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『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol2.1c

2012-01-24 10:04:46 | とある化学
一章:Ramen Wars Ⅱc《ラーメン戦争2c》


 「人口は幾何学級数という比例で増加するが、食物は等差級数でしか増加しない。そのための食物の奪いとなり、強者は勝って生き、弱者は敗れて滅びる」--チャールズ・ロバート・ダーウィン




 木山 春生が、とつぜん服を脱ぎだしたことに、研究員はたじろぎうろたえる。


「な・何をするんですか!? き・木山先生!!」


「何を…… と言われても、火を使ったのでね。少々、暑くて汗をかいてしまったのだよ」


 彼女は、ブラウスを脱ぎ終えて上半身はブラジャーだけとなり、そしてすでにスカートのファスナーに手をかけていた。


「し・し・し・失礼しましたぁーーーーーっ!!」


 若き研究員は悲鳴のような言葉を残してラボから逃げ出していく。


「おい…… きみ、待ちたまえ。実験の…… 途中で逃げ出すとは…… 失礼なのは、どちらなのか……  最近の研究員の質も落ちたものだな」


 木山 春生は、研究員が置いていった調査資料とカレーラーメンの入ったビーカーを回収しつつ、脱いだ服を着て、ラボ内の空調機の温度を下げる。


「 ……そうか、こうすれば、良かったのか? まぁ…… 個人における習慣というものは、なかなか改めるのが難しい…… ということか」


  彼女は改めていすに座り、ビーカーの中のカレーラーメンを食べ始めた。


「そういえば、彼は、わたしを先生といっていたが、わたしは先生ではない…… ただの研究員に過ぎない…… しかし、先生と呼ばれるのは、何年ぶりだろうか……」


 ふっと、見上げた彼女の視線は、遠い過去を思い出すかのように、遠くを見つめていた。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol2.1b

2012-01-24 05:23:31 | とある化学
一章:Ramen Wars Ⅱb《ラーメン戦争2b》


 「たいていの人は、剣によるよりも、飲みすぎ、食いすぎによって殺される」--ウイリアム・オスラー




 木山 春生が、カレーラーメンを完成させたとき、実験室ラボのドアを叩くものがあった。


「あの…… 調査資料をお持ちしたんですけど」


「うむ? ああ…… 入りたまえ」


 それは、木山 春生が研究員に依頼しておいた調査書を持ってきたものだった。


「ご依頼されていた『RSPK症候群の発生原因とAIM拡散力場に関する調査』をまとめたものをお持ちしました」


「ああ…… ご苦労さま。そこに置いておいてくれないか。ああ…… それと、ちょうど良かった。実験を、君に手伝ってもらいたいのだが。いいかな……」


「何でしょうか?僕にできることなら、お手伝いします!」


 新入の研究員にとって、日頃からラボでおこなわれている実験に大きな関心を持っているのだが、なかなか深く関わることができずにいる。そのような実験の手伝いができることに大いに喜んだ。


「助かるよ…… 実験結果を第3者の視線から評価してもらいたいんだ……」


 木山 春生は、先ほど完成させたばかりの、あのカレーラーメンの入ったビーカーを持ってきた。


「これを食してくれたまえ」


「えっ! 何ですか? それは!!」


「これかい? これは味覚による共感覚性(シナスタジア)の実験だよ」


 共感覚性(シナスタジア)とは、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚現象をいい、彼女が作り出そうとしている『幻想御手(レベルアッパー)』の完成には欠かせない研究対象なのだ。


「でも…… 人体に悪影響とか、ないんでしょうか?」


 研究員は、木山 春生が手に持つビーカーの中身に恐れを抱きながら質問した。そして、自ら協力を申し出てしまったことに心から後悔した。


「たいじょうぶ…… ちゃんと消毒してあるさ」


 不気味な笑みを浮かべつつ、ビーカーを研究員に手渡した。


「 わ…… わ・わかりました。しょ・食させていただきます」


 彼は覚悟を決めた。実験の内容はともかく、実験自体に関わることが、とても貴重な体験になると考えてのことだった。


「じゃ…… 頼むよ。おっと…… 少し待ってくれたまえ。」


 そう言った木山 春生は、その場で白衣を脱ぎ、ブラウスのボタンをはずし始めた。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol2.1a

2012-01-23 12:39:12 | とある化学
一章:Ramen Wars Ⅱa《ラーメン戦争2a》


 『私はうまいスープで生きているのであって、立派な言葉で生きているのではない』--モリエール




 深夜のAIM解析研究所―― 


 AIM拡散力場を研究する機関であり、AIM拡散力場とは能力者が無意識に周囲へ発している微弱な力のフィールドのことで、これを計測することにより『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』や能力自体への解析や探索、干渉が可能とされている。


 そして、いま研究所のラボで、一人の女性が何かの実験をおこなっていた。


 均整のとれたプロポーションに栗色のロングヘアといった美人なのだが、たぶん日ごろから研究に没頭しているからなのか、残念なことに髪は、ボサボサで目の下にクマつくていった。あまり人目を気にしない性格らしい。


 彼女の名前は木山 春生。大脳生理学の研究者であり、AIM拡散力場を専攻している。


 なんらかの化学の実験のようで、彼女がいる台には、大型ビーカー、三角フラスコ、ろうと、ガスバーナーなどが、ところ狭しと並んでいて、まるで学校の理科実験室のようだった。


「そろそろ、沸とうしたようだ……」


 三脚に乗せて、バーナーで熱している大型ビーカーの中に入れた温度計が100度を指していた。


「たしか…… 次はこれを入れるのだったな……」


 彼女は、実験台のすみに置いてあったインスタントラーメンの袋をやぶり、中身をビーカーへと入れた。



【インスタントカレーラーメン】 材料 (1人分)
  インスタントラーメン(チキンラーメン) 1個
  カレー粉 ひとかけら
  刻み葱 適量


【作り方】
  1.沸騰した鍋にインスタントラーメンを入れ2分茹でる。
  2.一度火を止め麺をほぐしながら、カレー粉を入れよくかきまわす。
  3.中火で1分くらい煮る。
  4.どんぶりにスープの元を入れ、なべを注ぎながらよく混ぜる。
  5.最後に刻み葱を好みの量をトッピングして完成!


「う…… カレー粉などというものが無いな…… まあ、これで代用しよう」


 彼女は、今日の日中に公園の自動販売機で買っておいたスープ・カレーのジュースを入れたのだった。


 そして待つこと1分。ストップウォッチで時間を計りながら、ガラス棒でビーカーの中身をかき混ぜた。


「こんなものかな…… さあ、出来上がりだ……」







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol2.0a

2012-01-23 11:34:53 | とある化学
序章:Depression of Molecular Gastronomy Ⅱ《分子美食学の憂うつ2》


 「食卓の周りに座っている子供達がそのまま全人生なのである。
我々は彼らと同じに人生の最も些細な心掛かりと最も輝かしい希望とを再び見いだす」--フランソワ・モーリアック


 食育とは、様々な経験を通じ、「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることである。


 マクロビオティック―― 日本では「正食」とも呼ばれる「マクロビオティック」という言葉は、3つの部分から成り立ち、MACRO(大きな)・BIO(生命の)・TIQUE(技術)をつなげ、「生命を大きな観点から捕らえた健康法」という意味を表している。
 内容は、食生活法・食事療法の一種であり、第2世界大戦前後に食文化研究家の桜沢如一が考案し「玄米菜食」、「穀物菜食」、「自然食」などと呼ばれる玄米を主に、野菜や漬物や乾物などを副食とすることを基本とした独自の食事法のことである。
 



 ここ総人口230万人弱、東京西部の大部分を占める『学園都市』の食べ物は、『農業ビル』と呼ばれる植物工場や畜産工場施設によって人工栽培、人工飼育、クローン食品などが作られ科学的に管理された都市単体の自給自足で成り立っていた。


 そしてここに暮らす全ての学生は親元を離れ、自立を余儀なく強要され、一部を除き、彼らは自炊している。 


 そんな学園都市に生きる者たちの日常を描いた物語である―― "調理"と"化学"が交差するとき、新たな物語が始まる。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.5

2012-01-21 23:27:20 | とある化学
終章:Fatal Reencounter《運命的な再会》


 「この世の中で本当に喜びを与えてくれるものはいくつあろうかと指折り数えてみると、決まって最初に指を折らねばならぬものは食べ物であることに気づく。だから、家でどんなものを食べているかを見ることは、人の賢愚を知る確実なテストである」--林 語堂




 停電(ブラックアウト)の影響が残る翌日――


  御坂 美琴と白井 黒子は、学区内の病院にいた。『連続虚空爆破(グラビトン)』事件を引き起こした張本人、介旅 初矢が昏睡状態に陥ったとの報告を受けて急ぎ駆けつけてきたのだ。


「あの…… あたし、そいつの顔を思い切り、ぶん殴ちゃったんですけど……」


 美琴は控えめに右手を上げて、担当の医師に質問した。


「いや、頭部に損傷は見受けられません。というか、そもそも彼の体には、どこにも異常がないのです。ただ意識だけが失われて……」


 医師はカルテを見ながら答える。


「原因不明…… というわけですのね」


 黒子が医師の言葉を引き継いだ。


「ただおかしなことに今週に入ってから、同じ症状の患者が、次々と運ばれてきていて……」


「ええっ!?」


 美琴と黒子は驚きを隠せずにいた。医師が説明するカルテの患者には、今まで二人が関わった事件の首謀者たちの顔が並んでいたからである。


 医師の説明は続いた。
 
「情けない話ですが、当院の施設とスタッフには手に余る状態ですので、外部から大脳生理学の専門家をお呼びしました」


 ――と、彼らの元に近づく靴音が響く。


「お待たせしました。水穂機構病院院長から招へいを受けて来ました。木山 春生です」


「ご苦労様です」


 医師のねぎらいの言葉の先に、両手を白衣のポケットに突っ込み、栗色のロングヘアに目の下にクマつくった、どことなく疲れきった女性が立っていた。


「え! あなたは……」


 美琴は、あとに続く言葉を呑み込んだ。


 そう、目の前に立っている女は、数日前、道に迷っていたところを助けてあげた人物であり、そして、あの都市伝説の一つ『脱ぎ女』だったからだ。
 この再会は、『幻想御手(レベルアッパー)』事件における重要な出会いとなる―― "調理"と"化学"が交差するとき、新たな物語が始まる。   (完)