フォーレ:ピアノ五重奏曲第1番/第2番
ピアノ:ジャン・ユボー
弦楽四重奏:ヴィア・ノヴァ四重奏団
ジャン・ムイエール(ヴァイオリン)
エルヴェ・ル・フロク(ヴァイオリン)
ジェラール・コセ(ヴィオラ)
ルネ・ベネデッティ(チェロ)
発売:1976年
LP:RCV(ΣRATO) ERX‐2220
フォーレの音楽は、わが国においては、どちらかというと、いわゆる“通”と言われる人々にファンが多いように思う。フォーレの「レクイエム」の熱烈な愛好家はいるが、数的にそう多いわけではない。その理由は、同世代のワーグナーなどが強い個性で人気を集めているのに対し、フォーレの音楽は、強く自己を押し出すことはせず、音楽的にも無調音楽など革新な試みとは一線を画し、伝統的、古典的な立場を取り続けたからだろう。しかし、その一方で、高貴さ、崇高さという点では、他の作曲家を遥かに凌駕していることは明らかである。それも、単に上品でサロン的であること以上に、緻密な構成力に裏づけされた和声の扱いの巧みさと、優雅に、しかも滑らかに流れるような音楽は、独特の魅力を発散して聴くものを感動させずにおかない。そんなフォーレの音楽の典型ともいえる室内楽作品が、2曲のピアノ五重奏曲である。2曲のピアノ四重奏曲と比べてもさらに地味な存在ながら、2曲とも緻密で流れるようなフォーレの音楽の特徴を最大限に発揮した充実した室内楽曲であることは一度聴いてみればたちどころに納得させられる。ピアノ五重奏曲第1番は、全体が明るく楽しげで、瑞々しい旋律に溢れ、フォーレらしい優雅さに満ちた曲に仕上がっている。1906年にフォーレとイザイ弦楽四重奏団により初演された。「イザイ」とは、無伴奏ヴァイオリンソナタで名高いウジェーヌ=オーギュスト・イザイのこと。この曲の全体は、モルト・モデラート、アダージョ、アレグレット・モデラートの3つの楽章からなっている。一方、ピアノ五重奏曲第2番は、1921年に完成した。第1番の時とは異なり、高齢のため初演でフォーレはピアノを弾くことができなかったという。全体は4つの楽章からなっている。全体的に緻密でがっちりした構成力が印象に残り、あくまでも深く充実した内容の曲となっており、フォーレの室内楽曲の傑作の一つと言っても過言ない。2曲とも、晩秋から冬の日の昼下がりに聴くとその情感が一層くっきりと浮かび上がって聴こえてくる。ジャン・ユボー(1917年―1992年)は、フランスの名ピアニスト・作曲家で、ヴェルサイユ音楽院院長、パリ音楽院室内楽科教授を務めたフランス楽界の重鎮であった。ヴィア・ノヴァ四重奏団は、パリ音楽院の出身者によって1968年に結成されたカルテット。このLPレコードでのジャン・ユボーとヴィア・ノヴァ四重奏団の演奏は、精緻にして高雅な佇まいを見せ、フランス音楽の真髄を余すところなく表現し尽している。(LPC)