★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のルーセル:交響曲第3番/第4番

2024-12-26 10:32:47 | 交響曲


ルーセル:交響曲第3番/第4番

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AA‐7595
 
 アルベール・ルーセル(1869年―1937年)は、最初は印象主義の作風から始まり、その後新古典主義の作品を作曲するに至ったフランスの作曲家。当時、ラヴェルとともにフランス楽壇の重鎮として活躍した。ルーセルは、海軍に入り軍艦の経験を積む。1894年に海軍を退くと、パリで音楽の道を志し、ダンディなどに師事。ルーセルの作風は、初期作品は印象主義音楽に影響を受けたが、もともとは古典主義者であった。同時代のドビュッシーやラヴェル、サティの作風とルーセルとの作風の違いは、その強烈なリズム感と重厚なオーケストレーションにある。ラヴェルと同じようにルーセルもジャズにも興味があったようで、「夜のジャズ」という歌曲を残している。日本においては、同時代のフランスを代表する作曲家のフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルに比べ、ルーセルの認知度は必ずしも高いとはいえない。これは、強固な構成と形式美を追い求めるルーセルの音楽は、フランス音楽独特得の雰囲気とは少々異なるところに原因があるのではないかと推察される。フランス音楽は、繊細さを追究する反面で、強烈な主張を持った音楽も存在する。つまり、フランスにおいてはルーセルの音楽もまた、フランス音楽そのものなのだ。このLPレコードには、交響曲第3番/第4番が収録されている。第3番は、ダイナミックで強烈なリズムを持った交響曲であり、そのエネルギッシュさが特に印象に残る。第4番も基本的には第3番と似たような作風の曲であるが、第3番には無かった平穏さも持ち合わせ、一回り大きな印象を受ける。これら2曲の交響曲は、現在ではフランクやサンーサーンスの交響曲と並び、フランスを代表する交響曲に位置づけられている。さらに、このルーセルの2曲の交響曲は、この後につづくオネゲル、ミヨー、リヴィエ、デュティユーなどに大きな影響を与えたといわれているほど、重要な作品と言える。このLPレコードでは、フランス出身の名指揮者アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)とパリ音楽院管弦楽団(パリ管弦楽団の前身)の演奏で、ルーセル独特の世界が思う存分繰り広げられる。第3番の演奏は、激しいリズムと奥深いオーケストラの音色が巧みに取り込まれ演出され、そのエネルギッシュさに圧倒される思いがする。第4番は、第3番とは異なり、優美な側面を間に挟みながら曲が展開される。このため、第3番ほど強烈な印象は与えないが、深みのあるオーケストレーションが、よりスケールの大きな交響曲としている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団他のブラームス:弦楽六重奏曲第1番/第2番

2024-12-23 09:47:30 | 室内楽曲


ブラームス:弦楽六重奏曲第1番/第2番

弦楽六重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
           
        アントン・カンパー(第1ヴァイオリン)
        カール・マリア・ティッツェ(第2ヴァイオリン)
        エーリッヒ・ヴァイス(ヴィオラ)
        フランツ・クヴァルダ(チェロ)
        
      フェルディナンド・シュタングラー(第2ヴィオラ/第1番)
      ウィルヘルム・ヒューブナー(第2ヴィオラ/第2番)         
      ギュンター・ヴァイス(第2チェロ)

LP:東芝EMI IWB‐60045
 
 ブラームスは、弦楽四重奏曲にヴィオラ1、チェロ1を加えた弦楽六重奏曲を、第1番と第2番の2曲作曲している。弦楽四重奏曲を3曲しか作曲しなかったのに対し、弦楽六重奏曲は2曲作曲したということになる。これは、ベートーヴェンとは異なり、ブラームスの志向としては、弦楽四重奏曲よりは、より重厚な響きがある弦楽六重奏曲に向いていたためであろう。第1番は、1859年に着手され、翌1860年夏に完成した。全4楽章は、明るい牧歌的なメロディーに溢れており、このためこの第1番を愛好するリスナーは多い。第2番は、第1番を作曲した5年後の1865年に完成した。この曲は「アガーテ六重奏曲」と呼ばれることがある。それは、ブラームスが、声の美しい女性、アガーテ・フォン・シーボルトに、結局は結ばれぬ恋心を抱いた頃の作品であるからだ。ブラームスは、結婚に至らなかった呵責の念をこの作品に込めたと言われている。そう言われて聴いてみると、第1番は牧歌的で明るい曲調の作品に仕上がっているのに対し、この第2番は、思索的で心の内面を覗き込むような内省的な曲となっている。悲恋の感情なのであろうか、デリケートな感情が克明に描写され、第1番には無い奥深さを感じさせる作品となっている。このLPレコードで演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団を中心としたメンバーである。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の創設は1934年で、戦後2度来日を果たしている。ウィーン交響楽団のメンバーだった第1ヴァイオリンのアントン・カンパー(1903年―1989年)を中心に、流れるような美しい、そして甘い音色が際立った演奏をする弦楽四重奏団として、当時多くのファンを有していた。要するにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、古きよき時代を思い起こさせる、ウィーン情緒たっぷりの弦楽四重奏団であったのだ。1967年カンパーの現役引退を機に解散した。このLPレコードでの第1番の演奏は、通常我々が耳にする明るく牧歌的で、スケールを大きく取った第1番の演奏とは大分異なり、弦楽四重奏のメンバーが主導権を握り、実に緻密で清らかな流れに沿った静寂な演奏に終始する。私はこの演奏については、何か、新しい第1番の世界を聴いたかのような感じを受けた。一方、第2番の方は、6人が対等な関係を維持し、如何にも弦楽六重奏曲的な広がりの演奏を繰り広げる。特に、第2番特有なデリケートな曲調を、実に緻密な演奏で表現し切っているところは、見事と言うしかない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ギーゼキングとカンテルリ指揮ニューヨーク・フィルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ライヴ録音盤)

2024-12-19 09:39:59 | 協奏曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

指揮:グィード・カンテルリ

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

録音:1956年3月25日、ニューヨーク(ライヴ録音)

発売:1980年

LP:キングレコード(Cetra) SLF 5013
 
 このLPレコードは、1956年3月25日にニューヨークで開催されたコンサートのライヴ録音である。ピアノはドイツ出身の巨匠ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)、指揮はイタリア出身で35歳の若さで飛行機事故で亡くなったトスカニーニの後継者と目されていた天才指揮者グィード・カンテルリ(1920年―1956年)、そして、管弦楽はニューヨーク・フィルハーモニックという、当時考え得る最高の演奏家達による演奏で、しかも、曲目はベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」。これだけを見ても、目も眩みそうな組み合わせの演奏であるが、しかもライヴ録音というから凄い。音質も当時のライヴ録音としては上出来な部類に入るもので、現在でも充分に鑑賞に耐え得る。こんな豪華なコンサートであったが、その直後に、大きな悲劇が待ち受けていたなどということは、当日のコンサートの演奏に酔いしれた聴衆は誰ひとり予想もしなかったであろう。何と、ギーゼキングは、このコンサートの直後に、交通事故に遭い、同乗の夫人を失うととともに、自身も怪我をし、1956年11月26日に世を去ってしまう。一方、指揮者のグィード・カンテルリは、1956年11月24日、飛行機事故のため、パリのオルリー飛行場付近で35歳という短い生涯を終えることになる。つまり、カンテルリが飛行機事故で死んだ2日後に、ギーゼキングが交通事故のためこの世を去ってしまったのだ。これは、単なる偶然なのであろうか。あたかも、神が死ぬ前に、2人をコンサートで共演させたかのようにも感じられるほどである。ギーゼキングは、すでに当時、新即物主義のピアニストとして、その右に出るものはいないという巨匠中の巨匠であった。新即物主義というのは楽譜に忠実に演奏するスタイルであり、当時、ロマン主義で恣意的に演奏されていたピアノ演奏法をギーゼキングが根底から覆してしまったのだ。この流れは脈々と現在まで受け継がれている。ギーゼキングは、「皇帝」の録音をこのほか2つ遺しているが、いずれもスタジオ録音盤。トスカニーニは、「カンテルリが自分と同じような指揮をする」と言ってNBC交響楽団の副指揮者として招き、1956年には、スカラ座の音楽監督に指名した。このLPレコードで、ギーゼキングは、ライブ録音でしか聴けないような即興的な背筋のぴーんと張った迫力あるピアノ演奏を聴かせる。一方、カンテルリの指揮は、ギーゼキングに一歩も引かず、如何にもベートーヴェンの曲だと納得させられる、構成力のある伴奏が見事である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リリー・クラウスのモーツァルト:ピアノソナタ第3番/第9番/第11番/幻想曲ニ短調K.397

2024-12-16 09:49:35 | 器楽曲(ピアノ)


モーツァルト:ピアノソナタ第3番K.281
       ピアノソナタ第9番K.311
       ピアノソナタ第11番K.331
       幻想曲ニ短調K.397

ピアノ:リリー・クラウス

LP:東芝EMI EAC‐30132 
  
 モーツァルトを弾かせたら、現在に至るまで、それらに並び得る者がいないというピアニストが3人いる。ディヌ・リパッティ(1917年―1950年)、クララ・ハスキル(1895年―1960年)、それに今回のLPレコードで弾いているリリー・クラウス(1903年―1986年)の3人だ。いずれも天性のモーツァルト弾きであり、演奏技巧がどうのこうのと言う前に、そのピアノ演奏から紡ぎ出す音楽自体が、モーツァルトの演奏に欠かせない活き活きとした光彩を帯びており、優美さ、典雅さ、純粋さ、いずれをとっても、天上の音楽と言えるほどの域に達している。リリー・クラウスの演奏はというと、背筋がピンと張っているような、実にメリハリがある音が特徴だ。そして川が流れるように自然にメロディーが流れ、泉が湧き出るが如く心地良いリズムを刻む。このLPレコードは、リリー・クラウスによる「モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集」のVOL.6である。3曲のピアノソナタと幻想曲ニ短調が収められている。どの曲の演奏もリリー・クラウスの特徴が出た録音だが、ピアノソナタ第3番の演奏が、私には特に印象に残る。モーツァルト初期の作品にもかかわらず、リリー・クラウスの手に掛かると、あたかも中期か後期の作品にも思えるような深みを帯びてくるから不思議だ。 ピアノソナタ第9番の演奏は、如何にもモーツァルトらしく軽快なテンポを帯び、伸びやかな雰囲気が何とも言えず心地良い。無心の中に秘めた技法がキラリと光る。ピアノソナタ第11番は、しっとりと優雅に弾き進む。何かに導かれているように、リリー・クラウスのピアノ演奏は純粋そのものと言ったらいいのだろうか。特に、有名な「トルコ行進曲」の楽章では、あたかもモーツァルトがリリー・クラウスに乗り移ったかの如く、颯爽とした名演を聴かせる。最後の幻想曲ニ短調では、陰影に富んだモーツァルトの短調独特の世界に、自然とリスナーを導く。何よりもモーツァルトの哀愁が、ただ聴いているだけで胸を打つ。リリー・クラウスは、オーストリア=ハンガリー帝国、ブダペスト出身。ブダペスト音楽院、ウィーン音楽院で学ぶ。その後、アルトゥル・シュナーベルに師事するためベルリンに移った。モーツァルトやベートーヴェンの演奏で名声を得ると共に、ヴァイオリン奏者のシモン・ゴールドベルクと室内楽の演奏・録音を行い、国際的な称賛を得た。第二次世界大戦後、1967年にアメリカに移住。1986年、ノースカロライナ州アッシュヴィルにて永眠(享年83歳)。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇全盛期のカラヤン指揮ベルリン・フィルのモーツァルト:ディヴェルティメント第17番

2024-12-12 09:39:20 | 管弦楽曲


モーツァルト:ディヴェルティメント第17番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1965年8月22日―23日、スイス、サン・モリッツ

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) SE 7005
 
 ディヴェルティメント(喜遊曲)とは、18世紀中頃に現れた器楽組曲で、深刻さや暗い雰囲気を持たず、明るく、軽妙で楽しい曲調の曲を指す。貴族の食卓・娯楽・社交・祝賀などの場で演奏され、楽器編成は特に指定はない。同じような曲調にセレナードがあるが、セレナーデが屋外での演奏用であるのに対し、ディヴェルティメントは主に室内での演奏用作品を言う。今回のLPレコードのモーツァルトのディヴェルティメント第17番は管弦楽用で、全部で20数曲あるモーツァルトのディベルティメントの中でも最も人気のある作品となっている。全体は、全6楽章からなっているが、特に、第3楽章のメヌエットは、「モーツァルトのメヌエット」として親しまれ、ヴァイオリン独奏や、弦の重奏などで単独でもしばしば演奏され、広く愛好されているので、クラシック音楽リスナーならだれでもが一度は耳にしたことのある曲。作曲年代は不明だが、ザルツブルクの名門貴族ロービニヒ家の長男のジークムントのザルツブルク大学法学部卒業の祝いのために作曲された曲と言われている。このLPレコードでの演奏は、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。カラヤンは、1955年から1989年までベルリン・フィルの終身指揮者・芸術監督を務めていた。このLPレコードの録音は、1965年8月なので、両者の意気がぴたりと合い、”楽壇の帝王”と称されていた頃のカラヤンとベルリン・フィルの名コンビぶりをじっくりと聴くことができる。しかしその後、晩年を迎えたカラヤンは、金銭問題も絡んで、最後はベルリン・フィルと喧嘩別れをしてしまう。このLPレコードを録音した頃、両者は蜜月時代にあり、将来、離反するなどとは予想すらしなかったろう。今、改めてこのカラヤンの録音をじっくりと聴いてみると、限りなくゆっくりとしたテンポをとり、細部にわたって繊細で、微妙なニュアンスを保ち、しかも、確固とした構成力を持ったその音づくりには、甚だ感心させられる。こんなにベルリン・フィルを自由自在に操り、モーツァルトのディヴェルティメントの世界を余すところなくリスナーに伝えてくれる指揮者は、そう滅多にいるものではない。カラヤンに批判的な人もいることはいるが、このLPレコードを聴く限り、やはりカラヤンは、正統派の偉大な指揮者であったことが強く印象付けられるのだ。(LPC)

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