★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇イ・ムジチ合奏団のメンデルスゾーン:八重奏曲/ヴォルフ:「イタリアのセレナード」 /ロッシーニ:弦楽ソナタ第3番

2023-11-30 09:39:51 | 室内楽曲


ンデルスゾーン:八重奏曲
ヴォルフ:「イタリアのセレナード」
ロッシーニ:弦楽ソナタ第3番

弦楽合奏:イ・ムジチ合奏団

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13P‐167(802 725LY)

 メンデルスゾーン:八重奏曲は、2つの弦楽四重奏団が演奏する楽器編成をとっているが、室内楽的感覚というより、弦楽合奏といった雰囲気に近く、一部分管弦楽や交響曲的な雰囲気も漂わす、メンデルスゾーンが少年期(16歳)に書いた初期の傑作である。少年といっても、この曲を聴くと既に音楽の技術的手法は十分にマスターしていることを窺わせ、メンデルスゾーンの早熟ぶりを垣間見せつける曲となっている。第一ヴァイオリン2、第二ヴァイオリン2、ヴィオラ2、それにチェロ2の合計8つの楽器が融合しあうと同時に、その一つ一つの楽器が自己主張するという、相矛盾する要件を巧みに取り入れているところに感心してしまう。非常に聴きやすく、全体が流れるような快活さに満ちており、表現の簡潔さにも好感が持てる。妙に室内楽的に深刻ぶらないことが、成功した要因として挙げられるのかもしれない。そんなからっとした曲想にピタリとあてはまるのがイ・ムジチ合奏団の演奏だ。イ・ムジチ合奏団は、1952年に、ローマの聖チェチーリア音楽学校に学んだ12人の音楽家によって結成され、指揮者は置かず、ヴァイオリン6挺、ヴィオラ2挺、チェロ2挺、コントラバス1挺、チェンバロ1台の編成によっている。ヴィヴァルディの「四季」で、バロック音楽ブームの火付け役となったこの合奏団は、現在でも活発な演奏活動を展開している。このLPレコードでも、いかにもイタリアの演奏家らしい、歯切れの良い演奏を聴かせてくれており、充分に楽しめる。ヴォルフ:イタリアのセレナードは、ヴォルフが27歳の時の作品。ゲーテやアイヒェンドルフ、メーリケなどの詩に付けた数多くの歌曲で知られるヴォルフであるが、器楽曲は交響詩「ペンテレージア」や、この「イタリアのセレナード」などが知られているほどで、極めて少ない。ここでのイ・ムジチ合奏団の演奏は、分厚くしかも緻密な音の表現力を存分に聴かせてくれている。ロッシーニが6曲からなる弦楽のためのソナタを書いたのは、1804年頃とされており、まだ12歳であったという。ロッシーニは、モーツァルトのように幼い頃に英才教育を受けたわけでもなく、今日聴いてみて一人前の作曲家の作品としか思えない作品を、わずか12歳の少年が書いたというのは奇跡的だとしか言いようがない。この曲でのイ・ムジチ合奏団は、楽しそうに合奏しているところが目に浮かぶようであり、聴いているだけで浮き浮きしてくる演奏内容だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クレメンス・クラウスのハイドン:交響曲第88、93番/シューベルト:交響曲第8番「未完成」

2023-11-27 09:39:38 | 交響曲(シューベルト)


ハイドン:交響曲第88番「V字」
     交響曲第93番
シューベルト:交響曲第8番「未完成」

指揮:クレメンス・クラウス

管弦楽:バイエルン放送交響楽団(ハイドン)
    バンベルク交響楽団(シューベルト)

録音:1951年(ハイドン)/1953年(シューベルト)<ライヴ録音>

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(amadeo) 13PC‐13(M)(AVRS19 065)

 クレメンス・クラウス(1893年―1954年)はウィーン出身の名指揮者であり、同じくウィーン出身の指揮者エーリッヒ・クライバーと並び当時人気を二分していた。その指揮ぶりは、ウィーン情緒たっぷりな優雅で気品に満ちており、それが当時のウィーン気質にぴたりと合った。遺された録音は、そう多くはなく、このLPレコードは貴重な録音である。クレメンス・クラウスは、ウィーン音楽院で学んだ後、各地の歌劇場で研鑽を積む。1929年にウィーン国立歌劇場の音楽監督、さらに翌年には、フルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任する。この時代に、ベルクの「ヴォツェック」などの意欲的なレパートリーを取り上げるなど、進歩的な一面を持ち合わすが、このことも災いしてか、ウィーンを離れざるを得なくなる。そして、エーリッヒ・クライバーの後任として、ベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任。さらに、1937年にはナチスによって辞任に追いやられたハンス・クナッパーツブッシュの後任としてバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任する。第二次世界大戦後は、ナチスに協力したという容疑で連合軍により演奏活動の停止を命ぜられたが、無罪となり、活動を再開。最後の演奏会の曲目は、このLPレコードにもある、得意としていたハイドンの交響曲第88番であったという。このLPレコードでの2つのハイドンの交響曲(第88番、第93番)は、持ち味である典雅さを前面に打ち出し、しかも実に軽快なリズムを持った演奏に終始し、聴いていて小気味いい。一方、シューベルト:交響曲第8番「未完成」の指揮ぶりは、ハイドンとはがらりと趣を変え、シューベルト特有の歌うような旋律を、実に重々しく、厚みのある表現で演じ切っている。クレメンス・クラウスは、この名曲を単に情緒的に演奏することはせず、シューベルトが到達した、一種の悟りの境地みたいな心境を表現したかったように私には聴こえた。クレメンス・クラウスの日本での評価は必ずしも高かったとは言えなかったが、今、こうして聴いてみると、再評価されてもいい指揮者の一人ではないだろうか。指揮のクレメンス・クラウスは、オーストリア出身。ウィーン音楽院で学ぶ。1929年ウィーン国立歌劇場の音楽監督に、また翌年ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。さらに、1935年ベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇エリー・アーメリングのモーツァルト:アリア集&歌曲集

2023-11-23 09:45:58 | 歌曲(女声)


モーツァルト:アリア集
       
      歌劇「ルチオ・ルッラ」(K.165)より 
        
          モテット「エクスルターテ・イゥビラーテ」
          アリア「だれにわかるの」(K.582)
            アリア「私は行く、でも、どこへ?」(K.583)
       
      歌劇「フィガロの結婚」(K.492)より

          アリア「自分で自分が分らない」
          アリア「恋とはどんなものかしら」
          レチタティーヴォとアリア「とうとうその時が来た―早くきてあなた」
       
      歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(K.527)より

          アリア「ぶってよ、マゼット」
          アリア「恋人よ、さあこの薬で」
       
      歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」(K.588)より

          レチタティーヴォとアリア
            「恥知らずな人たちよ、ここを出て下さい―岩のように」

モーツァルト:歌曲集
       
       にこやかに、心の静けさが
       鳥たちよ、おまえたちは毎年
       淋しい暗い森の中を
       小さな糸紡ぎ娘
       ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時
       ラウラに寄せる夕べの想い
       子供の遊び
       老婆
       内緒ごと
       すみれ
       魔法使い
       春
       満足
       夢の姿
       別れの歌
       クローエに
       春への憧れ

ソプラノ:エリー・アーメリング

指揮:レイモンド・レパード
   エド・デ・ワールト

管弦楽:イギリス室内管弦楽団

ピアノ:ダルトン・ボールドウィン

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) PC‐5623~24

 エリー・アーメリング(1933年生まれ)は、オランダ出身のリリック・ソプラノ歌手。主にリート歌手として国際的な演奏活動を続けたが、1996年に引退した。通常、多くの歌手はオペラ歌手が本業で、その合間でリート歌手を務めるという活動形態をとる。ところがエリー・アーメリングだけはその逆で、本業がリート歌手であり、その実績が認められ、オペラにも登場したという珍しいケースに当る。その歌声は可憐そのもので、“これぞソプラノ”といった趣の歌唱ぶりであった。そんな透明感溢れるエリー・アーメリングの歌声が、モーツァルトのオペラのアリアとリートが1枚づつの2枚組のLPレコードに収められた、エリー・アーメリングファンにとってはこの上ない贈り物のLPレコードだ。アーメリングの音質は、ヴィブラートの少ない透明なことが特徴で、その愛らしい歌声で幅広い聴衆を獲得した。レパートリーは幅広く、ドイツ・リート以外に、フランスの歌曲、アメリカの歌曲のほか、山田耕筰や中田喜直などの歌を日本語で歌ったほど。しかし、やはり得意としたのは、バッハのカンタータやモーツァルトやシューマンのリートであり、これらの録音を多く遺している。現在は、世界各地で公開講座は開催しているものの、既に引退しており、遺された録音でしかエリー・アーメリングの歌声は聴けない。その意味でも、モーツァルトのアリアとリートを網羅した、このLPレコードは貴重な存在だ。1枚目には、オーケストラ伴奏でモーツァルトのアリア集が収められている。モーツァルトにとって生涯思い描いていたのは、オペラのヒット作をつくることであった。オペラの名作を書いたモーツァルトであったが、彼の生前にはかなえられたとは言えなかった。そんなモーツァルトのオペラのアリアを歌うエリー・アーメリングであるが、これがまた聴き応えある録音となっている。リート専門のソプラノが、ここまでアリアを歌い切るとは驚きだ。オペラ専門のソプラノと少しも遜色がないばかりか、澄んだ歌声がモーツァルトのアリアに何と似合うものかと感心しながら聴き込むことになる。モーツァルトのリート集は、“本業”だけあって、曲の本質を突いた可憐な歌声に酔わされる。ソプラノのエリー・アーメリングは、オランダ、ロッテルダム出身。オペラにも出演したが、主にリート歌手として国際的な演奏活動を続けた。1996年に引退。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロベール・カザドシュとユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のフランク:交響的変奏曲/ダンディ:フランス山人の歌による交響曲

2023-11-20 09:44:16 | 管弦楽曲


フランク:ピアノとオーケストラのための「交響的変奏曲」
ダンディ:ピアノとオーケストラのための「フランス山人の歌による交響曲」

ピアノ:ロベール・カザドシュ

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

録音:1959年8月3日

発売:1977年

LP:CBS/SONY 13AC 293

 このLPレコードには、フランスの作曲家のフランクと、その弟子のダンディとがそれぞれ作曲した、ピアノとオーケストラのための作品が2曲収められている。フランク:交響的変奏曲は、全体が3部に分けられるピアノとオーケストラのための変奏曲であるが、通常の変奏曲のように一つのテーマを基に変奏曲が展開されるのではなく、ピアノとオーケストラがそれぞれ異なるテーマの変奏曲を奏でていく。このため通常の変奏曲と思って聴くと面食らうことになる。ピアノが独自のメロディーを弾いていたかと思うと、次の瞬間には、ピアノとオーケストラが調和して、あたかもピアノ協奏曲であるかのような響きを聴かせる。「フランクの最も飾らない、最も禁欲主義的とも言える作品である。ことによるとフランクは自分自身を喜ばせるために、この曲をかいたのではないか」とライナーノートに高橋昭氏が書いているように、フランクの独白のような独特の響きがあり、好き嫌いが分かれる曲ではなかろうか。一方、ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲は、3楽章からなる作品で、牧歌的で雄大な風景画を思わせ、誰もが直ぐに好きになれそうな曲。ピアノとオーケストラのための作品であるが、何故か交響曲という名称が付けられている。ダンディが愛したラングドック地方のセヴァンヌの山々を眺め、書き留めた民謡を基につくられた曲であり、「セヴァンヌ交響曲」とも言われることがある。フランクがよく使った循環形式による、愛すべき作品に仕上がっている。フランス出身のロベール・カサドシュ(1899年―1972年)は、このLPレコードで誠実感に溢れた、暖かみのある、透き通った演奏に徹しており、これら2曲の素晴らしさ余すところなくリスナーに届けてくれる。ロベール・カサドシュは、フランス・パリ出身。パリ音楽院でルイ・ディエメに師事。世界各地で頻繁にギャビー夫人と演奏し録音した。1935年からアメリカ音楽院で教鞭を執り、第二次世界大戦中は米国に亡命。戦後は1950年に帰国し、1952年までアメリカ音楽院の院長を務めた。ギャビー夫人と息子ジャンとの共演により、モーツァルトの「2台ピアノのための協奏曲」や「3台ピアノのための協奏曲」を録音している。カザドシュの演奏は、曲に真正面から取り組み、決して誇張せず、知的で洗練された情感で高い評価を得ていた。作曲家としては7曲の交響曲、3曲のピアノ協奏曲、多数の室内楽曲などを遺している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バックハウスのベートーヴェン:ディアベリの円舞曲による変奏曲

2023-11-16 09:37:26 | 器楽曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ディアベリの円舞曲による変奏曲

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

発売:1974年

LP:キングレコード MZ 5116

 ディアベリの円舞曲による変奏曲(ディアベリ変奏曲)は、ベートーヴェンが1823年に完成した晩年のピアノ独奏曲の傑作である。最後のピアノソナタ第32番がつくられたのは1822年であるから、ベートーヴェン最後のピアノ作品と言えるもので、内容もそれに相応しく、合計33の変奏曲が立て続けに演奏される様は、聴いていて圧巻そのものだ。ミサ・ソレムニスが完成したのが、この「ディアベリ変奏曲」と同じ年の1823年、そして第九交響曲が翌年の1824年に完成しているのをみれば、内容の充実度は推して知るべしといったところか。「不滅の恋人」とされるアントーニア・ブレンターノに献呈されていることでも知られる。33の変奏曲からなる曲というのもそう滅多にあるものではないが、そもそもこの曲の成り立ちからして少々変わっている。出版業者のアントニオ・ディアベリが、自分の書いた円舞曲を当時の有名作曲家に変奏曲を1曲づつ書かせて一儲けをしようと企み、ベートーヴェンにも依頼したが、ベートーベンはこの円舞曲の主題を「靴屋の継ぎ皮」と罵り、最初は無視した。しかしその後、考えを変え、作曲に取り掛かったのだが、結果は1曲どころか33曲に膨らんでしまったのだ。凝り性のベートーヴェンの性から来たのか、あるいは今後も、楽譜出版で世話になるかも知れないディアベリに、この際恩を売っておいた方が得策と判断したからかもしれない。ベートーヴェンは、著作権問題で裁判沙汰を起こすなど、意外に人間臭いところもあるのだ。このLPレコードでのウィルヘルム・バックハウス(1824年―1969年)の演奏は、凄まじく、一気呵成に33の変奏曲を演奏し、リスナーに考える暇を与えないかのようもある。しかし、決して無機質な演奏ではなく、そこには音楽以外のものを一切排除した、一徹な求道精神みたいな集中力の塊を聴く思いがする。今どきこんなピアニストにはもう逢えまい。ウィルヘルム・バックハウスは、ドイツ・ライプツィヒ出身だが、後にスイスに帰化した。ライプツィヒ音楽院に7歳で入学。16歳(1900年)の時にデビュー。1905年パリで開かれた「ルビンシュタイン音楽コンクール」のピアノ部門に出場し優勝。1930年スイス・ルガーノに移住。1946年スイスに帰化した。 1954年4月には日本を訪れた。1966年「オーストリア共和国芸術名誉十字勲章」を受章、またベーゼンドルファー社から20世紀最大のピアニストとしての意味を持つ指環を贈られた。(LPC)

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