけでも学園都市へ来た意味があると思うんです」


「初春……」


 涙子は、背中から初春を抱きしめた。


「ああっ~~ん! かわいいこと言ってくれちゃって! ご褒美に全身くまなく拭いてあげる~!!」


「え・えー! 佐天さん!! 手の届くところは、自分で拭きますから~」


 初春は、涙子の抱擁から逃げようとするが―― と、とつぜん部屋の明かりが消えた。


「え! 停電!?」


 それは美琴が引き起こした停電(ブラックアウト)だった。