ブラームス:チェロソナタ第1番
グリーグ:チェロソナタ
チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
ピアノ:スヴィアトスラフ・リヒテル
発売:1980年10月
LP:日本コロムビア OW‐7220‐BS(ライヴ録音)
ブラームスのチェロソナタは2曲あるが、このLPレコードには第1番のみが収録されている。この第1番ホ短調のチェロソナタは、はじめの2楽章が1862年に、終楽章が1865年にそれぞれ完成し、3つの楽章は全て短調で書かれている。全体にほの暗い叙情性を持った曲調であり、如何にもブラームスらしい内省的な優美さに貫かれた曲だ。一方、グリーグのチェロソナタは、グリーグが残した唯一のチェロソナタである。このチェロソナタは、3歳年上の兄ヨーンのために作曲したという。この曲は、グリーグの曲にしては珍しく、暗い情熱を内に込めた曲想を持った曲であるが、ところどころにグリーグ特有の優美なメロディーが散りばめられており、グリーグの隠れた室内楽の名曲と言える曲だ。このLPレコードは、そんな2曲を、2人の巨匠、チェロのムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927年―2007年)とピアノのスヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)が共演している。しかも、ライヴ録音である。面白いことに、ライナーノート以外に、このLPレコードのどこにもライヴ録音の表記が無い。これは多分、当時は、ライヴ録音であるとスタジオ録音に比べて音質が劣るため、表記を躊躇したためではないだろうか。しかし、このLPレコードの音質については、鑑賞に耐え得るレベルには達している。ロストロポーヴィチとリヒテルという当時の2大巨匠が遺した、貴重なライヴ録音として後世に遺す価値のあるLPレコードである。チェロソナタの演奏は、ともすればチェロが主役、ピアノが脇役といったケースが多いが、このLPレコードの2曲の演奏は、2人が対等の立場で演奏し、堂々と渡り合っている様が聴き取れる。一部分では、ライヴ録音特有のスリリングなやり取りに緊張感が走るほどである。このLPレコードのライナーノートで吉井亜彦氏は、2人の演奏について「この演奏は、実に美しいまとまりを身に付けたものだ。ただ、このまとまりの美しさは、あらかじめ計算してできるようなものとは、その性格が異なるものなのである。・・・それぞれ自立したふたつのものが自然にとけあって、予期しなかったようなものへと結晶していく。これは、そうした性格の演奏なのである」と書いている。このような演奏内容の記録は、とてもスタジオ録音では不可能であり、ライヴ録音によってはじめて後世に遺すことができる。(LPC)