<モーツァルト:4手のためのピアノ作品集‐3>
モーツァルト:ソナタ 変ロ長調 K.186c(358)
アンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501
幻想曲 ヘ短調 K.608
ソナタ ハ長調 K.19d
ピアノ:イェルク・デムス
パウル・バドゥラ=スコダ
これは、全4巻からなるイェルク・デムスとパウル・バドゥラ=スコダによる、モーツァルト:4手のためのピアノ作品集の第3巻目のLPレコード。1曲目の「ソナタ 変ロ長調 K.186c(358)」は、1774年4月から5月にかけてザルツブルクで作曲した4手用ソナタの第3番目の作品。第1楽章と第3楽章は、生き生きと颯爽としたテンポで弾かれるのに対し、第2楽章は、平静さを込めた流れが美しい。この作品を、モーツァルトは、義理の妹のアロイジア・ウェーバーや妻のコンスタンツェと一緒に弾き楽しんだようだ。第2曲目の「アンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501」は、1786年11月4日にウィーンで書かれ、当初は2台のピアノ(チェンバロ)のために書かれた。第3曲目の「幻想曲 ヘ短調 K.608」は、最初は自動オルガンのための作品として書かれた。自動オルガンは、音楽家が演奏するのではなく、自動で音楽を演奏するオルガン。注文主は、蝋人形館を開いて機械仕掛けの楽器のコレクションを展示し、楽器の自動演奏を聴かせていたヨーゼフ・ダイム伯爵。1791年の3月3日にウィーンで作曲され、モーツァルトの生涯で最後の作品となる3つの中の一つ。第4曲目の「ソナタ ハ長調 K.19d」は、モーツァルトの4手のためのピアノ作品としては、最初の曲と考えられており、1765年5月初旬にロンドンで作曲されたとされる。このLPレコードでピアノを弾いているは、いずれも日本のファンには馴染み深かったイェルク・デムス(1928年―2019年)とパウル・バドゥラ=スコダ(1927年―2019年)である。イェルク・デムスは、オーストリア出身のピアニストで、11歳の時にウィーン音楽アカデミーに入学、1945年に卒業した後はパリでイヴ・ナットに師事。その後ザルツブルク音楽院でギーゼキングに教えを請うなどして研鑽を積んだ。1956年の「ブゾーニ国際コンクール」で優勝し、世界的にその名が知られるようになる。一方のパウル・バドゥラ=スコダも、オーストリア出身のピアニスト。ウィーン音楽院で学び、1947年に「オーストリア音楽コンクール」で優勝。名ピアニストのエトヴィン・フィッシャーに師事。自筆譜や歴史的楽器の蒐集家としても有名で、「新モーツァルト全集」においては校訂者も務めた。このLPレコードでの2人は、息がピタリと合い、その自然なリズム感が聴いていて誠に心地良い。単にムードにおぼれることなく、陰影感を程よく含ませ、メリハリが利いたその豊かな演奏内容は、ウィーンで育った二人であるからこそ実現可能だと言っても過言ではないだろう。(LPC)