★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール管弦楽団のアンコール・コンサート

2022-01-31 09:41:56 | 管弦楽曲


~パイヤール アンコール・コンサート~

バッハ:アリア(管弦組曲第3番より)
モーツァルト:メヌエット(ディベルティメント第17番より)
アルビノーニ:アダージョ(ジャゾット編)
コレルリ:バディヌリとジーグ
パーセル:シャコンヌ
ヴィヴァルディ:ラルゴ(協奏曲集「四季」より)
パッヘルベル:カノン
モーツァルト:ドイツ舞曲第4番
ハイドン:セレナード(弦楽四重奏曲Op.3の5より)
グルック:メヌエット(「オルフェオ」より)
バッハ:六声のリチェルカーレ(「音楽の捧げもの」より)

指揮:ジャン=フランソワ・パイヤール

管弦楽:パイヤール管弦楽団

ヴァイオリン:ユゲット・フェルナンデーズ/ジェラール・ジャリ
オルガン:アンヌ=マリー・ベッケンシュタイナー
フルート:マクサンス・ラリュー

発売:1970年11月

LP:日本コロムビア OS‐2427‐RE

 フランスの指揮者のジャン=フランソワ・パイヤール(1928年―2013年)は、パリ音楽院を卒業後、1953年ジャン=マリー・ルクレール器楽アンサンブルを創立。これが母体となって1959年にパイヤール室内管弦楽団が結成された。同楽団はバロック音楽を中心に、一部ロマン派音楽も手掛け、多くのファンを獲得した。その演奏は、いかにもフランスの演奏家らしく詩的でありながら、凛とした姿勢がそこにはあった。こじんまりとまとまった演奏は、オーケストラと室内楽曲演奏の中間に位置し、当時その存在感を大いにアピールしたものである。パイヤールはエラート・レーベルに数々のバロック音楽を録音し、また欧米の各地で演奏旅行を行なった。日本へも度々訪れており、最近では2001年に来日し、水戸室内管弦楽団を指揮して、ドビュッシーやファリャ、オネゲルの作品を演奏したので、パイヤールの生の演奏に接した方もおられよう。そのパイヤール室内管弦楽団が誰もが気楽に聴けるアンコール集を収録したのが今回のLPレコードだ。私は若い頃このLPレコードを擦り切れるくらい何度も何度も聴き返した。このLPレコードでクラシック音楽への傾斜が一層深まったことをつい最近のように思い出す。それはパイヤールの演奏、それに曲そのもの、さらにLPレコードが奏でるの3つの響きがものの見事に調和して、またとない音楽空間をつくり出していたからだ。このLPレコードのライナーノートで西村弘治氏はパイヤールの演奏について次のように書いている。「パイヤールのコンサートには独特な雰囲気がある。感情が抑制されていて、感覚が澄みきっており、知性が支配している。知性というものが理屈っぽくうるさいと感じられるなら、それはドイツ的な論理にむしろ劣等感を抱いているからであって、知性とは分析や理解力にだけ現れるものではない。それにフランス的な知性は合理性に徹するものといってよく、パイヤールの音楽には合理的な知恵が閃いている。パイヤールは、音楽の解釈に古典様式を尊重し、技術的な立場からも無理をしない。それこそが、あの感覚的な愉悦をもたらすゆえんだとかんがえられる」。今回久しぶりにこのLPレコード聴いてみて、現在いくらオーディオ機器の音質が向上したといっても、このLPレコードから流れ出る豊かな響きには絶対勝てない、と一人思った。もし、今後LPレコードが消滅するようなことがあれば、人類は大きな文化的基盤を失うことになるとさえ思わせるほど、ここにはLPレコードの魅力がいっぱい凝縮されているのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇世界的名ソプラノ 林 康子のオペラアリア集

2022-01-27 09:59:33 | オペラ


モーツァルト:歌劇「ドン・ジョバンニ」第1幕より さあ、あなたもお分かりでしょう
       歌劇「ドン・ジョバンニ」第2幕より いいえ違います、私はあなたのもの
ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」第2幕より 暗い森
      歌劇「セミラーミデ」第1幕より 麗しい光が
ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」第2幕より 受けとって、私はあなたのために
プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」第3幕より 氷のような姫君の心も
      歌劇「蝶々夫人」第2幕より ある晴れた日に
      歌劇「蝶々夫人」第2幕より かわいい坊や
ヴェルディ:歌劇「椿姫」第1幕より ああ、そはかの人か~花から花へ~

ソプラノ:林 康子

テノール:田口興輔(「ドン・ジョバンニ」「椿姫」)

指揮:ニコラ・ルッチ

管弦楽:東京交響楽団

チェンバロ:前橋裕子(「ドン・ジョバンニ」)

録音:1978年7月6日~7日、入間市民会館

LP:ビクター音楽産業 SJX‐9536

 林 康子は、1943年生まれの香川県出身のソプラノ歌手。高松高校2年のときから声楽の勉強を始める。東京芸大音楽学部に入学して、柴田睦陸に師事。東京芸術大学院を修了後、ミラノ音楽院、スカラ座オペラ研究所に留学。1970年「モンティキァーリ国際コンクール」および「ロニーゴ国際コンクール」第1位。1973年にミラノのスカラ座でプッチーニのオペラ「蝶々夫人」の蝶々夫人役で日本人としては初めて出演して好評を博した。1968年「日伊声楽コンコルソ」第1位、1970年「モンティキァーリ国際コンクール」「パルマ国際オペラ歌手コンクール」第1位、1971年「ロニーゴ国際コンクール」第1位、1972年「イタリア国営放送ロッシーニ生誕180周年記念コンクール」第1位、1982年「イタリア金の射手座賞」を受賞するなど、当時は日本での知名度より、欧米での評価の方がはるかに高かったのである。その後、1983年「毎日芸術賞」、1988年「サントリー音楽賞」などを受賞し、2006年には紫綬褒章を受章した。さらに母校の東京芸術大学の教授も務めた。これらの経歴を見れば分るように林 康子は、第二次世界大戦後のわが国の声楽界を代表する国際的なソプラノ歌手なのである。このLPレコードのライナーノートによると「外国のオペラ雑誌には、ここ数年、彼女の名はしばしばみられ、上演評でよく褒められている」(宮沢縦一)と、録音当時、海外での評価が高かったことが紹介されている。このLPレコードは、そんな彼女が日本で録音した歌劇のアリア集である。どのアリアも艶やかさのある伸びやかな歌声であり、しかも豊かな声量で歌われており、多くのコンクールでの受賞が、実力そのものであることが裏づけられる録音といえるのである。このLPレコードの指揮者のニコラ・ルッチ(1909年―1992年)は随分懐かしい名前だ。ルッチは、イタリア出身の指揮者で、1955年から日本で活躍した。1934年にローマの名門、国立サンタ・チェチーリア音楽院を卒業後、ローマ王立歌劇場指揮者に就任。その後正指揮者となり20年間同劇場で活躍。1954年文部省より招聘外人教師として来日、宮崎大学で音楽理論を教えると同時に、1955年より東京フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者に就任。一旦帰国し、1959年再び来日して東京藝術大学などで教える。1986年「勲三等瑞宝章」受章。林 康子を中心にしたこのLPレコードは、日本で録音されたとは思えないほどの出来栄えで、当時の日本のクラシック音楽界の充実ぶりが偲ばれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサート(1975年1月1日)“ライブ録音”

2022-01-24 10:08:35 | 管弦楽曲


ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「くるまば草」序曲
              ワルツ「わが家で」
              ポルカ「町といなか」
              ワルツ「愛の歌」
              ポルカ「爆発ポルカ」
              ポルカ「アンネン・ポルカ」
              ポルカ「うわ気心」
              ポルカ「狩り」
              歌劇「騎士パスマン」チャルダッシュ
              常動曲
              ポルカ「観光列車」
ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

指揮:ウィリー・ボスコフスキー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1975年1月1日、ウィーン(ライブ録音)

発売:1981年

LP:キングレコード:K18C‐9139

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートは、毎年1月1日にウィーン楽友協会の大ホールで行なわれるマチネーのコンサートであり、日本でもテレビで中継放送されるので、日本の人々もお馴染みの恒例の新春コンサートである。シュトラウス一家のワルツやポルカなどを中心に演奏されるが、バレエなども組み込まれ新春らしい華やいだ情景は、一時、夢の世界へと迷い込んだような錯覚すら覚える。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートは、1939年12月31日にクレメンス・クラウスの指揮により初めて開催されたが、現在は1月1日の昼に開催されている。最近の指揮者は、ズービン・メータ(2015年)、マリス・ヤンソンス(2016年)、グスターボ・ドゥダメル(2017年)、リッカルド・ムーティ(2018年)、クリスティアン・ティーレマン(2019年)、アンドリス・ネルソンス(2020年)、リッカルド・ムーティ(2021年)、ダニエル・バレンボイム(2022年)。このLPレコードは、1975年のニューイヤーコンサートのもようがライブで収録されている。1975年という年は、シュトラウス2世の生誕150年に当たり、しかもクレメンス・クラウスが創始してから30年目という節目の年。このため、いつも以上に盛り上がりを見せた様子が、当日聴衆の一人として現地で参加した音楽評論家の大木正興氏(1924年―1983年)による筆で、ライナーノートに次のように紹介されている。「さていよいよボスコフスキーの登場である。おなじみの銀髪、小柄な体が65歳とはとても思えぬ若々しさでさっそうと現れる。われわれにはその動作はいくぶん“きざ”にみえるのだが、ウィーン子にはそれがまたたまらないのだろう、客席から熱狂的な拍手が巻き起こる。・・・ボスコフスキーは、もちろんヴァイオリン片手の指揮で、ここぞというところでは客席を向き、いまにも踊り出しそうな軽い身のこなしで朗々とひく。彼もウィーン・フィルのメンバーも、心の底から演奏を楽しんでいることがその表情からはっきりとわかるし、曲が進むにつれて聴衆の方もだんだん酔ったような顔つきになってくる。・・・」。このLPレコードにおいて、ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)は、同コンサートの中興の祖とされるだけあって、実に生き生きとウィーンの音楽を指揮しており、リスナーが時空を越えて、あたかも当日、会場で実際に聴いているような雰囲気にしてくれる、何とも嬉しくなるLPレコードではある。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ワルター・ギーゼキングのシューベルト:即興曲集第1集 第1~4番(op.90)/第2集 第1~4番(op.142)

2022-01-20 09:41:54 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:即興曲集第1集 第1~4番(op.90)
           第2集 第1~4番(op.142)

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

発売:1968年11月

LP:東芝音楽工業 AB‐8067

 ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)は、ドイツが誇る名ピアニストであった。その現役時代は、”新即物主義”ピアニストの旗手として圧倒的な存在感を持ち、その後のピアニストにも大きな影響力を与えた。新即物主義とは、当時の芸術活動全体に広がっていた潮流で、作曲の原点に返り、楽譜の忠実な再現を目指すことに重きを置いた芸術活動のこと。ギーゼキング以前のピアニストの主流は、高度の技巧を駆使したヴィルトオーゾと呼ばれる、いささか古臭いスタイルや、極度のロマン的雰囲気に覆われたスタイルが主流となっていた。そんな中、ギーゼキングは作曲者が楽譜に書いた譜面に忠実に演奏するという当時としては、革新的なピアニストであったのだ。これは、ギーゼキングが驚異的暗譜力を持っていたことにより可能になったとも言われている。シューベルトの即興曲集は、第1集(op.90)の4曲、第2集(op.142)の4曲からなる。第1集は、シューベルトの死の前年である1827年の秋に、第2集は、同年12月に書かれたと見られている。それらは、ピアノ小品というスタイルをとり、三部形式、あるいは変奏曲形式で、平易に演奏できる作品である。シューベルトでしか書けないような、一度聴くと忘れられないほど美しい旋律が印象的な作品に仕上がった。シューベルトは、数多くのピアノソナタを書いているが、ピアノの小品はというと、この即興曲と楽興の時ぐらいで数は少ないが、特に、これらの即興曲においては、叙情性と歌謡性とを兼ね備えた不朽の名曲が生まれた。これは、シューベルトが演奏会用に作曲したというより、個人で演奏を楽しむことを想定して作曲したために、親しみ深い作品に仕上がったということであろう。このLPレコードでのギーゼキングの演奏は、新即物主義のピアニストの旗手として忠実にシューベルトの音楽を再現すると同時に、適度なテンポルバートを加えることによって、シューベルト的なロマンの世界を、より明確にリスナーに提示することに成功している。現在至るまで、このシューベルトの全8曲からなる即興曲集は、多くのピアニストによって録音されてきたが、このギーゼキングの録音は、それらの中においても一際光彩を放つ名盤だ。単に甘く流れるだけでなく、一本の強い支柱によって貫かれているような、力強い演奏と同時に、極限まで掘り下げた結果生まれた、純粋なピアノの音が強くリスナーの耳に響く。この結果、少々音質が古めかしくなってしまったが、現在においても高い評価を得ている録音なのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ピエール・モントゥー死の年の記念碑的録音 ベルリオーズ:幻想交響曲

2022-01-17 09:54:27 | 交響曲


ベルリオーズ:幻想交響曲

指揮:ピエール・モントゥー

管弦楽:ハンブルク北ドイツ放送交響楽団

録音:1964年2月6日~14日、ハンブルク

LP:日本コロムビア OC‐7258‐PK

 これは「幻想交響曲を指揮させたら世界一」といわれたピエール・モントゥー(1875年―1964年)が死の年、つまり89歳の時に録音した記念碑的録音のLPレコードであり、1965年度の「ACCディスク大賞」を受賞した。今聴いてみると、やはり89歳という年齢に相応しい深みのある境地に達した、他の追従を許さない指揮ぶりであることが、この録音からはっきりと聴き取れる。甘くロマンチックな世界に浸ることなく、表面的な一切の虚飾を取り去り、その骨格だけをくっきりと浮かび上がらせた、独特な雰囲気を持つ「幻想交響曲」が生まれることになった。この意味でこのLPレコードは、ベルリオーズ:幻想交響曲の全容を知るという意味合いより、ピエール・モントゥーがベルリオーズ:幻想交響曲をどう解釈したかを知ることが出来る録音といえよう。この録音は、ピエール・モントゥーが「幻想交響曲」の演奏の最終到着地に辿りついた演奏であり、この意味から、現在に至るまで、この録音を上回る「幻想」の録音は、他に見当たらないと言ってもいいほどの演奏内容となっている。夢の中にいるかのような甘い気分は取り去り、「幻想」独特の不気味な世界に、リスナーは思う存分突き落とされる。この結果、聴いていても手に汗握るといった感覚が全体を覆い尽くしているのだ。一遍の小説か、あるいは演劇の舞台を見ているようなドラマチックな展開がそこにはある。他の指揮者の追随を到底許さない演奏内容ではある。モントゥーは、「幻想交響曲」を、1930年のパリ交響楽団SPレコードから、このLPレコードである1964年の北ドイツ放送交響楽団とのステレオ盤まで、生涯で6回録音している。その中で代表的録音とされるのが、モントゥー75歳の時、1950年のサンフランシスコ交響楽団との録音盤である。ピエール・モントゥーは、フランス・パリ生まれで、パリ音楽院を卒業している。1929年、創立時のパリ交響楽団(現パリ管弦楽団)の常任指揮者などを歴任。その後、モントゥーは渡米し、1917年からメトロポリタン歌劇場の指揮台に立つ。さらに、カール・ムックの後任としてボストン交響楽団の常任指揮者に就任。そして1935年にサンフランシスコ交響楽団の常任指揮者に就任し、同楽団を世界の一流オーケストラに育て上げた。つまり、モントゥーは、その半生をアメリカ音楽界のために尽くしたと言って過言でない。最後は1961年にロンドン交響楽団の首席指揮者となり、死去するまでその地位にあった。その優美で繊細な指揮ぶりは、多くの熱烈なファンの支持を得ていた。(LPC)

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