★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フランス弦楽三重奏団のモーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメント K.563

2023-09-28 09:48:24 | 室内楽曲


モーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメント K.563

弦楽三重奏:フランス弦楽三重奏団
            
        ジェラール・ジャリ(ヴァイオリン)
        セルジュ・コロー(ヴィオラ)
        ミシェル・トゥールナス(チェロ)

発売:1971年

LP:東芝音楽工業 AA‐9619

 ディヴェルティメント(喜遊曲)は、貴族が室内で食事などをするときに演奏する曲である。このためディヴェルティメントの多くは、明るく、軽快な曲がほとんどで、食事がうまく運ぶような内容となっている。従って、間違っても深刻で重々しい曲は、ディヴェルティメントとしては失格だと言ってもそう間違いでない。ところがある。モーツァルトは、このディヴェルティメントの概念に真っ向から挑戦状を突きつけたのであるから凄い。モーツァルトは、時々こんな破天荒な試みをして、回りを唖然とさせる気性があったようである。今回のLPレコードのモーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメントK.563を聴くと、思わず、これがディヴェルティメントなのかと考え込んでしまうのである。つまり、内容の密度が濃く、軽くないことにもってきて、内面をじっと見つめるような重厚さすら感じさせる。これでは食事が喉を通らず、暫し、音楽に集中せざるを得なくなる。多分、モーツァルトは、貴族ががやがやとおしゃべりしながら食事をして、添え物としてディヴェルティメントが流れていること自体が我慢ならなかったのではないのか。「食事とおしゃべりに夢中の貴族に一泡ふかしてやろう」と作曲したのではないかとすら思えてくる。この曲は、モーツァルトが30曲ほど書いたディヴェルティメントの最後の曲で、1788年に作曲された。この1788年は、最後の3大交響曲第39番、第40番、第41番「ジュピター」が書かれた年でもあり、モーツァルトの筆が、飛躍的に深みを増した時期に当たる。それだけに、この全部で6楽章からなる弦楽三重奏のためのディヴェルティメントK.563も、深みがあると同時に、一種の達観したような明るさを兼ね備えた名曲となっている。ここでのフランス弦楽三重奏団の演奏内容は、まず、その流れるような美しい演奏に耳が吸い寄せられる。フランスの弦楽器演奏が醸し出す軽妙洒脱な演奏は、この曲の真価を再認識するのには打ってつけ、と言ってもよかろう。フランス弦楽三重奏団は、1963年に結成された。ヴァイオリンのジェラール・ジャリ(1836年―2004年)は、1951年の「ロン=ティボー国際音楽コンクール」で第1位大賞の受賞者。ヴィオラのセルジュ・コローは、世界的なカルテットのパレナン弦楽四重奏団に在籍していたことがあり、ソリストとしても著名な演奏家。チェロのミシェル・トゥールナスも弦楽四重奏団の奏者としての経験も持ち、独奏者としても知られていた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロバート・アーヴィング指揮フィルハーモニア管弦楽団のドリーブ:「コッペリア」「シルヴィア」/ショパン(ダグラス編曲):「レ・シルフィード」

2023-09-25 09:48:19 | 管弦楽曲


ドリーブ:バレエ音楽「コッペリア」
  
 前奏曲(第1幕)/マズルカ(第1幕)/ワルツ(第1幕)/“愛の穂”のバラード(第1幕)/スラヴの主題と変奏曲(第1幕)/祈り(第3幕)/チャルダッシュ(第1幕)      

ドリーブ:バレエ音楽:「シルヴィア」

 前奏曲「狩りの女神」(第1幕)/間奏曲(第1幕)/ゆるやかなワルツ(第1幕)/ピチカート(第3幕)/アンダンテ(第3幕)/行進曲とバッカスの行列(第3幕)
       
ショパン(ダグラス編曲):バレエ音楽「レ・シルフィード」

 序曲(前奏曲op.28-7)/第1曲(ノクターンop.32-2)/第2曲(ワルツop70-1)/第3曲(マズルカop.33-2)/第4曲(マズルカop.67-3)/第5曲(前奏曲op.67-3)/第6曲(ワルツop.64-2)/第7曲(華麗なる大ワルツop.18)

指揮:ロバート・アーヴィング

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

LP:東芝EMI EAC‐30095

 バレエ音楽といえば誰もが最初に思い浮かべるのが、ドリーブ(1836年―1891年)の「コッペリア」と「シルヴィア」ではなかろうか。このLPレコードには、この2曲とショパン作曲(ダグラス編曲)の「レ・シルフィード」が収められており、バレエ音楽の醍醐味を存分に味わうことができる。19世紀に入ってバレエは、技術的に大いに進歩したが、一方では、単なる見世物的要素の強い“曲芸”に終始していた。それを、芸術性の高い音楽を付けることによって、バレエ自体を高めることに成功したのがドリーブであり、“バレエ音楽の父”とも言える所以なのである。その思想は「『音楽はバレエのテキストと密接に結びついたものでならない』『劇的な興味を犠牲にして、単に踊り手の技術の見せ場として舞曲がならべられ、音楽がその拍子とりであってはならない』・・・」(吉田徳郎氏、ライナーノートより)など、今考えれば当たり前の考えであっても、当時のバレエ界にとっては画期的な考えであり、丁度、モーツァルトやグルックがオペラで果たしと同じ役割を、ドリーブはバレエにおいて実現させたと言うことができよう。「コッペリア」と「シルヴィア」は、そんなドリーブの真骨頂が遺憾なく発揮されたバレエ音楽の傑作として、現在も多くのファンを魅了して止まない。「コッペリア」は、ドイツ・ロマン派の作家E・T・Aホフマンの原作をもとにつくられた。この曲の特徴は、機知に溢れた旋律と生き生きとしたリズムにあり、全部で前奏曲と20曲からなり、ここでは6曲が演奏されている。「シルビア」は、イタリアの詩人タッソーの物語「アマンタ」に基づいている。作品自体は平凡であるがドリーブが付けた音楽が優れ、現在でもしばしば上演される。ここでは6曲が演奏されている。一方、ショパン作曲(ダグラス編曲)の「レ・シルフィード」も、バレエ音楽の華ともいえる曲で、ショパンの華麗で叙情的なピアノ独奏曲が、実に巧みにオーケストラ曲に編曲され、これもバレエ音楽の名曲として、多くのファンから支持を受けている。これら3曲を演奏しているのがロバート・アーヴィング指揮フィルハーモニア管弦楽団。アーヴィング(1913年―1991年)は、約30年間ニューヨーク・シティ・バレエで音楽監督を務めたバレエ指揮者。華やかな中に、軽やかなバレエ独特のリズム感をふんだんに取り入れた演奏であり、これら3曲のバレエ音楽を楽しむには、これ以上は望めないと思えるほどの熟達した演奏を聴かせてくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブルのベートーヴェン:七重奏曲/弦楽五重奏のためのフーガ

2023-09-21 09:36:40 | 室内楽曲


ベートーヴェン:七重奏曲Op.20
        弦楽五重奏のためのフーガop.137

演奏:ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブル
       
ゲルハルト・ヘッツェル/ヴイルヘルム・ヒューブナー(ヴァイオリン)
      ルドルフ・シュトレンク/エトヴァルト・クドラック(ヴィオラ)
      アダルベルト・スコッチ(チェロ)
      ブルクハルト・クロイトラー(コントラバス)
      アルフレート・プリンツ(クラリネット)
      ディートマール・ツェーマン(ファゴット)
      ローラント・ベルガー(ホルン)

録音:1975年11月19~22日、ウィーン

LP:ポリドール SE 7705(ドイツグラモフォン MG1060 2530 799) 

 このLPレコードで演奏している「ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブル」は、ウィーン・フィルのコンサートマスターのゲルハルト・ヘッツェルによって1970年に結成され、全員がウィーン・フィルのメンバーからなっている。以後、現在までその伝統は生かされ、来日公演を行っている(名称は「ウィーン室内合奏団」)。ゲルハルト・ヘッツェル(1940年―1992年)は、ユーゴスラビア出身で、ドイツ、オーストリアにおいて活躍したヴァイオリニスト。1956年、ベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)のコンサートマスターを経て1969年には、オーストリア人以外では異例であったウィーン国立歌劇場およびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任したが、1992年、ザルツブルグ近郊で登山中に転落死した。ヘッツェル亡き後、同アンサンブルは、ヨゼフ・ヘルが師の意志を継ぎ、ウィーンの伝統の響きを現代に伝え、現在も活発な演奏活動を展開している。この録音は、同アンサンブル結成5年目にウィーンで行われたものだが、メンバーには、リーダーのヘッツェルのほか、ヴァイオリンのヒューブナー、ヴィオラのシュトレンク、そしてクラリネットのプリンツなど、昔懐かしい名前が並んでいる。ベートーヴェン:ヴァイオリン、ヴィオラ、クラリネット、ホルン、ファゴット、チェロ、コントラバスのための七重奏曲op.20は、若き日のベートーヴェンの傑作の室内楽として知られた曲で、オーストリア皇帝フランツⅡ世の妃マリア・テレジア皇后に献呈されている。これはベートーヴェンが、自らの自信作である七重奏曲を皇后に献呈することによって、ハプスブルグ宮廷に認められようとしたためと言われている。曲は全部で6つの楽章からなっているが、全体の印象は、若さが漲り、はつらつとした印象を強く受ける一方、青春のやるせないような感情も顔を覗かせている。一方、ベートーヴェン:弦楽五重奏のためのフーガop.137は、1817年に完成。ヴァイオリン、ヴィオラ各2、チェロのために書かれた作品で、わずか83小節の小品であるが、5声の対位法で書かれた見事なフーガ。ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブルの演奏は、実に落ち着いた、伸びやかで、しかも深みのある内容となってなっており、「これが本物のウィーン情緒だ」と言わんばかりの演奏で、さすがウィーン・フィルの名手達の演奏ではあると思わず唸らされる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇秋山和慶指揮コロムビア・プロムナード管弦楽団の“セレナードの花束”

2023-09-18 09:39:25 | 管弦楽曲


シューベルト:セレナード
トセリ:嘆きのセレナード
ブラーガ:天使のセレナード
グノー:セレナード
モシュコフスキー:セレナード
ハイドン:セレナード
ドリゴ:セレナード
ハイケンス:セレナード
レハール:フラスキータのセレナード
ロンバーグ:学生王子のセレナード
チャップリン:マンドリン・セレナード
トスティ:セレナード

指揮:秋山和慶

管弦楽:コロムビア・プロムナード管弦楽団

発売:1970年5月

LP:日本コロムビア MS‐7004‐J
 
 これは、誰もが知っている有名なセレナードをオーケストラで演奏した、聴いていて無性に楽しい曲が詰まったLPレコードだ。セレナードは、夕べに恋人の窓の下で歌う愛の歌であり、小難しい理屈なぞ、この際お引き取り願うしかない。演奏は、秋山和慶指揮コロムビア・プロムナード管弦楽団が、誰が聴いても分かりやすく、そして何よりもロマンティックな響きを聴かせており、心から楽しめる演奏となっているのが嬉しい。クラシック音楽を聴き始めた人から、クラシック音楽の玄人まで等しく聴ける録音なんて、そう滅多にあるものではないが、このLPレコードはそれを現実のものとしている。そんなわけで、このLPレコードは、今でも私の愛聴盤の中の一枚となっている。「シューベルトのセレナード」は、遺作として出版された歌曲集「白鳥の歌」の第4曲。「嘆きのセレナード」は、イタリアのフィレンツェに生まれたトセリが作曲した、過ぎ去った日々の楽しい想い出を懐かしく思う嘆きの歌。「天使のセレナード」は、イタリアのチェリストで作曲家のブラーガの曲で、子供が天使の呼び声にこたえて、母親にさよならを告げる対話風の曲。「グノーのセレナード」は、19世紀の作曲家グノーの優美なメロディーの代表的作品。「モシュコフスキーのセレナード」は、ポーランド生まれのピアニストの「セレナータ」というピアノ曲を編曲したもの。「ハイドンのセレナード」は、ハイドンの弦楽四重奏曲ヘ長調op.3の5の第2楽章アンダンテ・カンタービレで、弱音器を付けて弾く第1ヴァイオリンのメロディー。「ドリゴのセレナード」は、イタリアのパドヴァの生まれで、ペテルブルグ帝室歌劇場でバレエ指揮者として活躍したドリゴの作品で、バレエの一場面に挿入される歌曲として作曲された。「ハイケンスのセレナード」は、第2次世界大戦中に、前線と内地とを結ぶ“希望音楽会”のテーマ音楽にハイケンスが作曲した名曲。「フラスキータのセレナード」は、レハールが作曲したオペレッタ“フラスキータ”の中のロマンティックな曲。「学生王子のセレナード」は、ハンガリー生まれのロンバーグのミュージカルの代表作「学生王子」で歌われる曲。「マンドリン・セレナード」は、1957年制作のチャップリン主演・監督作品の映画「ニューヨークの王様」のロマンティックな主題曲。そして最後の「トスティのセレナード」は、イタリア生まれの作曲家トスティの美しい歌曲。(LPC)
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◇クラシック音楽LP◇ワルター・クリーンのモーツァルト:幻想曲全集

2023-09-14 09:37:18 | 器楽曲(ピアノ)


モーツァルト:幻想曲とフーガ ハ短調 KV394
       幻想曲  ハ長調 KV395
       幻想曲 ハ短調 KV396
       幻想曲 ニ短調 KV397
       幻想曲  ハ短調 KV475

ピアノ:ワルター・クリーン

発売:1976年

LP:日本コロムビア OW‐7691‐VX

 これは、モーツァルトの幻想曲全5曲を収めた珍しくも愛らしいLPレコードである。モーツァルトの幻想曲だけを集めた録音は、あるようでなかなかないものだ。これらの曲は、いずれも小品であるし、ピアノソナタと一緒に演奏されたりすることはあるが、独自の存在を強くアピールするような性格を持ち合わせていないからであろう。だからと言ってそれらが魅力がない作品かというと、決してそんなことはない。それは、このLPレコードを通して聴いてみれば即座に分る。即興的な趣が強く、さらに陰影のあるその曲調を聴くと、モーツァルトの魅力がこれらの曲の中にぎゅっと凝縮されているようでもあり、一度その魅力が理解できると、生涯忘れられない思い出深い曲に一挙に大変身を遂げるのである。「幻想曲とフーガハ短調KV394」は、1782年にウィーンで作曲された。アダージョの短い序奏の後、3つの部分と短いコーダが続き、半終止でフーガに入る。「幻想曲ハ長調KV395」は、1778年、滞在中のパリで書かれたという。トッカータ風の曲で、大きく3つに分けられ、3つ目がカプリチッョ。「幻想曲ハ短調KV396」は、1789年、ヴァイオリンソナタとして書き始めたが完成せず、それを基に2年後にピアノ曲として完成させた作品。「幻想曲ニ短調KV397」は、1782年にウィーンで作曲されたとされる美しい曲。最後の「幻想曲ハ短調KV475」は、ピアノソナタ第14番と組み合わせて演奏されることが多いことで知られる。1785年にウィーンの出版社から出版された時、両曲が合わさった形で出版されたためにそうなったようだ。これらの5つの幻想曲を演奏しているのがオーストリア、グラーツ出身のピアニストのワルター・クリーン(1928年―1991年)である。「ブゾーニ国際ピアノコンクール」および「ロン=ティボー国際コンクール」で入賞。クリーンの演奏の最大の特色は、音の透明な美しさにある。それと同時に強靭なピアノタッチも持ち合わせており、脆弱さや曖昧さとは縁遠い演奏を聴かせる。その透明感のあるピアノ演奏は、モーツァルトの作品にはぴったりと合うし、特に、これらの幻想曲の演奏には正に打って付けのピアニストと言える。ここでも、特徴であるみずみずしく、そしてきらめくような、類稀な演奏を披露しており、その演奏内容は、気品のある詩情味豊かなものとなっており、見事な出来栄えだ。(LPC)

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