★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇メンデルスゾーン/ブラームス:無伴奏合唱名曲集

2022-11-28 09:40:49 | 合唱曲


~メンデルスゾーン/ブラームス:無伴奏合唱名曲集~

メンデルスゾーン:春の祭り(ウーラント詩)
         霜がおりて(ハイネ詩)
         おとめの墓の上に(ハイネ詩)
         五月の歌(ヘルティ詩)
         春のきざし(ウーラント詩)
         さくら草(レナウ詩)
         秋の歌(レナウ詩)
         いこいの谷(ウーラント詩)
         追憶(作者不詳)
         春をたたえて(ウーラント詩)
         春の歌(作者不詳)

ブラームス:夜の見張りⅠ(リュケルト詩)
      夜の見張りⅡ(リュッケルト詩)
      最後の幸福(カルベック詩)
      ロスマリン(「子供の不思議な角笛」より)
      セレナード(ブレンターノ詩)
      風が吹く(ハイゼ詩)
      わたしの心の思い出のすべて(ハイゼ詩)
      ダルトゥラの墓場の歌(ヘルダー詩)
      やさしい恋人(ハイゼ詩)
      背の曲がったヴァイオリン弾き(ライン地方の民謡)

指揮:ウォルフガング・フロンメ

合唱:ケルン・コレギウム合唱団

     ソプラノ:ミヒャエラ・クレーマー
     ソプラノ:ガビー・ローデンス
     メゾ・ソプラノ:ヘルガ・ハム=アルブレヒト
     テノール:ヘルムート・クレメンス
     バス:ハンス=アルデリッヒ・ピリヒ

録音:1977年12月13日、16日、アーヘン

LP:東芝EMI EAC‐40134

 メンデルスゾーンは、10歳にも満たない頃、ゲーテの親友であったカール・フリードリッヒ・ツェルター(1758年―1832年)に付いて作曲の勉強を開始したが、このツェルターこそがドイツの合唱の中興の祖とでも言える人物であった。ゲーテの詩に付けられたものを含め約200曲の歌曲のほか、カンタータ、ヴィオラ協奏曲、ピアノ曲などを作曲した。また、ツェルターは、バッハの作品の草稿を多く保管しており、メンデルスゾーンは、この中から「マタイ受難曲」の手稿を発見し、蘇演を実現させたのであった。このような背景を基に、メンデルスゾーンの一連の合唱曲は作曲されたわけである。メンデルスゾーンの合唱曲は、演奏されることがそう多いとは言えないが、内容的にはメンデルスゾーンの作曲の原点とも言える充実した作品群となっている。このLPレコードではその中から11曲が収められている。いずれの曲も親しみやすい曲想となっており、思わず口ずさみたくなるような、愛すべき小品群なのである。このLPレコードのライナーノートに福永陽一郎氏はメンデルスゾーンの合唱曲について次のように書いている。「流麗なメロディー、巧みな声部の扱い、変化に富むハーモニー、活気に満ちたリズムを持っており、合唱音楽の基本型というものの規範が示されている。近来、日本の合唱団などに、メンデルスゾーンなどは卒業したいと考える向きが多いが、こうした合唱曲こそが合唱の魅力の原点であり、決っして“卒業”などできる種類の底の浅い音楽ではない」。一方、ブラームスもいくつも合唱曲を作曲している。「ドイツレクイエム」をはじめ「運命の歌」「アルト・ラプソディ」などのほか、有名な四重唱曲として「愛の歌」「新愛の歌」など多くの作品がある。ブラームスの無伴奏合唱曲は全部で26曲遺されているが、このLPレコードには、そのうち10曲収録されている。いずれの曲もいかにもブラームスらしく、重厚なハーモニーが印象に残る合唱曲である。ケルン・コレギウム合唱団の歌声は、対象的な2人の作曲家の作品を巧みに歌い分けており、その透明感ある歌声に知らず知らずのうちに引き込まれてしまうほど。ケルン・コレギウム合唱団は、合唱団とは名乗ってはいても大編成の合唱団ではなく、各声部一人ずつの重唱による合唱グループ。ケルンを中心に活躍していた6人の歌手たちで結成された。この合唱団の指揮者でもあるウォルフガング・フロンメを中心に、ソプラノ、メゾ・ソプラノ、テノール、バスが集まった合唱団であった。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇”シベリウス・スペシャリスト”名指揮者 ベルグルンドのシベリウス:管弦楽曲集

2022-11-24 09:38:44 | 管弦楽曲


シベリウス:交響詩「フィンランディア」
      劇音楽「クオレマ」から「悲しき円舞曲」
      交響詩「ポポヨラの娘」
      劇音楽「クオレマ」から「鶴のいる情景」
      交響詩「タピオラ」

指揮:パーヴォ・ベルグルンド

管弦楽:ボーンマス交響楽団

LP:東芝EMI EAC-30351

 フィンランドの名指揮者のパーヴォ・ベルグルンド(1929年―2012年)は、3度のシベリウス:交響曲全集を完成させるなど、シベリウスの専門家として名高いが、これはそんなベルグルンドの”シベリウス・スペシャリスト”としての真価がぎっしりと詰まったLPレコードだ。ベルグルンドは、最初ヴァイオリニストとしてフィンランド放送交響楽団に入り、その後指揮者に転向したようだ。フィンランド放送響首席指揮者、ボーンマス響音楽監督、ヘルシンキ・フィル首席指揮者、ストックホルム・フィル首席指揮者などを歴任した経歴を見ただけでも、その実力のほどが読み取ることができる。このLPレコードでは、イギリスのボーンマス交響楽団とのコンビで、お得意のシベリウスの管弦楽曲を演奏している。交響詩「フィンランディア」は、シベリウスの作品の中でも最も愛好されている作品であり、フィンランドの人々にとっては国歌に次ぐ重要な位置を占める作品。「悲しき円舞曲」は、劇音楽「クオレマ」の中の一曲で、病床についている女のところに男が現れ、二人は狂ったように踊るが、やがて重々しいノックがして死が訪れる、という場面で演奏される、シベリウスでなければ発想できないような作品。交響詩「ポホヨラの娘」は、フィンランドの民俗的叙事詩「カレワラ」を題材にシベリウスが曲を付けたもので、第8章の老英雄ワイナモイネンがポホヨラ(北方の国)の娘に求愛する場面によるものであり、シベリウス特有のオーケストレーションが存分に発揮されている。「鶴のいる情景」は、「悲しき円舞曲」と同じく劇音楽「クオレマ」の中の一曲で、弦の響きに乗って、鶴を表現するクラリネットの響きが一際印象的。最後の交響詩「タピオラ」は、これも民俗的叙事詩「カレワラ」を題材としたもので、シベリウス最後の交響詩だけあって、円熟した書法を随所に聴くことができる。これらのシベリウスの曲を、ベルグルンドが振ると、他の指揮者とは何かが違い、音のつくりに実に深みがある。だからといって、決して堅苦しいところはなく、ナイーブで抒情味に溢れているのである。つまり、ドイツ系的な音づくりとフランス的な音づくりとが微妙に絡みつき、それらに北欧音楽特有の透明感のある音づくりで、全体が統一されている。例えば、ベルグルンドが振るシベリウスの交響詩「タピオラ」を聴いていると、リスナーを一時、遠い北欧の風が舞い込む地に居るような、不思議な気持ちに誘ってくれるのだ。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇若き日のベロフ&コラールによるブラームス:ピアノ連弾曲集

2022-11-21 10:19:23 | 器楽曲(ピアノ)


ブラームス:ワルツ集 op.39
       愛の歌 op.52a
      シューマンの主題による変奏曲 op.23

ピアノ:ミッシェル・ベロフ
    ジャン=フィリップ・コラール

録音:1979年4月12日~13日/12月20日、フランス、パリ

LP:東芝EMI EAC‐90042

 これは、2人のフランスの名ピアニストが、若き頃にブラームスのピアノ連弾曲を録音した珍しいLPレコードである。つまり、ブラームスのピアノ連弾曲自体そう頻繁に演奏される曲ではない上、フランス音楽を得意の2人のピアニストがブラームスを弾くという、二重の意味で珍しいのである。結論からいうと、ブラームスの重厚さが、フランス人の2人のピアニストの演奏によって、新たな魅力を発散し、心躍るような楽しいLPレコードが出来上がった。「ワルツ集」と「愛の歌」の2曲は、ブラームスにも、こんな快活で屈託のない音楽があったことを再認識させられる作品。ミッシェル・ベロフ(1950年生まれ)は、フランス出身のピアニストで、特にメシアンなどフランス音楽に卓越した演奏を聴かせる。1966年、パリ音楽院を首席で卒業し、翌年パリでデビューリサイタルを開く。1967年第1回「オリヴィエ・メシアン国際コンクール」で優勝し、一躍世界の注目を浴びた。一方、ジャン=フィリップ・コラール(1948年生まれ)は、フラン出身の近代フランス音楽を得意とするピアニスト。パリ国立高等音楽院に異例の若さで入学を許可され、16歳の時、満場一致でパリ・コンセルバトワール最優秀賞を受け、その後も「ロン・ティボー国際音楽コンクール」でのグランプリなど、数々の国際的な賞に輝いている。2003年には、フランスの最高勲章であるレジオン・ドヌール騎士章を受勲している。1曲目の「ワルツ集」は、1865年にウィーンで書き上げられた。当時、ウィーンではワルツブームが湧き起っており、ブラームスも大いに関心を示したと言われており、作品となって完成したのがこのワルツ集なのである。第15曲目の曲は、一般に“ブラームスのワルツ”として知られている曲。2曲目の「愛の歌」は、ピアノ連弾と4部合唱の「愛の歌」の合唱部分だけを削除した曲だが、ピアノ連弾だけで演奏しても、立派に通用する。さすがはブラームスといったところ。最後の3曲目の「シューマンの主題による変奏曲」は、シューマンが「シューベルトとメンデルスゾーンの霊が現れ、遺して行った楽想」をもとに変奏曲を書き始めたが、結局完成には至らなかったといういわくつきの曲。シューマンの死から5年余りが経過した1861年にブラームスは、その遺志を受け継ぐかのようにこの曲想を取り上げ、主題と10の変奏曲として完成させた。これら3曲を弾く2人のピアノ連弾の音質は、実に暖かみのあるもので、LPレコードの良さを再認識させられる。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチ&カラヤン指揮ベルリン・フィルのドヴォルザーク:チェロ協奏曲/チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲

2022-11-17 09:41:35 | 協奏曲(チェロ)


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年9月21、23、24日、ベルリン、イエス・キリスト教会

 ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)は、旧ソ連のアゼルバイジャン共和国の出身で、カザルスと並び20世紀を代表するチェリストとして名高い。モスクワ音楽院で学び、全ソビエト音楽コンクール金賞、バッハの無伴奏チェロ組曲の演奏でスターリン賞を受賞するなどの輝かしい受賞歴を有し、一演奏家として以上の評価を与えられた大演奏家である。その後米国に渡り、指揮者活動などするうち、ソ連政府より国籍を剥奪されてしまうが、それも1990年には国籍を回復するという波乱万丈の人生を歩んだ。ロストロポーヴィチは、モスクワ音楽院で学んだ後、チェリストとして活躍する一方、1961年には指揮者としてもデビュー。1963年「レーニン賞」受賞。しかし、1970年社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことによりソビエト当局から”反体制”とみなされ、以降、国内演奏活動を停止させられる。1977年アメリカ合衆国へ渡り、ワシントン・ナショナル交響楽団音楽監督兼首席常任指揮者に就任。その後、1990年にはワシントン・ナショナル交響楽団を率いて、ロシア(旧ソ連)において16年ぶりに凱旋公演を行い、国籍を回復。2007年ロシア政府より勲1等祖国功労章を授与された。ロストロポーヴィチは、芸術や言論の自由を擁護する立場から、さまざまな活動を繰り広げた。これらの経歴により、世界文化賞、ドイツ勲功十字賞、イギリスの最高位勲爵士、フランスのレジオンドヌール勲章、アメリカの大統領自由勲章など、30ヶ国を超える国々から130以上もの賞を授与された。このLPレコードは、ドヴォルザーク:チェロ協奏曲を愛して止まなかったロストロポーヴィッチが、5度目となる録音を、カラヤン指揮ベルリン・フィルと行ったものである。ロストロポーヴィッチの演奏は、男性的な豪快な側面と繊細な側面とを併せ持っていると言われるが、このLPレコードは、正にこのことを裏付けるかのようなスケールの大きく、しかも情緒に富んだ、如何にもドヴォルザークらしさを表現した、見事な演奏を繰り広げており、この録音によってドヴォルザーク:チェロ協奏曲の真髄を余す所なく我々に伝えてくれている。カラヤン指揮ベルリン・フィルの伴奏もまた素晴らしく、ロストロポーヴィッチの名演と相俟って、聴くものに感動を与えずにはおかない。このLPレコードの録音は、名盤がひしめくドヴォルザーク:チェロ協奏曲の録音の中でも、飛び切り傑出した一枚と言って間違いはないであろう。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ウェラー弦楽四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲第21番/第23番(「プロシャ王セット第1/3」) 

2022-11-14 09:48:50 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番「プロシャ王セット第1」
       弦楽四重奏曲第23番「プロシャ王セット第3」 

弦楽四重奏:ウェラー弦楽四重奏団

         ワルター・ウェラー(第1ヴァイオリン)
         アルフレード・シュタール(第2ヴァイオリン)
         ヘルムート・ヴァイス(ヴィオラ)
         ルートヴィヒ・バインル(チェロ)

発売:1979年

LP:キングレコード GT 9257
 
 モーツァルトは、全部で23曲の弦楽四重奏曲を遺している。このうち、第2番~第7番は「ミラノ四重奏曲」、第8番~第13番は「ウィーン四重奏曲」、第14番~第19番は「ハイドン・セット」、第21番~第23番は「プロシャ王セット」と名付けられている。「ミラノ四重奏曲」は、1772年に父と共に行った第3回目で最後のイタリア旅行の途中さらにミラノ到着後に書かれ、ディヴェルトメント風の性格を帯びた作風となっている。「ウィーン四重奏曲」は、1773年に父と共に向かったウィーンに滞在中に書かれた。ハイドンによって確立された弦楽四重奏曲の様式にモーツァルトが対峙した作品群であり、ハイドンの弦楽四重奏曲の形態に従い、第1楽章は(第10番を除き)ソナタ形式、第2楽章、第3楽章はどちらかが暖徐楽章、どちらかがメヌエット、そして第4楽章がソナタ形式かロンド形式、あるいはフーガという構成をとっている。「ハイドン・セット」は、1781年にザルツブルクを去ってウィーン定着した時期に書かれた作品群であり、ハイドンに献呈された。モーツァルトが2年あまりを費やして作曲したこれらの作品は古今の弦楽四重奏曲の傑作として親しまれている。モーツァルトはハイドンを自宅に招きこれらの弦楽四重奏曲を披露したという。このLPレコードには、モーツァルトの弦楽四重奏曲の最後を飾る3曲からなる「プロシャ王セット」のうち、第1番と第3番の2曲が収められている。献呈相手のプロシャ王とは、フリートリッヒ・ウィルヘルム2世のことで、バッハ時代の有名なフリートリッヒ大王の甥にあたり、若い頃から音楽の素養を持ち、自分でもチェロを演奏したという。このため「プロシャ王四重奏曲」の弦楽四重奏曲は、チェロの独奏的な性格が現れていることが指摘されている。「プロシャ王第1」は、いかにもモーツァルトの室内楽の雰囲気が横溢しており、聴いていて楽しさにあふれた曲。 「プロシャ王第3」は、モーツァルト最後の弦楽四重奏曲らしく、深みのある聴き応えある曲となっている。 ウェラー弦楽四重奏団は、1959年に第1ヴァイオリンのワルター・ウェラーを中心に結成され、メンバー全員がウィーン・フィルの楽団員により構成されていた。結成から10年余り活発な活動を展開したが、ウェラーが指揮者に転向して、ウィーン・フィルを去ったことにより解散した。全員がウィーン・フィルのメンバーであっただけに、その優雅な音の響きは誠に心地良く、聴き終わった後、その印象が強く残る。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする