①ヴィヴァルディ:ブロックフレーテ、オーボエ、ヴァイオリン、ファゴットと通奏低音のための協奏曲
②バード:5声部のブラウニング“青葉”―5本のブロックフレーテのための―
③シンプソン:4声部のリチェルカーレ“愛しいロビン”―ガンバ、ブロックフレーテ、ガンバ/ヴァージナルのための―
④モーリー:哀しみのファンタジア(2声部)―ブロックフレーテ、ガンバのための―
⑤モーリー:狩りのファンタジア(2声部)―ブロックフレーテ、ガンバのための―
⑥パーチャム:ブロックフレーテと通奏低音のためのソロ
⑦ヴァン・エイク:“ダフネ”による変奏曲
⑧ラヴィーニュ:ブロックフレーテと通奏低音のためのソナタ「ラ・バルサン」
⑨ダニカン=フィリドール:ブロックフレーテと通奏低音のためのソナタ
⑩テレマン:ファンタジア―無伴奏フルートまたはヴァイオリンのための“12のファンタジア”より
ブロックフレーテ(リコーダー):フランス・ブリュッヘン
①
オーボエ:ユルク・シェフトライン
ヴァイオリン:アリス・アーノンクール
ファゴット:オットー・フライシュマン
チェロ:ニコラウス・アーノンクール
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト
②~⑤
ブリュッヘン合奏団(オリジナル楽器使用)
指揮:フランス・ブリュッヘン
⑥
ガンバ:ニコラウス・アーノンクール
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト
⑧~⑨
チェロ:アンナー・バイルスマ
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト
発売:1980年
LP:キングレコード K15C-9036
ブロックフレーテは、ドイツ語での呼び方で、英語ではリコーダーとして知られる、古楽で使われる木管楽器。同じエアーリード(リードを持たない木管楽器)である現代のフルートが横笛であるのに対し、ブロックフレーテは縦笛。吹奏が比較的に容易であり、構造もシンプルで、安価に量産できるため、日本では教育楽器として多用されている。西ヨーロッパでは中世からその存在が知られ、ルネサンス期には盛んに用いられ、バロック期前半の17世紀には現在用いられるものとほぼ同じ形のものが完成された。テレマンが自ら演奏したことでも知られる。しかし、続く古典派音楽に至って、ブロックフレーテは全く顧みられなくなってしまった。ところが、20世紀初頭になり、復元され、過去の奏法が研究され、現在では古楽演奏では欠かせない楽器の一つとなっている。フランス・ブリュッヘン(1934年―2014年)は、オランダのアムステルダム出身。アムステルダム音楽院、アムステルダム大学で学ぶ。卒業後に古楽演奏に取り組み、1950年代よりブロックフレーテ奏者として活動を開始し、古楽の草分け的な存在となった。1981年には、オリジナル楽器のオーケストラである「18世紀オーケストラ」を結成して指揮者に転じた。フランス・ブリュッヘンは、この18世紀オーケストラを指揮し、多数の録音を遺した。1973年にはブロックフレーテ奏者として初来日を果たしている。このLPレコードには、フランス・ブリュッヘンのブロックフレーテ演奏を中心に、ブロックフレーテが使われた古楽の室内楽の名品が収めらている。フランス・ブリュッヘンが演奏するブロックフレーテの音色は、あたかも幻想のベールに包まれたようでもあり、素朴であるが詩的な雰囲気を醸し出し、他の楽器では到底表現不可能なような、しみじみとした情緒が辺りを覆う。昨今は古楽ブームと言ってもいいような状況にあるが、この古楽の開拓者の一人がフランス・ブリュッヘンその人である。この意味で、フランス・ブリュッヘンは、単なるブロックフレーテの一奏者というより、現代に古楽を蘇らせた偉大な演奏家として、後世にその名を留めることになるであろう。それにしても、このLPレコードでのフランス・ブリュッヘンのブロックフレーテ演奏は、何と純粋な美しさに満ち溢れていることか。久しぶりに古楽の楽しさを存分に味わうことができた。(LPC)
ヴィヴァルディ:調和の幻想
ヴァイオリン協奏曲ト長調 Op.3の3
ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.3の6
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.3の
二つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調 Op.3の8 ヴァイオリン協奏曲ホ長調 Op.3の12
ヴァイオリン:ヨセフ・スーク
第2ソロ・ヴァイオリン:グナール・ラルサン
指揮:ルドルフ・パウムガルトナー
弦楽合奏:ルツェルン弦楽合奏団
録音:1976年9月16日、19日、スイス、ヴァインフェルト会議堂
発売:1977年9月
LP:日本コロムビア
バロック時代のイタリアの大作曲家ヴィヴァルディの協奏曲集「調和の幻想」Op.3は、1712年に作曲されたが、この作品でヴィヴァルディの名は一躍有名になった。このLPレコードには、全部で12曲からなる「調和の幻想」の中から5曲が、ヨセフ・スークのヴァイオリン、グナール・ラルサンの第2ソロ・ヴァイオリン、それにルドルフ・パウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団の弦楽合奏によって録音されている。全12曲は、独奏ヴァイオリンと弦と通奏低音のチェンバロによる編成(そのうち3曲はチェロを独奏に加える)によっている。このLPレコードのライナーノートで門馬直美氏は、ヴィヴァルディの「調和の幻想」が果たした音楽史上の功績として、次のような点を挙げている。①これ以後ほぼ2世紀にわたり常識となった急ー緩ー急の協奏曲の3楽章制が不動のものとして確立した②独奏を華やかで熱のこもったものとし、特に独奏を引き立てるようにした③それまでにないロマン的な要素を置き、力の対比、エコー的な効果、新鮮な叙情性などを演奏指示で強調した④明快な主題を扱い、その印象を強固なものとした⑤独奏と合奏の有機的な融合が図られている⑥中間の緩徐楽章には、即興的な雰囲気を置き、しかも悲愴味ある情緒を流すことが多い。このLPレコードで独奏ヴァイオリンを演奏しているのが、チェコの名ヴァイオリン奏者ヨゼフ・スーク(1929年―2011年)である。プラハ音楽院卒業後、プラハ四重奏団の第1ヴァイオリン奏者として音楽活動を開始。その後も、チェロのヨゼフ・フッフロ、ピアノのヤン・パネンカと「スーク・トリオ」を結成。一方、ソリストとしても1959年からツアーを行い、世界的名声を得た。ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者らしく、きちっと整った構成美の中に、ほのかなロマンの香りを漂わせたその演奏内容は、当時日本にも多くのファンを獲得していた。このLPレコードでのヨゼフ・スークの演奏は、自身が持つ演奏の特徴を最大限に発揮させると同時に、バロック時代の曲である「調和の幻想」を、現代の我々の感覚に合わせて、聴かせてくれている。特に、ルドルフ・パウムガルトナー(1917年―2002年)指揮ルツェルン弦楽合奏団との息がぴたりと合い、この世のものとも思われないような、それはそれは美しい弦の響きに、リスナーは暫しの安らぎの時間を過すことができる。(LPC)
ラモー:クラヴサン、フルート、チェロのためのコンセール集(第1コンセール~第5コンセール)
第1コンセール:①ラ・クゥリカン②ラ・リヴリ③ル・ヴェジネ
第2コンセール:①ラ・ラボルド②ラ・ブーコン
③扇情的な女④ムニュエ(メヌエット)第1、
ト長調―ムニュエ(メヌエット)第2、ト短調
第3コンセール:①ラ・ラ・ポブリエール②内気な女
③タンブラン第1、イ長調―タンブラン第2、イ短調
第4コンセール:①ラ・バントミム②無分別な女③ラ・ラモー
第5コンセール:①ラ・フォルクレー②ラ・キュピス③ラ・マレ
フルート:ジャン=ピエール・ランパル
クラブサン:ロベール・ヴェイロン=ラクロワ
チェロ:ジャック・ネイ
発売:1977年8月
LP:日本コロムビア OW‐7728‐MU
ジャン=フィリップ・ラモー(1687年―1764年)は、フランス・バロック音楽の作曲家。青年時代をイタリアやパリにすごした後に、クレルモン大聖堂の教会オルガニストに就任。その後、パリに定住し、フランスの指導的な作曲家にまで上り詰める。「イッポリットとアリシー」「優雅なインドの国々」「カストルとポリュックス」「ダルダニュス」「プラテ」「ピグマリオン」「ゾロアストロ」など、歌劇の作曲には特に力を入れ、「ナヴァールの姫君」によって「フランス王室作曲家」の称号を得ることになる。このほかの作品では「クラヴサン小曲集」や今回のLPレコードのクラヴサン、フルート、チェロのためのコンセール集(第1コンセール~第5コンセール)などを作曲している。クラヴサンとは、イタリア語でいうチェンバロのことで、英語ではハープシコード。この作品では、クラヴサン、フルート、チェロの3つの楽器が、対等の立場で合奏するスタイルをとっており、聴いていて実に安定感のある音楽を楽しむことができる。バロック時代のいわゆるトリオ・ソナタとも、古典派時代以降のピアノ三重奏曲とも異なった一種独特な楽曲のジャンルを形成しており、クラヴサンのパートが、競奏的な要素をかなり強く持っている点に特徴がある。大部分が表題を持った舞曲調の曲であり、舞曲の形式を反映して、2部形式のものが多いが、なかには幾分発展して、ソナタ形式に近づいているもの、さらにロンド一形式のものもみられるが、第5コンセール:①ラ・フォルクレーだけは、例外的にフーガ形式をとっている。バッハなどのドイツのバロック音楽とは違い、フランスのバロック音楽であるこの曲は、情緒的な雰囲気が曲全体を覆い、優雅な雰囲気が、聴いていて誠に心地良い。第1~第5の各コンセールは3つの楽章からなっており、曲にはそれぞれ固有名詞が付けられているが、それらはラモーと関係のある人名や地名、あるいはラモー自身の名さえ付けられている。また、「扇情的な女」「内気な女」「無分別な女」などの名称が付けられている楽章があるが、何か謎めいていて面白い。演奏しているフルート:ジャン=ピエール・ランパル(1922年―2000年)、クラブサン:ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(1922年―1991年)、チェロ:ジャック・ネイは、当時のフランスが誇っていた名手たちであり、その演奏内容は、実のしっかりとした構成感に加え、しっとりとした情感が何ともいえない優雅な雰囲気を醸し出している。(LPC)
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番/第2番
2つのヴァイオリンのための協奏曲
ヴァイオリン:シャルル・シルーニック
ジョルジュ・アルマン(2つのヴァイオリンのための協奏曲)
指揮:ルイ・オーリアコンブ
管弦楽:トゥールーズ室内管弦楽団
発売:1970年2月
LP:日本コロムビア MS‐1066‐EV
バッハのヴァイオリン協奏曲3曲についての録音は、私はオイストラフ親子が共演した演奏のものを長らく聴いてきて、何かそれが耳に定着してしまった感がある。そんな時にこのLPレコードを聴いてみたのだが、全く新しいバッハ像が浮かび上がるのに我ながら驚く。このLPレコードでは、シャルル・シルーニック(シャルル・シルルニクとも表記)とジョルジュ・アルマンがヴァイオリン独奏し、ルイ・オーリアコンブ指揮トゥールーズ交響楽団が伴奏を務めている。フランスのヴァイオリン名手シャルル・シルーニックは1923年にパリで生まれた。シルーニックのヴァイオリンは、男性的な骨太さを持ちながら同時に気品をも漂わせ、当時高い評価を得ていた。ジョルジュ・アルマンは、トゥールーズ室内管弦楽団のコンサートマスターを務めたが、後に首席指揮者を務めた。このLPレコードの演奏は、フランス・ロココ調とでも言ったらいいのか、あくまで典雅で高貴な香りが辺り一面に漂うようだ。そこには、ただただ至福の時が流れ過ぎて行き、リスナーはそれに身を委ねるのみ。それに対し前記したオイストラ親子の録音は、あくまでシャープな感覚でり、あくまで厳しく、バッハが目指した響きを徹底的に追究するような緊張感溢れる演奏であった。果たしてどちらのバッハが本物なのか?バッハがこれらの3曲のヴァイオリン協奏曲を書いたのは、6年間続いたケーテンの楽長時代。ここでの生活は、バッハにとって理想的なものであったらしく、幸福な作曲生活をおくっていたようだ。バッハのワイマール時代がオルガン曲の時代、ライプツィヒ時代が教会声楽曲の時代と呼ばれるのに対し、ケーテン時代は世俗的器楽曲の時代といった位置づけがされている。つまり、ケーテン時代の作品である3つのヴァイオリン協奏曲は、明るく、楽しいバッハを象徴しているみたいな作品であり、その意味からは、このLPレコードの演奏の方が、バッハのその時代のバッハの雰囲気を表現していると言えなくもないようでもある。指揮のルイ・オーリアコンブ(1917年―1982年)は、フランス、ポーの出身。1933年から1939年までトゥールーズ音楽院で声楽とヴァイオリンを学んだ後、トゥールーズの放送局のオーケストラの団員となる。1957年から1967年までイーゴル・マルケヴィチ(1912年―1983年)の助手を務めた。1953年トゥールーズ室内管弦楽団を創設して、自ら首席指揮者を務めた。(LPC)
ドゥランテ:合奏協奏曲 へ短調/ホ短調/ト短調/ハ長調
指揮:ロルフ・ラインハルト
弦楽合奏:コレギウム・アウレウム合奏団
録音:1962年、南ドイツシュヴァーベン地方のキルヒハイム城「糸杉の間」
LP:テイチク・レコード(ハルモニア・ムンディ) ULS‐3162‐H
バロック時代の著名な作曲家の作品は、これまでも聴いてきたが、今回のLPレコードのフランチェスコ・ドゥランテ(1684年―1755年)の作品は、私自身このLPレコードによって初めて聴くことができた。ドゥランテは、18世紀以前のイタリア音楽界で活躍した人で、ドメニコ・スカルラッティ(1685年―1757年)とともに、名高いナポリ楽派の始祖といわれたアレッサンドロ・スカルラッティ(1660年―1725年)の後継者になるであろうと言われていたほどの作曲家であったという。2人のスカルラッティは、我々にもお馴染みの作曲家になっているが、現在、何故かドゥランテの作品を聴く機会は少ない。それは、そのほとんどがミサ曲をはじめ詩篇、モテット、賛歌、マニフィカトなど、宗教曲に限られているからという理由だからかもしれない。今日では、ドゥランテの名は、むしろ優れた音楽教師として知られているようである。このLPレコードのドゥランテの4つの合奏協奏曲は、弦楽合奏と通奏低音によって演奏されている。現在、合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)は、コレルリやヘンデルの曲を聴く機会が多いいが、なかなかどうしてドゥランテの曲を聴くと、これらの曲と堂々と渡り合える、その優れた内容に驚かされるのである。何よりも聴いているだけで心が豊かになるような、その曲想の豊かさは、現代人の我々にも訴える力がある。“隠れた名曲”と言ってもいいほどの存在感がある曲だ。演奏しているコレギウム・アウレウム合奏団は、1962年にドイツで結成された古楽器オーケストラの草分け的存在。演奏家や音楽院の教師、フライブルクを拠点とするレコード会社「ハルモニア・ムンディ」との結束から生れた。作曲者が当時耳にしたであろう響きの再現を目標に、歴史的な演奏習慣の復興を当初より使命として、バロック音楽から初期ロマン派音楽までを演奏。古い時代の演奏習慣を慮って指揮者を置かず、コンサートマスターを指導者とした。このLPレコードは、同合奏団の本拠地であった南ドイツシュヴァーベン地方のキルヒハイム城「糸杉の間」で録音されている。ドゥランテは、1684年3月31日、ナポリの北15キロの村フラッタマッジョーレで生まれた。ローマに出て作曲の勉強を行った後、ナポリへ戻り、サントノフリオ音楽院、サンタ・マリヤ・ディ・ロレート音楽院、ジェズ・クリスト音楽院などで死ぬまで教え続けた。このため音楽史の上でのドゥランテの存在は、これらの音楽学校での教育者としての実績によって評価されてきたようである。作曲家としは、宗教曲が圧倒的に多い。このLPレコードに収録されている合奏協奏曲4曲は、いずれも弦楽合奏と通奏低音によって演奏されている。いずれの曲も4つの楽章からなり、ヘ短調の曲以外は緩急緩急の順で演奏される。(LPC)