モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
シューベルト:交響曲第8番「未完成」
指揮:カール・シューリヒト
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
発売:1980年
LP:キングレコード:K15C 8007
ドイツの名指揮者カール・シューリヒト(1880年―1967年)は、第二次世界大戦後、ウィーン・フィルと共に米国およびヨーロッパツアーを行ったが、これが大成功を収め、世界的に注目を浴びることになる。日頃から指揮者に対しては冷たいウィーン・フィルの楽団員も、シューリヒトだけには一目置いて、特別に敬愛していたという。このように、シューリヒトは、高齢になって知名度が上がり、プロの楽団員たちに尊敬されるほどの真の力を持った指揮者だったのだ。シューリヒトの録音を聴くと、いずれも颯爽とした速いテンポに貫かれており、流れるような、明晰な表現力が光っていることが、遺された録音から分る。決してスケールの大きい巨匠型の指揮者ではなかったが、万人を納得させるに足る明快な音楽性を持ち、かつ即興性に富んだ指揮ぶりで、多くのファンの心を掴んで離さなかった。このLPレコードは、A面にモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」、B面にシューベルト:交響曲第8番「未完成」が収められているが、特にB面のシューベルト:交響曲第8番「未完成」の演奏内容が圧倒的名演だ。その奥行きの深い表現力に、リスナーは引き付けられる。リスナー一人一人に語りかけるような演奏でもあり、早くも、遅くもないそのテンポは、絶妙そのものだ。シューベルトがこの曲に託したロマンの世界と苦悩を含んだ独白のようなフレーズを、シューリヒトは心からの共感を持って振り進める。シューベルトの揺れ動く心を表現して余すところがない。そして、そこには曖昧さなど微塵も感じられないのである。何か力強さすら感じられるのだ。表面をなぞったような演奏が多いこの曲だが、シューリヒトの指揮は、シューベルトへの共感が極限にまで高められ、陰影を含んだ求心力の高い演奏に終始する。通常なら何かにつけ独自性を強調しがちなウィーン・フィルのメンバー一人一人も、この時ばかりはシューリヒトを信頼してか、一糸乱れのない一体感のある見事な演奏を聴かせる。一方、モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」は、この曲の明るい性格をなぞるようにして軽快に、そして時には即興的な雰囲気を込めながら演奏を進める。この曲がもともとセレナードとして作曲されたことを、シューリヒトが強く意識したことによるものだろう。これらの演奏は、この2曲を代表する名録音となった。(LPC)