(2024年2月4日投稿)
【はじめに】
今回のブログでは、次の参考書をもとに、古文の読解について解説してみたい。
〇山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]
この参考書では、古文読解のためのワザが85個記してある。
その中から、『源氏物語』を出典とする問題を中心にみてゆきたい。
その他に、『枕草子』『徒然草』『蜻蛉日記』『大和物語』『平家物語』『宇治拾遺物語』などの出典の問題も加えてみた。
【山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』(語学春秋社)はこちらから】
山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社
山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]
【目次】
山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』
【目次】
はじめに
本書の特徴と使い方
第一章 主語発見法
テーマ1 「は・が・を・に」は補ってよし!
テーマ2 本文にある「は・が・の」に騙されないで!
テーマ3 主語にあたる部分が丸ごとない場合
テーマ4 敬語もヒントに使おう!
テーマ5 男の子ワードと女の子ワード
テーマ6 お役立ち! 天皇ご一家専用ワード
第二章 人物整理法
テーマ1 埋もれた人物の発見法
テーマ2 主人公発見法
テーマ3 人間関係を整理する
第三章 状況把握法
テーマ1 舞台を意識せよ!
テーマ2 位置関係を意識せよ!
テーマ3 異空間を意識せよ!
テーマ4 場面の変わり目をつかもう!
第四章 具体化の方法
テーマ1 まずは正確に訳すこと
テーマ2 場面に応じた意味把握①~曖昧ワード編~
テーマ3 場面に応じた意味把握②~恋愛ワード編~
テーマ4 古文特有の比喩表現
テーマ5 指示内容の具体化
テーマ6 省略内容の補い
テーマ7 発想パターンと行動パターン
第五章 本文整理法
テーマ1 カギカッコ「 」をつけよ!
テーマ2 挿入句にまどわされないで!
テーマ3 内容を整理する
テーマ4 主題発見法
第六章 和歌読解法
テーマ1 5/7/5/7/7で区切って直訳!
テーマ2 和歌修辞
テーマ3 和歌の構造
テーマ4 和歌に情報をつけ足す
テーマ5 和歌の贈答
テーマ6 引き歌の処理法
第七章 入試問題ヒント発見法
テーマ1 出題者が示すヒントのありか
テーマ2 本文が示すヒントのありか
巻末付録
読解のワザ・チェックリスト
用言活用表
助動詞一覧表
助詞一覧表
主な敬語動詞一覧表
主な文法識別一覧表
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・はじめに
・前後で主語が変わりやすいパターン
・「奏す」または「啓す」で主語判別~『枕草子』より
・場面に応じた意味把握①~曖昧ワード編~
・状況把握法~『蜻蛉日記』より
・主語発見法~『大和物語』より
・状況把握法 位置関係を意識~『源氏物語』より
・本文整理法~『源氏物語』より
・和歌読解法~『源氏物語』より
・入試問題ヒント発見法~『源氏物語』より
・恋愛ワード ~『大和物語』より
・「いみじ」という古文単語 ~『徒然草』より
はじめに
・この本は、「古文の読解力を身につけたい」「正しく読解できるようになる方法を知りたい」という人のために書いたものだという。
みなさんは、古文を「何となくこんな感じの意味かなあ」などと、「雰囲気」で読んでいないだろうか。言い方を変えると「文脈」だけを頼りに読んでいないだろうか。
しかし、これだと文脈把握が間違っていたら、読解も間違うことになる。
そこで、本書では、「はじめて見る本文でも読めるようになる確かな『読解力』を身につける」ために、「読解のワザ」を紹介しているという。
入試のほとんどが、受験生にとっては「はじめて見る本文」であるから、これはまさに入試に直結する読解力養成のための本といえるとする。
「古文のプロ」が時間と労力をかけて導き出した、正しく読解するためのいわば“一般公式”が「読解のワザ」であるそうだ。すべての「ワザ」」は、プロの感覚と知恵と経験に基づいたものである。
また、本書は、読解の最も根底的な部分を中心に話している。
言い方を変えると、どんな文章にでも適用するような読解力を身につけてもらおうと思って話している。どんな文章にでも使えるように説明しているので、学んだワザを、他の文章にも使って、自分のモノにしていってほしいという。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、ii頁~iii
頁)
例えば、「読解のワザ」には、次のようなものがある。
ワザ29 舞台特定のワザ
働く女性が作者のノンフィクション作品(日記・随筆)なら、職場が舞台!
ワザ31 位置関係から状況をつかむワザ
登場人物の位置関係をチェックして、“見える”範囲を特定せよ!
ワザ75 本文周囲にあるヒント発見・活用のワザ
「注」には、本文読解のヒントだけでなく、問題を解くヒントもある!
ワザ76 本文周囲にあるヒント発見・活用のワザ
「設問文」にさりげなく含まれる、主語のヒントを見逃さないで!
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、99頁、103頁、248頁~249頁)
前後で主語が変わりやすいパターン
ワザ6 接続助詞に注目するワザ②【パターン的中率70%】
☆前後で主語が変わりやすいパターン
Aさんは……を、(に、ば、)(Bさんは)……
・接続助詞「を・に・ば」が出てくると、多くの場合、そのタイミングで主語が変わる。
それまで「Aさん」が主語だったとしたら、「を・に・ば」の後は、普通「Aさん以外の誰か」が主語になる。
※古文では、一つの場面にはたいてい2~3人ぐらいしか登場していない。
※<ちょっと注意>
助詞の「を」・「に」には接続助詞の他に格助詞も存在する。
●助詞「を・に」の識別
①……名詞(または連体形)+を、(に、)……→格助詞
このまま「を」(または「に」)と訳しても、ヘンではない場合
②……連体形+を、(に、)……→接続助詞
「を」(または「に」)のままだとヘン。
「のに」「ので」「~すると」だと自然な場合
※つまり、「を」と「に」の訳を変えるときは主語も変わりやすい!
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、18頁~20頁)
【練習問題】
次の傍線部の主語を答えなさい。
帝、篁(たかむら)に、「読め」と仰せられたりければ、「読みは読みさぶらひなむ。されど恐れにてさぶらへば、え申しさぶらはじ」と奏しければ、「ただ申せ」と、たびたび仰せられければ、…… (宇治拾遺物語)
(1) 仰せられたりけれ
(2) 奏しけれ
(3) 仰せられけれ
<注>
・「篁」は、小野篁という人の名前。
・誰かが勝手に立てた立て札の、暗号めいた言葉について話している場面である。
・仰せられたりけれ(おっしゃった)
・恐れにてさぶらへば、(おそれ多いことでございますので)
・奏しけれ(申しあげた)
【読解のヒント】
・「仰せられたりければ、」の接続助詞「ば」の前後で主語が変わることに注意せよ。
・「奏しければ、」の接続助詞「ば」の前後で主語が変わることに注意せよ。
【答】
(1) 仰せられたりけれ~帝
(2) 奏しけれ ~篁
(3) 仰せられけれ~帝
【現代語訳】
・帝が、篁に、「読め」とおっしゃったので、(篁は)「読むことは読みましょう。でも、おそれ多いことでございますので、(口に出して)申しあげることはできそうにありません」と(帝に)申しあげたところ、(帝は)「かまわないから申しあげろ」と、何度もおっしゃったので、……
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、21頁~22頁)
「奏す」または「啓す」で主語判別~『枕草子』より
天皇や天皇ご一家が目的語にある専用ワードがある。
古文単語 意味
奏す 天皇・もと天皇に申しあげる
啓す 天皇の正妻(中宮)・皇太子(東宮)に申しあげる
※「奏す」も「啓す」も「言ふ」の謙譲語
「奏す」「啓す」は天皇や天皇ご一家に言うときだけに限定される。
【練習問題】
次の傍線部の主語を答えなさい。
村上の前帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、様器にもらせ給ひて、梅の花をさして、月のいと明きに、「これに歌よめ。いかがいふべき」と兵衛蔵人に賜はせたりければ、「雪月花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。(枕草子)
<注>
・村上の前帝の御時――第六十二代村上天皇の御治世
・兵衛蔵人(ひやうゑのくらうど)――村上天皇に仕えた女房
・「雪月花の時」――『白氏文集(はくしもんじゅう)』の漢詩句を引用した言葉。
・いみじう(とてもたくさん)
・もらせ給ひて(盛りなさって)
・いかがいふべき(どのように詠むだろうか)
・賜はせたりけれ(お与えになった)
【解説】
☆最初は「雪を器に盛りつけたのが、村上天皇の治世の誰なのか、はっきりしない。
・「様器にもらせ給ひて」の「せ給ひ」に尊敬の助動詞「す」と尊敬の動詞「給ふ」を重ねて用いた二重尊敬(または最高敬語)と呼ばれる表現がある。
⇒これは「一つの尊敬表現では足りない!」と作者などが思ったときに用いる表現であるから、普通、かなり高い身分の人に対して用いる。
※でも、だからといって、主語を「村上の前帝だ!」と決めつけてはいけない。
「村上の前帝の御時」には、村上の前帝だけでなく、天皇ご一家の方々など他にもたくさん身分の高い人はいるのだから。
※「て」があるから、その後もずっとその同じ人物が主語だとわかるのであるが、でも、それが誰なのかが特定できない。
〇そこで、「奏す」が登場
・「奏す」は「天皇・もと天皇に申しあげる」という意味である。
⇒ここでは村上天皇のこと。
・「謎のAさんが兵衛蔵人に様器をお与えになったところ、兵衛蔵人が村上天皇に『雪月花の時』と申しあげた」と、ここで兵衛蔵人と村上天皇が会話していることが判明する。
※兵衛蔵人と村上天皇の2人以外には登場人物はいないようであったから、後は、ここから逆算して、謎のAさんは村上天皇だったことが明らかになると、山村先生は解説している。
【答】
村上天皇(村上の前帝)
【現代語訳】
村上天皇の御治世に、雪がとてもたくさん降っていたのを、(村上天皇はその雪を)様器に盛りなさって、(それに)梅の花を挿して、月がとても明るいときに、「これについて和歌を詠め。どのように詠むだろうか」と(おっしゃって)兵衛蔵人にお与えになったところ、(兵衛蔵人が)
「雪月花の時」と(『白氏文集』の漢詩句を引用して)天皇に申しあげたのを、(村上天皇は)たいそうおほめになった。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、42頁~45頁)
場面に応じた意味把握①~曖昧ワード編~
意味がたくさんあり、正反対の意味がある単語がある。
たとえば、「あはれなり」≪形容動詞≫
①しみじみと心を動かされる。
②しみじみとした情趣がある。
③さびしい。悲しい。つらい。
④かわいそうだ。ふびんだ。気の毒だ。
⑤かわいい。いとしい。
⑥情が深い。愛情がゆたかだ。
⑦尊い。すぐれている。
などである。
困るのは、「かわいい・いとしい」などのニッコリするような心情や状態を表す意味と、「悲しい・かわいそう」などの泣きたくなるような心情を表す意味、いわばプラスの意味とマイナスの意味が混在していることである。
他にも、「いみじ」でも、そうである。
いみじ≪形容詞≫
①(不吉なほど)はなはだしい。
②すばらしい。よい。嬉しい。
③ひどい。恐ろしい。悲しい。
(「ゆゆし」という形容詞も、だいたいこれと同じような訳が載っている)
これらはいずれも入試頻出重要単語である。
このように、意味に大きな幅のある単語は、訳だけ覚えていても、実際にはなかなか最適なものを選べない。入試では、辞書に載っているいくつかの訳を選択肢にあげている場合も少なくないから、暗記だけでは不十分。
ワザ40 意味の特定法①
意味に大きな幅がある単語は、まずはプラス(+)の意味かマイナス(-)の意味かを荒づかみ!
いきなり細かい感情の違いまでつかもうとせず、まずは、だいたいの方向性を文脈からキャッチせよ。その上で、選択肢があれば、それをヒントに、細かいところまでつめていけばいい。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、134頁~135頁)
主語発見法~『大和物語』より
練習問題 『大和物語』より
次の文章中にある波線部の主語は誰か、答えなさい。
先帝の御時に、右大臣殿の女御、上の御局にまうでのぼり給ひてさぶらひ給ひけり。
「おはしましやする」とした待ち給ひけるに、おはしまさざりければ、
ひぐらしに君まつ山のほととぎすとはぬ時にぞ声も惜しまぬ
となむ聞こえ給ひける。
(注)
先帝(せんだい)――醍醐天皇。
上の御局(うへのみつぼね)――宮中の清涼殿にある部屋。
【答】 醍醐天皇(先帝)
【現代語訳】
醍醐天皇の御治世に、右大臣殿の女御が、上の御局に参上なさって控えていらっしゃった。
「(天皇が)いらっしゃるか」と(女御が)心待ちにしていらっしゃったが、(天皇が)いらっしゃらなかったので、(女御が)
一日中、醍醐天皇を待つ私は、(天皇が私を)たずねてくれないときには、松山のほととぎすのように、声も惜しまず泣くことです。
と申しあげなさった。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、59頁
~61頁)
主語発見法 主語がかわる 「に」「ば」の具体例~『枕草子』より
ワザ18 作品別人物整理のワザ② <枕草子>
何も書いていなくても、中宮定子はいます!
・『枕草子』は、清少納言が、女房として中宮定子にお仕えする中での出来事や感じたことなどを書き綴った平安時代の随筆(エッセイ)である。
・「女房」は「妻」のことではない。
身分の高い人にお仕えし、身の回りのお世話やお客様への応対などをする女性の家来である。
・『枕草子』の中で入試頻出なのは、いわゆる「日記的章段」と呼ばれる箇所。
“日記的”な箇所には、作者自身はもちろん登場する。
でも『枕草子』では、清少納言は、女房として定子のもとに、24時間住み込みで働く中で起こった出来事を書いているので、そこには、必ずといっていいほど、中宮定子もいるわけである。
⇒作者に加えて、中宮定子もレギュラーメンバーとして登場していることをしっかり覚えておくこと。
例題 『枕草子』より
次の文章中にある「 」はそれぞれ誰の発言か、答えなさい。
五月ばかり、月もなういと暗きに、「女房やさぶらひ給ふ」と声々して言へば、「出でて見よ。例ならず言ふは誰ぞとよ」と仰せらるれば、「こは、誰そ。いとおどろおどろしう、きはやかなるは」と言ふ。(枕草子)
【解答】
「女房やさぶらひ給ふ」~複数で来訪した誰かが
(「声々(=口々)なので複数の人達、作者でも定子でもないということ」
「出でて見よ。例ならず言ふは誰ぞとよ」~定子様が
(作者に命令。尊敬語使用もヒント)
「こは、誰そ。いとおどろおどろしう、きはやかなるは」~私(=作者)が
(尊敬語不使用もヒント)
【現代語訳】
五月ぐらいのこと、月もなくとても暗い夜に、(来訪した誰かが)「女房はお控えしていらっしゃるか」と口々に言うので、「(あなた=作者が)出て見よ。いつもとは違って言うのは誰か?と思うのよ」と(定子様が)おっしゃるので、「これは、誰ですか。とても仰々しく、目立つ声で言うのは」と(私が来訪者に)言う。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、64頁
~66頁)
状況把握法~『蜻蛉日記』より
第三章 状況把握法
次の文章中にある傍線部の主語は誰か、それぞれ答えなさい。
練習問題 『蜻蛉日記』より
かくありきつつ、絶えずは来れども、心のとくる世なきに、荒れまさりつつ、来ては気色悪しければ、「倒るるに立山」と立ち帰る時もあり。
(注)
「倒るるに立山(たちやま)」――「倒る」には「閉口する」意がある。険しい立山(現在の富山県にある立山(たてやま))は登る人が倒れてもなお立っていることから、閉口して立って出て行くことを戯(たわむ)れ半分に言ったもの。
【答】
「来れ」も「立ち帰る」もともに、主語は「兼家」(作者の夫)
※『蜻蛉日記』は“専業主婦”藤原道綱母が作者。作者の自宅が舞台。
そこに住んでいる人は、自宅に「来る」という言い方はしない。
では、誰が来たのか。「絶えず」来るということに注目すること。作者と相当親密な関係の人であるはず。この人物は夫兼家(かねいえ)と考えるのが自然である。
作者と兼家は夫婦であるが、同居婚ではなく通い婚なので、夫兼家は「来る」なのである。
【現代語訳】
(兼家は)このように(他の女性のもとに)出かけつつも、(兼家は)絶えず(私のもとにも)来るけれども、(私は)心がうちとけるときはないので、(2人の関係は)ますます荒れていき、
(兼家が私のもとに)来ては(私は)機嫌が悪いので、「倒れても立山」と(冗談を言いながら、兼家が)帰るときもある。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、100頁
~101頁)
状況把握法 位置関係を意識~『源氏物語』より
第三章 状況把握法 テーマ2位置関係を意識せよ!
ワザ31 位置関係から状況をつかむワザ
登場人物の位置関係をチェックして、“見える”範囲を特定せよ!
・舞台を意識することに加えて、わかる範囲で、登場人物の位置関係も意識してみよう。
特に姿が見えているのか、見えていないのか、はポイントである。
例題 『源氏物語』より
次の文章は、光源氏がある邸に初めて泊まった夜の場面です。
(源氏は)やをら起きて立ち聞きたまへば、ありつる子の声にて、A「ものけたまはる。いづくにおはしますぞ」と、かれたる声のをかしきにて言へば、B「ここにぞ臥したる。客人は寝たまひぬるか。……」と言ふ。寝たりける声のしどけなき、いとよく似通ひたれば、妹と聞きたまひつ。
(源氏物語)
(注)
妹――古語の「妹」は、男の子から見た女のきょうだいのことで、姉にも妹にも用いられる。
【解説】
・A、Bの会話文を「源氏に話している」とか、「源氏が話している」などと誤解したりしなかっただろうか。
冒頭にあるように、源氏は「立ち聞き」しているところである。
周囲の人間に気づかれては、「立ち聞き」にならない。したがって、会話をしている人達は、源氏が立ち聞きしていることに気づいていないと考えるのが自然。
・Bで「ここにぞ臥したる(=ここで横になっている)」とあるのも、源氏のことではない。
なぜなら、続く「客人(まらうど)は寝たまひぬるか」の「客人」こそが源氏のことで、「客人(=源氏)はお休みになったのか?」と聞いているのであるから、源氏がどこで何をしているか分かっていない人の発言だと判断できる。
・また、源氏がBの会話主でもない。
「ボクはここにいるよ」と言ってしまったら、「立ち聞き」の意味がなくなるから。
【現代語訳】
(源氏は)そっと起きて立ち聞きなさると、先ほどの子の声で、(先ほどの子が姉に)「もしもし。(あなたは)どこにいらっしゃるの?」と、かすれた声のかわいらしい声で言うと、(姉が先ほどの子に)「(私は)ここで横になっている。客人(=源氏)はもう寝なさったか。……」と言う。寝ていた声のしまりのない所が、(先ほどの子と)とてもよく似通っているので、(先ほどの子の)姉だと(源氏は)お聞きになった。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、103頁
~105頁)
本文整理法~『源氏物語』より
第五章 本文整理法
テーマ1 カギカッコ「 」をつけよ!
ワザ56 カギカッコの補いのワザ③
「とて」「など」の直前にも、終わりのカギカッコをつけよ!
例題 『源氏物語』より
次の文章は、『源氏物語』の一節で、お仕えしていた主人を亡くした女の様子を、源氏の家来である惟光が源氏に報告している場面である。
本文中に適宜「 」と『 』をつけなさい。
添ひたりつる女はいかにとのたまへば、それなんまたえ生くまじくはべるめる。我も後れじとまどひはべりて、今朝は谷に落ち入りぬとなん見たまへつる。かの古里人に告げやらんと申せど、しばし思ひしづめよ、事のさま思ひめぐらしてとなん、こしらへおきはべりつると語りきこゆるままに、いといみじと思して、我もいと心地なやましく、いかなるべきにかとなんおぼゆるとのたまふ。(源氏物語)
【ヒント】
・「と」や「我」をヒントに使う。
【図解】
「添ひたりつる女はいかに」(源氏が)とのたまへば、(惟光は)「それ(添ひたりつる女のこと)なんまたえ生くまじくはべるめる。『我(添ひたりつる女のこと)も後れじ』と(女が)まどひはべりて、今朝は『(女が)谷に落ち入りぬ』となん(私[惟光]は)見たまへつる。(女が)『かの古里人に告げやらん』と(私[惟光]に)申せど、(私[惟光]が)『しばし(あなたは)思ひしづめよ、事のさま思ひめぐらして』となん、こしらへおきはべりつる」と(源氏に)語りきこゆるままに、(源氏は)「いといみじ」と思して、(源氏は)「我も(源氏のこと)いと心地なやましく、『いかなるべきにか(あらむ)』となんおぼゆる」と(惟光に)のたまふ。
【現代語訳】
「付き添っていた女(の様子)はどうだ?」と(源氏が)おっしゃると、(惟光は)「その女が
またもう生きていられそうにないように見えます。『私も後を追って死にたい』とうろたえて
おりまして、今朝は『(女が)谷に飛び込んでしまった』と私は思いました。(女が)『あの(ご
主人様の)古里の人に(ご主人様の死を)知らせにやろう』と申しますけれど、(私は)『し
ばらく気をしずめよ。事態をよく考えて』と、なだめておきました」と(源氏に)語り申し
あげるにつれて、(源氏は)「実に大変なことだ」とお思いになって、(源氏は)「ボクもとて
も気分が悪く、『(この先)どうなるのだろうか』と思われる」と(惟光に)おっしゃる。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、180頁
~182頁)
本文整理法~『源氏物語』より
第五章 本文整理法
テーマ2 挿入句にまどわされないで!
・「挿入句」は、話の本筋とは別に、ちょっとした感想や一言コメントのようなものを、文の途中に入れ込んだフレーズのことである。
現代語であれば、聞いた瞬間に、「それは前置きで、この後に言いたいことが出てくるぞ」などとわかるが、古文の場合、訳すのに必死だから、そこまで判断できず、話の本筋と挿入句が混乱してしまいがちである。
例題 『源氏物語』より
次の文章中から、挿入句を抜き出しなさい。
(出家してしまった女の子を)うち見るごとに涙のとめがたき心地するを、「まいて心かけたまはん男はいかに見奉りたまはん」と思ひて、さるべき折にやありけむ、障子の掛け金のもとにあきたる穴を教へて、紛るべき几帳など引きやりたり。(源氏物語)
(注)掛け金――鍵のこと。
【解答】
・さるべき折にやありけむ
※疑問の係助詞「や」と過去推量の助動詞「けむ」で係り結びが成立し、一つのまとまったフレーズになっている。
※話の本筋は、出家してしまった女の子に好意を抱く男の子に同情した人が、「障子」に穴があいている所を教えて、邪魔な物を取り除いて女の子の姿をのぞき見(こういうのを「垣間見(かいまみ)」と言う)させてあげるというもの。
人目もあるから、普通はそんな機会はなかなかないはず。そこで、「さるべき折にやありけむ(=それにふさわしい機会であったのだろうか)」というフレーズを挟み込んでいる。
・古文の挿入句は、読者が疑問に思いそうなことを先回りして言うケースが多いようだ。
「そういう機会であったのだろうか」とか「どうしてだろうか」などと、答えにならないことを言いながらも、読者の疑問に配慮することで、突然の展開にも読者がついて来られるようにする一面がある。
・ちなみに、先ほどの問題文中の「いかに見奉りたまはん」のところも、「疑問語~推量」の形であるが、文末に位置しており、文の途中ではない。内容的にも話の本筋にあたる箇所であるので、挿入句ではない。
【現代語訳】
・(出家してしまった女の子を)ちらっと見るたびに涙が止めがたい気持ちがするので、「まし
て(その女の子に)好意をよせなさる男の子はどのように(女の子のことを)拝見なさるだ
ろうか」と思って、それにふさわしい機会であったのだろうか、障子の鍵の近くにあいた穴
(があるの)を(男の子に)教えて、(女の子の)姿を紛らわすはずの几帳などを、(のぞき見しやすくなるように)取り除いておいた。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、185頁
~187頁)
和歌読解法~『源氏物語』より
第六章 和歌読解法
テーマ6 引き歌の処理法
ワザ72 和歌攻略のワザ⑨
和歌の一部の引用は、和歌一首丸ごとの引用と同じ!
・古文の文章では、和歌の一部を引用することがよくある。
中でも、昔の有名な歌の一部を引用したものを「引き歌」という。
入試では、引き歌を用いているところを問うこともかなりあるので、処理方法をおさえておこう。
例題 『源氏物語』より
次の文章中の傍線部の意味として、最も適当なものを次の①~④の中から選びなさい。
「すべてつれなき人にいかで心もかけ聞こえじ」と思し返せど、「思ふもものを」なり。
(源氏物語)
(注)思ふもものを――「思はじと思ふもものを思ふなり言はじと言ふもこれも言ふなり」を踏まえた表現
①あの人のことを思うまいと思っているのも、あの人のことを思っているからだ。
②他人がどう思っているかと気に病むのは、自分に自信がないと思っているからだ。
③自分に猜疑心を持つのは、ものの道理を理解しようと思っていないからだ。
④あの人が私のことを思っていてくれるかどうかを考えるのは、あの人を大切に思っているからだ。
【解答】①
【解説】
・ここでは、「思ふもものを」の部分が、「思はじと思ふもものを思ふなり言はじと言ふもこれも言ふなり」の引用であることが、(注)によってわかる。
・その歌を丸ごと訳してみよう。
思はじと……「思うまい」と
思ふもものを……思うことも物を
思ふなり……“思う”(ということ)である。
言はじと言ふも……「言うまい」と言うことも
これも言ふなり……これも“言う”(ということ)である。
※「もうあの人のことなんか考えないことにする」と思っている時点で、その人のことを実は考えていることであろう。「あの人のことを考えない」ということを考えているわけだから。
同様に、「もうこれ以上口にすることはやめる」と言うということは、「もう言わない」ということを口にしているわけだろう。本当に「言わない」のは、話題にもしないことだから。
つまり「もう考えない」「もう言わない」と思ったり言ったりしているうちは、まだふんぎりをつけられないでいるということだよね、というのが歌の内容。
⇒この歌の内容を正しくふまえているのは、選択肢①のみ。
【現代語訳】
・「もういっさい薄情なあの人に(私は)どうしても心もおかけするまい」と思い返しなさるけ
れど、(まさに)「思ふもものを[=『(もう)思うまい』と心に思うことも(実は)物を(=その人のことを)思っているということである。また、『(もう)言うまい』と口に出して言うことも、これも言っているということである]」(と同じ状態)である。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、240頁
~243頁)
入試問題ヒント発見法~『源氏物語』より
第七章 入試問題ヒント発見法
テーマ2 本文が示すヒントのありか
ワザ80 着眼箇所発見のワザ②
傍線部前後にあるカギカッコ「 」に着眼せよ!
例題 『源氏物語』より
次の文章は、『源氏物語』の一節で、須磨でさびしく過ごす源氏のもとに、京から使者が手紙を届ける場面である。
読んで後の問いに答えなさい。
折からの御文、いとあはれなれば、御使さえ睦ましうて、二三日据えさせたまひて、かしこの御物語などせさせて聞こしめす。若やかに、けしきある候ひの人なりけり。かくあはれなる御住まひなれば、かやうの人も、おのづからもの遠からでほの見奉る御さま容貌(かたち)を、「いみじうめでたし」と涙落としをりけり。
問 傍線部「涙落としをりけり」とあるが、誰のどのような心情のあらわれか、説明しなさい。
【解答】
使者の、とてもすばらしい源氏の様子や容貌に対する感動のあらわれ。
【解説】
・「泣いているんだから、悲しいんだよな」と決めつけてはいけない。
悲しくて泣くときだけでなく、嬉し泣きだって悔し泣きだってあるから、きちんと本文に書いてあることから、心情を考えていくことが大切。
・傍線部の訳は「涙を落としていた」だけであるから、ここからは心情を特定できない。
新しく着眼箇所を探そう。
ここは直前の「 」に着眼せよ。
(直前だけでなく、直後にも注目し、「 」があったら、必ず着眼すること)
“「 」と言ふ”“「 」と思ふ”などに代表される「 」内には、口に出して言ったり、心の中で思ったりする具体的な“セリフ”がある。
・さて、着眼箇所「いみじうめでたし」を訳すと、「とてもすばらしい」となる。
何を「すばらしい」と思っているのかは、さらにその直前に「ほの見奉る御さま容貌(=
かすかに拝見する御様子・容貌)」とある。
この場面には、前書きより、源氏と使者がいることがわかる。
源氏の動作には尊敬語が使用され、使者の動作には尊敬語は使用されていないことは、冒頭文からも判明する。
この尊敬語の有無情報をここの着眼点に適用させると、謙譲語のみで尊敬語のない「ほの見奉る」の主語は使者、「御」という尊敬語を作るパーツのある「御さま容貌」は源氏の様子、となる。
つまり、「(使者が)かすかに拝見する(源氏の)御様子や容貌」となるわけである。
傍線部にも尊敬語はないので、主語は使者である。
⇒傍線部+直前「 」+さらにその直前部分をドッキングさせてみよう。
(使者が)かすかに拝見する(源氏の)御様子・容貌を、(使者は)「とてもすばらしい」と(思って)涙を落としていた。
※源氏は本来、使者が間近に見ることなどできないほど高い身分の人物である。
しかし、ここは須磨でさびしく過ごしている場面であるから、「かやうの人(=使者)も、おのづから(=自然と)もの遠からで(=遠くではなくて)ほの見奉る(=かすかに拝見する)」ことができるわけである。
このように、着眼箇所をきちんと設定した上で解くこと。
【現代語訳】
ちょうどそうした折のお手紙が、とてもしみじみとするので、(手紙だけでなくそれを届けて
くれた)御使者までもを慕わしく感じて、(源氏は使者を)二三日(須磨の邸に)おとめ置き
になって、(使者に)あちら(=京)のお話などをさせて(源氏は)お聞きになる。若々しく
て、雰囲気のあるお仕えの人であった。このようにしみじみとした思いになる(源氏の須磨
の)御住まいであるので、このような人(=使者)も、自然と(源氏との距離が)遠くはな
くてかすかに拝見する(源氏の)御様子や容貌を、(使者は)「とてもすばらしい」と(思って)
涙を落していた。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、260頁
~263頁)
恋愛ワード ~『大和物語』より
【テーマ3】場面に応じた意味把握②~恋愛ワード編~
「会ふ」「見る」「知る」などの言葉は、そんなに現代語との違いがないように見える。でも、これらの言葉は、男女がメインの恋愛のお話の中で用いられると、特別な意味になる重要語である。
ワザ41意味の特定法②[パターン的中率80%]
男女の恋のお話では、「会ふ」「見る」「知る」などは恋愛ワードに変身!
古文単語 意味
会ふ(逢ふ)・見る ①デートする。②おつきあいをする。③結婚する。
見ゆ 女性が結婚する。
知る ①おつきあいをする。②結婚する。
通ふ・住む ①男性が女性のもとに通う。②おつきあいをする。③結婚する。
呼ばふ ①言い寄る。②プロポーズする。
もの言ふ ①言い寄る。②プロポーズする。③デートする。
こころざし 愛情
世(の中) 男女の仲
<プラスアルファ>
〇現代人感覚では、「デート」と「おつきあい」と「結婚」には大きな差を感じるが、入試で出題される古文の世界には現代のような戸籍がなかったので、婚姻届を提出する手続きがなかった。
⇒だから、おつきあいをする時点で、普通は結婚を意味することになる。
〇また、当時の女の子は非常にガードがかたく、迷ったり悩んだりさんざんした上で、決意してデートをした。
⇒だから、基本的に、デート=おつきあい=結婚、となる。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、138頁
~139頁)
【練習問題】
〇次の文を読んで、後の問いに答えなさい。
さて、この男、「女、こと人にもの言ふ」と聞きて、「その人と我と、いづれをか思ふ」と問ひければ、女、
花すすき君が方にぞなびくめる思はぬ山の風は吹けども
となむ言ひける。
よばふ男もありけり。「世の中心憂し。なほ男せじ」など言ひけるものなむ、この男をやうやう思ひやつきけむ、この男の返り事などしてやりて……
(大和物語)
(注)
ものなむ――ここは「けれども」の意。
問一 傍線部「もの言ふ」、「よばふ」の意味として最も適切なものを、次の選択肢の中から、それぞれ一つずつ選びなさい。
ア言いつける イ仲良く言葉を交わす ウ噂になる エ言い寄る
問二 傍線部「世の中」の意味として最も適当なものを、次の選択肢の中から一つ選びなさい。
ア世間 イ俗世 ウ男女の仲 エ現世
<解法>
☆問の言葉はすべて恋愛ワード。ずいぶんモテモテの女の子の話。
〇「女」と「こと人」(他の人、別の人)がデートしている・愛の言葉を交わしているの意味だと理解しよう。
〇「よばふ男」の「よばふ」は、「つきあおうよ!と言い寄る」意味。
〇「世の中心憂し。なほ男せじ」
この「世の中」は男女の恋のお話なので、恋愛ワードとして処理。「男女の仲」
「心憂し」は「つらい」という意味の形容詞。
「男す」は、「男性とつきあう、男性と結婚する」意味のサ変動詞。
「じ」は打消意志の助動詞。
⇒「『世の中』(男女の仲)がつらいから、もうつきあいたくない」と
【答】
問一 (1)イ (2)エ
問二 ウ
【現代語訳】
さて、この男は、「女が、別の男と仲良く言葉を交わしている」と聞いて、「その人とボクと、どちらを愛しく思うのか」と(女に)尋ねたところ、女は、
花すすき(=私)はあなたの方になびいているようです。思いもよらない山風(=別の男からのアプローチ)が(私の方に)吹いているけれども。
と言った。
(さらに他に、この女に)言い寄る男もいた。(女は)「男女の仲というものはつらいものです。やはり男の人とはおつきあいしないでおきましょう」などと言っていたけれども、この(言い寄る)男のことをだんだん心ひかれていったのだろうか、この(言い寄る)男からの手紙に返事などを書いて送って……
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、140頁
~143頁)
「いみじ」という古文単語 ~『徒然草』より
【練習問題】
〇次の文中にある傍線部を現代語訳しなさい。
御室(おむろ)に、いみじき児(ちご)のありけるを、「いかで誘ひ出だして遊ばん」と企(たく)む法師どもありて…… (徒然草)
(注)
御室――京都市右京区にある仁和寺(にんなじ)のこと。
<解法>
・「いみじ」は、「すばらしい」意味でも、「ひどい」意味でも使える。
「忌まわしい過去」「忌み嫌う」などと使う現代語の「忌まわしい」「忌む」と、語源的には同じで、本来「不吉だ・縁起が悪い」といった意味の語である。
しかし、古文ではもっと幅広く、悪い意味だけでなく、「とてもいい」の意味でも用いられる。
・頭の中の整理法としては、
①不吉だ・縁起が悪い(マイナス)
②とても~だ(プラス/マイナス)➡「よい」のか「悪い」のかは文脈判断!
こうしておくと、多少覚える分量が少なるし、実用的。
☆『徒然草』の傍線部は、直後に注目。
「いかで誘ひ出だして遊ばん(何とかして誘い出して遊ぼう)」とする法師たちが登場する。
「一緒に遊びたい」と思うから、「いみじ」をプラスの意味で取り、「とてもすばらしい・かわいらしい・かわいい」と訳すこと。
<プラスアルファ>
・一言で「古文」といっても、実は千年分ほどの言葉を一手に扱うわけである。
たとえば、現代語で「ヤバイ」という言葉は、もともとはよくない意味でしか使わなかったが、いつの頃からか、「ヤバイ(ぐらいにおいしい)」などと、良い意味でも使うようになった。
・言葉は、私たちが生きている短い間にも、これほどの変化をするわけであるから、千年のうちに意味に幅が出てくるのは、むしろ当たり前である。
※中心的な意味を暗記した上で、そこではどういう意味なのかを見抜く力を養うことが大切であると、山村由美子先生は強調している。
【答】とてもかわいらしい子
【現代語訳】
仁和寺に、とてもかわいらしい子がいたが、「何とかして(その子を)誘い出して遊ぼう」と考えをめぐらす法師たちがいて……
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、136頁
~137頁)
武田博幸/鞆森祥悟
『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』桐原書店、2014年[2004年初版]
にみえる「いみじ」の意味はどうなっているのか?
No.75 いみじ シク活用
①とてもよい・すばらしい
②とても悪い・ひどい
③<「いみじく(う)」の形で副詞的に用いて>とても・はなはだしく
四段動詞「忌(い)む」が形容詞化した語。
対象が神聖、または穢(けが)れであり、決して触れてはならないと感じられる意から転じて、善し悪しを問わず程度がはなはだしい様子を表すようになりました。
入試では善し悪しを具体化したものを選ぶ場合がよくあります。
いみじ➡とても+か-
(武田博幸/鞆森祥悟『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』桐原書店、2014年[2004年初版]、82頁~83頁)
それでは
山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]ではどのように記載されているのか?
No.521 いみじ
①とても~だ。
ただ、このように記す。
とてもイメージ(「いみじ」)が大事だ(「とても」と「だ」が赤字)
「とてもすばらしい」意味でも「とてもひどい」意味でも使う。良い意味か悪い意味かは、文脈から判断。
そのポイントは、次の2点。
(1)何が「いみじ」なのか。
(2)それは、その文章ではプラスに捉えられているものなのか、マイナスに捉えられているものなのか。
※特に「いみじ」の直前直後に注目すること。
プラス/マイナスをつかんだら、「とても良い」「とてもすばらしい」など、つかんだ方向性にあう表現を訳に補って、完成。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、252頁)
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