①ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン
チェロ:ヤーノシュ・シュタルケル
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
管弦楽:ベルリン放送交響楽団
録音:1961年6月3日~5日、ベルリン、イエス・キリスト教会
②ブラームス:悲劇的序曲
指揮:ローリン・マゼール
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1959年1月12日~14日、ベルリン、イエス・キリスト教会
LP:ポリドール SE 7902
ブラームスは、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲を1887年(57歳)の夏、スイスのトゥーン湖畔で書き上げた。それ以前に、2曲のピアノ協奏曲とヴァイオリン協奏曲、さらに第4交響曲も既に作曲を終え、最期の集大成の時期に差し掛かった頃の作品である。当時としては珍しい2つの楽器の協奏曲とした理由は明らかではないが、このLPレコードのライナーノートで浅里公三氏は「ブラームスは、その頃(第4交響曲の2年後)バッハやそれ以前の音楽に強く心をひかれていましたから、おそらく彼は、バッハ時代の”コンチェルト・グロッソ”にあやかる楽曲として”2つのソロ楽器”のための当世風の協奏曲を着想していたのでしょう」と推察している。最初の構想では、交響曲の作曲を目指していたようだが、それを変更して協奏曲とした経緯があるだけに、一般の協奏曲と比べオーケストラの比重が高く、独奏ヴァイオリンとチェロがオーケストラに溶け込むように演奏されるので、普通の協奏曲を聴くのとは、大分趣が異なり、厚みのあるオーケストラの印象が強く残る。初演は、1887年10月18日にケルンで、ヨアヒムとハウスマンを独奏者として、ブラームス自身の指揮で行われた。このLPレコードの録音は、ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)、チェロ:ヤーノシュ・シュタルケル(1924年―2013年)、指揮:フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)、管弦楽:ベルリン放送交響楽団という、当時望みうる最高のメンバーによってなされている。重みのあるオーケストラの響きを背景に、ヴァイオリンとチェロが巧みに融合し合い、如何にも渋い、ブラームス特有の世界を十二分に表現し切っている。ところで、ブラームスは第2交響曲と第3交響曲の間に、演奏会用の独立した序曲を2曲作曲した。一つは、「大学祝典序曲」であり、もう一つが、このLPレコードに収録されている「悲劇的序曲」である。「悲劇的」という意味が具体的に何を指すのかは明らかでないが、交響曲の一つの楽章のように充実した序曲であり、暗い熱情とでも言ったらいいような雰囲気を持った名曲である。指揮のローリン・マゼール(1930年―2014年)とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、求心力に富み、聴いているとブラームスの情念が自然とリスナーの心の内に忍び寄ってくるような演奏を繰り広げる。(LPC)