塩田千春「夢のあと」
「蜘蛛(クモ)」に対して、どんなイメージを持ちますか。
「不気味だよ。好きじゃないな」と答える人が少なくないですね。でも、そう答えた人も、クモが糸で織りなす繊細で幾何学的な網の美しさには驚かれるでしょう。
豊田市美術館で開催中の蜘蛛に魅せられたアーティストたちの展覧会「蜘蛛(クモ)の糸」展を見てきました。会期は作品の一部を入れ替え12月25日まで。
冒頭に掲載した展示ホールいっぱいに使って、10着の白いドレスを縦横に幾重にも張り巡らせた黒い糸で覆う塩田千春の大作「夢のあと」を皮切りに、絵画、彫刻、工芸、写真、映像、絵本、インスタレーションといった、多岐にわたる約80人の作品計158点が並びます。
絵画は草間彌生、上村松園、浅野弥衛、速水御舟、熊谷守一、イケムラレイコ、小茂田青樹、狗巻賢二、鴨居玲ら。それぞれ、蜘蛛や蜘蛛の巣を見事に描き込んでいます。鉄粉で約80枚ものクモの巣を描いた1点も。
2016年度の文化勲章を受章した世界的な現代アートの巨匠・草間彌生の作品は、黒の下地に白い層を重ねた210.3×414・4㌢の灰色の面に無数の白い弧を描いた「No. AB.」と題する大作(豊田市美術館所蔵)。制作は1959年。大器を思わせる30代に入ったばかりの作品です。
芥川龍之介が1918年に発表した小説、題名もズバリ「蜘蛛の糸」を掲載した児童雑誌「赤い鳥」創刊号の復刻版のページを読むこともできました。鴨居玲が芥川の「蜘蛛の糸」から描いた絵も展示されています。
写真では森村泰昌の「セルフポートレイト(女優)/ワカオアヤコとしての私」、荒木経惟の「緊縛シリーズ」の美しさが目を引きます。
工芸では、蜘蛛や蜘蛛の巣を蒔絵などで入れた根付や印籠、皿、小柄、太鼓、手箱、香箱、硯箱、煙管筒などが並んでいます。江戸から明治にかけての職人たちの傑作には改めて驚きました。
それにしても、全く違うジャンルのアートが違和感なく見事にコラボされた展覧会だな、という印象でした。
これも、鉄より強いと言われる「蜘蛛の糸」の成せる業でしょうか。
余談ですが、僕は少年時代にクモを飼っていたことがあります。友だちと蜘蛛を木の棒の上で戦わせるためです。周辺の樹木などに網を掛けた体調3㌢ほどの女郎蜘蛛(ジョロウグモ)のメス(オスはずっと小さいのです)を何匹も捕って来て庭へ放ち、大きく強くするためにセミやコガネムシを与えたものです。
また、絵を習い始めて蜘蛛の網を描いてみたいな、と何枚かカメラに収めことがあります。「僕の水彩画力では無理」とあきらめましたが、いずれ挑戦したいと思っています。
クモは寒くなると姿を消しますが、今回の「蜘蛛の糸」展に出かける前に庭を探してみたら、まだ下の写真のように小さなクモがしっかりと網を張っていました。
小茂田青樹「虫魚画巻」
熊谷守一「地蜘蛛」
鴨居玲「蜘蛛の糸(芥川龍之介より)」
猪瀬光「ドグラ マグラ#10 大阪1983」
旭玉山「葛に蜘蛛の巣図文庫」
寒くなったのに庭で網をかけてエサを待つ蜘蛛