歴史だより

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≪死活格言集~坂田栄男『囲碁名言集』≫

2021-10-31 17:00:24 | 囲碁の話
≪死活格言集~坂田栄男『囲碁名言集』≫
(2021年10月31日投稿)
 カテゴリ  :囲碁の話
 ハッシュタグ:#坂田栄男 #囲碁の格言 #死活 #ハネ #コウ #一合マス #眼あり眼なし





【はじめに】


最近のブログでは、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の内容を紹介してきた。 
 今回は、その目次の最後にある「付 死活格言集」の内容を紹介してみたい。
 坂田栄男氏は、死活に関連する代表的な格言を10個取り上げている。
 そのうちのいくつかを紹介してみる。
 たとえば、「死はハネにあり」「一合マスはコウと知れ」「ハネ一本が物をいう」「眼あり眼なしはカラの攻合い」などである。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・死はハネにあり
・一合マスはコウと知れ
・ハネ一本が物をいう
・眼あり眼なしはカラの攻合い
・攻合いのコウは最後に取れ
・両バネ利けば一手ノビ






死はハネにあり


碁の格言は数十もあって、それぞれ有益なヒントを与えてくれる。
その中から、死活と攻合いに関するもっとも実戦的なものを、坂田栄男氏は十句だけ選んで解説している。
その十句の中から、いくつかを紹介しておく。

相手の石を殺す場合、次の二つが基本となる。
①外からハネる手
②中へ置く手

ハネは相手の石のフトコロをせばめ、活きる範囲を小さくする意味で、きわめて有効な筋である。

【1図:ハネて死】
≪棋譜≫(242頁の1図)
棋譜再生
・黒1とハネて、白は簡単に死に。
(黒1はイ(19, 八)でも同じ)

【2図:失敗~置き】
≪棋譜≫(242頁の2図)
棋譜再生
・中に黒1と置くと、白2と受けられ、活かしてやるお手つだいになる。

〇まず、「ハネ」てフトコロをせばめ、次に急所に「置いて」眼形を奪う。
この例はよくある。

【3図:ハネて置く】
≪棋譜≫(243頁の3図)
棋譜再生
・これも黒1とハネる。
・白2と受けさせてから、3と置く。
※ハネて受けさせると、眼形の急所がはっきりすることが多い。

【4図:失敗~ハネずに置く】
≪棋譜≫(243頁の4図)
棋譜再生
・ハネずに黒1の置きを先にすると、白2と受けられて取れない。
※今からハネてみても手遅れだし、1の左に打欠いても、取られて半眼(後手一眼)が二つでき、失敗。

【5図:冷静にハネたい形】
≪棋譜≫(243頁の5図)
棋譜再生
・中にツケたり切ったりしたい形であるが、そこをぐっとこらえて、冷静に黒1とハネてやる。
・白がイ(18, 六)と受ければ、そこで初めて黒ロ(17, 五)と切り、白ツギのときまた黒ハ(19, 三)とハネてやる。
※ハネて眼を取る手段を「ハネ殺し」という。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、242頁~243頁)

一合マスはコウと知れ


一合マスとはうまく名づけたものである。
昔は、この変化がわかると、初段はあるといわれたようだ。
(今では、アマ三、四段クラスの人でも、本当に知っている人は少ないのではないかという。)
外ダメのぐあい、ハネの有無などで、少しずつ手順は違うけれど、基礎的なものだけでものみこんでおけば、実戦でウロたえずにすむ。

【1図:一合マスの形】
≪棋譜≫(248頁の1図)※スペースの関係上、便宜的に6路盤で表示する
棋譜再生
・この黒の形が「一合マス」
・白は1と置いて攻めてくるが、結果はコウになるのが正解である。
※ただし、同じコウでも、黒の受け方、白の攻め方で得失が生じるから、注意しなくてはならない。

【2図:双方とも正しい手順】
≪棋譜≫(248頁の2図)
棋譜再生
・黒2とツケ、以下10までが、双方とも正しい手順。
※黒がコウに勝てば三子を打ちぬいて活き、白が勝てばコウをツイで、五目ナカデにして黒を屠る。
⇒この手順を、しっかり頭に入れること

【3図:変化図~白が損】
≪棋譜≫(249頁の3図)
棋譜再生
・黒にとっては、2のツケが大切な手。
・ここで白3のハネなら黒4とゆるめ、白5、黒6のコウとなる。
※この形は、コウに負けたときの形が、白は前図より損になるので、黒の歓迎するところ。
※白5で6では黒5で、セキにしかできない。

【4図:黒はダメづまりで死】
≪棋譜≫(249頁の4図)
棋譜再生
・黒2の受けは俗手。
・白3、5と平易に運ばれ、黒はダメづまりで死んでしまう。

【5図:白のハメ手の一種】
≪棋譜≫(249頁の5図)
棋譜再生
・白1と置くのは、ハメ手の一種。
・コウでなくタダ取りにしようというのだが、そうはいかない。
・黒イ(18, 三)などと受けると、白ロ(17, 二)とツケられてハマる。

【6図:黒の手筋】
≪棋譜≫(249頁の6図)
棋譜再生
・黒は2とサガリ、白3のツケに4と置くのが手筋。
・白5は絶対、そこで6、8と二子を取らせ、だまって黒10とアテるのが巧妙。
※白はタダ取りのつもりがタダ活きされることになる。
※なお、黒4で5の左は白4で黒死、白5で6は黒5でセキ。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、248頁~249頁)

ハネ一本が物をいう


☆盤端にハネが一本利くと、死ぬ石が活きることがある。
死活でも攻め合いでも、ハネはまことに微妙な存在である。利用の仕方によっては、どんな働きをするか知れない。

【辺の一合マスの例】
≪棋譜≫(250頁の1図)
棋譜再生

※これは、「辺の一合マス」と呼ばれる形。
普通では活きがない。
⇒黒1と眼をつくりに出ても、白2でハネ殺しにされる。
 1で2とサガっても白に上方からハネられ、やはり五目ナカデのハネ殺しをまぬがれない。
※しかし、次図のように、もうハネが一本あれば、たちまち息を吹き返し、きれいに活きてしまう。

【ハネ一本で活きの例】
≪棋譜≫(250頁の2図)
棋譜再生

・ハネがあれば黒1と、「ハネのあるほう」から、マガって活きになる。
・白2の打欠きには、黒3と眼を持ち、白4には5とオサエて、白はツグ手がない。
⇒ここにハネの効果が現われる。
※変化として、白2で3は、黒2とツイでセキの活き。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、250頁~251頁)

なお、工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版]、197頁)でも「ハネ一本が生死のカギ」とある。
【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】

新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則

眼あり眼なしはカラの攻合い


「カラの攻合い」とは、カラッポ、つまりダメだという意味と、中国古代の名称である唐とをひっかけたのだそうだ。
眼は二つないと活きないが、たとえ一つでも、攻合いでは大きなプラスになる。

【1図:攻合いの例外】
≪棋譜≫(254頁の1図)
棋譜再生
・この攻合い、黒1と外からつめたのでは、白2でセキにしかならない。
※普通、攻合いでは、外ダメからつめるのが原則だけれど、ここでは例外。

【2図:眼をつくれば眼あり眼なし】
≪棋譜≫(254頁の2図)
棋譜再生
・黒1と眼をつくれば、眼あり眼なしで黒勝ち。
※このように内ダメのある攻合いは、「内ダメは眼のある石に占有される」のである。
・黒1と眼を持って、黒のダメは三つ。
・白はダメが四つあっても、内ダメはないのと等しいので、二手しかない理屈になる。
※内ダメのない攻合いでは、眼あり眼なしは関係ない。

【3図:眼を持って勝ち】
≪棋譜≫(255頁の3図)
棋譜再生
・黒1と眼を持って、この攻合いは黒の勝ちである。
※白がダメをつめるには隅のツギに手間がかかり、その間に黒は外ダメをつめて、眼あり眼なしとなる。

【4図:ちょっと難しい問題】
≪棋譜≫(255頁の4図)
棋譜再生
☆黒先でどう打つか? これはちょっと難しい問題。
 イ(18, 一)のサガリでは白ロ(19, 四)で活きがなく、攻合いにも勝てない。
※そこで、黒は「敵の急所はわが急所」という格言を利用し、あわせて眼あり眼なしに導く。

【解答:コスミが手筋~眼あり眼なし】
≪棋譜≫(255頁の5図)

棋譜再生

・敵に打たれて困る点に、黒1とコスむのが手筋。
・白2に3と眼を持てば、白4とハネる一手であるから、あとは黒5とダメをつめる。
これも眼あり眼なしの黒勝ち。
※白2で3の切り、または4のツケでは、黒2とサガって活きてしまう。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、254頁~255頁)

攻合いのコウは最後に取れ


「攻合いのコウは最後に取れ」と題して、外ダメからつめる場合の例を掲げている。(「攻合い」の送り仮名はママ。以下同じ)

攻合いはただでさえややっこしいのに、それにコウがついているとなると、さぞ頭の痛いことである。
しかし、原理さえ知っていれば、さして苦しまずにすむようだ。
コウのついた攻合いの原則は、「攻合いのコウは最後に取れ」ということである。あわててコウを取らず、必要になったら、そのときに取るのである。

次のようなテーマ図で考えてみよう。
【攻合いのテーマ図】(黒の手番)
≪棋譜≫(256頁の1図)
棋譜再生
☆白のダメは四つ、黒は三つだから、黒が不利のように見えるが、そうではない。
「攻合いのコウは最後に取る」というコツを知っていれば、かえって黒の有利な攻合いだとわかる。

【正解:外ダメからツメよ】
≪棋譜≫(256頁の2図)
棋譜再生
・コウにはかまわずに、黒は1、3と外ダメをつめる。
・白4で黒はアタリになった。
・必要が生じたら、ここで初めて黒5とコウを取る。
※同時に白がアタリとなり、白はコウをタテなくてはならない。

【失敗:黒があわててコウを取った場合】
≪棋譜≫(257頁の3図)
棋譜再生
・これは黒があわててコウを取った図である。
・白はもちろん1とつめて、あとを順々につめ合うと、結果は前図とまったく逆になることがわかるはずである。
⇒白がコウを取って黒がアタリとなり、黒がコウダテを求めるのである。

※このように、コウを先に取るか最後に取るかでは、重大な差が出る。
 攻合いが大きければ大きいほど、コウの取り番は大きな問題で、勝敗に直結する。
 たった一つのコウ材がないばかりに、無念の涙をのんだという例はいくらでもあるようだ。
 「攻合いのコウは最後に取る」――この原則は、眼のある石の攻合いでもまったく同じである。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、256頁~257頁)

両バネ利けば一手ノビ


ともかく次の図を見てもらおう。
【テーマ図:両バネ利けば一手ノビ】
≪棋譜≫(258頁の1図)
棋譜再生
①上辺に黒が三つ並んでいる。この黒を取るのに、白は何手かかるか。
⇒いうまでもなく三手である(これなら問題ない)

②では次に、右辺の黒は、黒の三子に上下のハネが加わっている。
 黒の三子を取るには、何手かかるか。
⇒よく考えてみると、四手かかることがわかるはず。
※この例から知られるように、ハネが両方に利くと、攻合いの手数が一手ふえるのである。
この理屈をいったのが、「両バネ利けば一手ノビ」という格言である。

③同様に、下辺の黒四子は、白から四手では取られない。
 両バネが利いて一手ノビており、白が取ろうとすると、五手を要する。
 (確かめてほしい)

それでは、この格言を利用した次のような問題を考えてみよう。
【問題:格言「両バネ利けば一手ノビ」の例】(白先)
≪棋譜≫(259頁の2図)
棋譜再生
☆中央の黒三子と、切られている白五子の攻合いである。
 黒は四手、白は三手で、白が一手負けのようだが、この格言を知っていれば、白先ならラクに勝つことができる。

【解答:両バネを利かして手数をのばす】
≪棋譜≫(259頁の3図)
棋譜再生
・白から1、3と「両バネ」が利き、これで白は四手。
・一足お先に5とつめて、簡単に白の勝ちとなる。
※黒がイ(19, 六)とツケても、またはイ(19, 六)の上下に打欠いても、白は相手にならないのが秘訣。
 かまわず敵のダメをつめればいいのである。
 ツイだり取ったりして、つきあっていると、かえって自分の手をちぢめる。
※念のためにいうと、「両バネ一手ノビ」は、眼のない石が二線に三つ以上並んだときに適用される。
 二つしか並んでいない形では、両バネが利いても手数はノビない。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、258頁~259頁)



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