★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇シューリヒト指揮ウィーン・フィルのモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/シューベルト:交響曲第8番「未完成」

2024-10-24 09:43:36 | 交響曲(シューベルト)

 


モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
シューベルト:交響曲第8番「未完成」

指揮:カール・シューリヒト

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1980年

LP:キングレコード:K15C 8007

 ドイツの名指揮者カール・シューリヒト(1880年―1967年)は、第二次世界大戦後、ウィーン・フィルと共に米国およびヨーロッパツアーを行ったが、これが大成功を収め、世界的に注目を浴びることになる。日頃から指揮者に対しては冷たいウィーン・フィルの楽団員も、シューリヒトだけには一目置いて、特別に敬愛していたという。このように、シューリヒトは、高齢になって知名度が上がり、プロの楽団員たちに尊敬されるほどの真の力を持った指揮者だったのだ。シューリヒトの録音を聴くと、いずれも颯爽とした速いテンポに貫かれており、流れるような、明晰な表現力が光っていることが、遺された録音から分る。決してスケールの大きい巨匠型の指揮者ではなかったが、万人を納得させるに足る明快な音楽性を持ち、かつ即興性に富んだ指揮ぶりで、多くのファンの心を掴んで離さなかった。このLPレコードは、A面にモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」、B面にシューベルト:交響曲第8番「未完成」が収められているが、特にB面のシューベルト:交響曲第8番「未完成」の演奏内容が圧倒的名演だ。その奥行きの深い表現力に、リスナーは引き付けられる。リスナー一人一人に語りかけるような演奏でもあり、早くも、遅くもないそのテンポは、絶妙そのものだ。シューベルトがこの曲に託したロマンの世界と苦悩を含んだ独白のようなフレーズを、シューリヒトは心からの共感を持って振り進める。シューベルトの揺れ動く心を表現して余すところがない。そして、そこには曖昧さなど微塵も感じられないのである。何か力強さすら感じられるのだ。表面をなぞったような演奏が多いこの曲だが、シューリヒトの指揮は、シューベルトへの共感が極限にまで高められ、陰影を含んだ求心力の高い演奏に終始する。通常なら何かにつけ独自性を強調しがちなウィーン・フィルのメンバー一人一人も、この時ばかりはシューリヒトを信頼してか、一糸乱れのない一体感のある見事な演奏を聴かせる。一方、モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」は、この曲の明るい性格をなぞるようにして軽快に、そして時には即興的な雰囲気を込めながら演奏を進める。この曲がもともとセレナードとして作曲されたことを、シューリヒトが強く意識したことによるものだろう。これらの演奏は、この2曲を代表する名録音となった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クレメンス・クラウスのハイドン:交響曲第88、93番/シューベルト:交響曲第8番「未完成」

2023-11-27 09:39:38 | 交響曲(シューベルト)


ハイドン:交響曲第88番「V字」
     交響曲第93番
シューベルト:交響曲第8番「未完成」

指揮:クレメンス・クラウス

管弦楽:バイエルン放送交響楽団(ハイドン)
    バンベルク交響楽団(シューベルト)

録音:1951年(ハイドン)/1953年(シューベルト)<ライヴ録音>

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(amadeo) 13PC‐13(M)(AVRS19 065)

 クレメンス・クラウス(1893年―1954年)はウィーン出身の名指揮者であり、同じくウィーン出身の指揮者エーリッヒ・クライバーと並び当時人気を二分していた。その指揮ぶりは、ウィーン情緒たっぷりな優雅で気品に満ちており、それが当時のウィーン気質にぴたりと合った。遺された録音は、そう多くはなく、このLPレコードは貴重な録音である。クレメンス・クラウスは、ウィーン音楽院で学んだ後、各地の歌劇場で研鑽を積む。1929年にウィーン国立歌劇場の音楽監督、さらに翌年には、フルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任する。この時代に、ベルクの「ヴォツェック」などの意欲的なレパートリーを取り上げるなど、進歩的な一面を持ち合わすが、このことも災いしてか、ウィーンを離れざるを得なくなる。そして、エーリッヒ・クライバーの後任として、ベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任。さらに、1937年にはナチスによって辞任に追いやられたハンス・クナッパーツブッシュの後任としてバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任する。第二次世界大戦後は、ナチスに協力したという容疑で連合軍により演奏活動の停止を命ぜられたが、無罪となり、活動を再開。最後の演奏会の曲目は、このLPレコードにもある、得意としていたハイドンの交響曲第88番であったという。このLPレコードでの2つのハイドンの交響曲(第88番、第93番)は、持ち味である典雅さを前面に打ち出し、しかも実に軽快なリズムを持った演奏に終始し、聴いていて小気味いい。一方、シューベルト:交響曲第8番「未完成」の指揮ぶりは、ハイドンとはがらりと趣を変え、シューベルト特有の歌うような旋律を、実に重々しく、厚みのある表現で演じ切っている。クレメンス・クラウスは、この名曲を単に情緒的に演奏することはせず、シューベルトが到達した、一種の悟りの境地みたいな心境を表現したかったように私には聴こえた。クレメンス・クラウスの日本での評価は必ずしも高かったとは言えなかったが、今、こうして聴いてみると、再評価されてもいい指揮者の一人ではないだろうか。指揮のクレメンス・クラウスは、オーストリア出身。ウィーン音楽院で学ぶ。1929年ウィーン国立歌劇場の音楽監督に、また翌年ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。さらに、1935年ベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラーのシューベルト:交響曲第8番「未完成」/メニューインのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

2023-07-24 09:38:41 | 交響曲(シューベルト)


シューベルト:交響曲第8番「未完成」
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(シューベルト)
    ベルリン・フィルハーモニック管弦楽団(メンデルスゾーン)

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

発売:1967年

LP:東芝EMI ANGEL RECORDS AA‐8173B

 このLPレコードは、ウィルヘルム・フルトヴェングラーの指揮、ユーディ・メニューインのヴァイオリン独奏、それにオーケストラは、ウィーン・フィルとベルリン・フィルという、千両役者が揃った正に“夢の饗宴”と言っていい録音だ。フルトヴェングラー(1886年―1954年)は、当時のクラシック音楽界の頂点に君臨し、指揮者の神様的存在であった。フルトヴェングラーが練習会場に姿を現すと同時に、それまで鳴っていたオーケストラの音が一瞬に変わるとまで言われたほどのカリスマ性の高い名指揮者であった。単に、オーケストラの音を技術的に高めるだけではなく、その音楽が本来持っている音楽性を汲み取り、それをオーケストラに伝え、表現させるというプロセスを踏むことによって、他の指揮者が誰もなしえなかった高い精神性をオーケストラ演奏にもたらしたのであった。第二次大戦後は、戦前のナチスとの関係などが災いし、一時不遇の時代を過ごしたが、死後、フルトヴェングラーが残した録音は、宝物のように扱われ、今でも愛聴されている。ヴァイオリンのユーディ・メニューイン(1916年―1999年)は、アメリカの出身で、後にイギリスに帰化した名ヴァイオリニスト。その深い精神性(坐禅やヨーガにも傾倒した)を持ったヴァイオリンの演奏スタイルは、高貴な香りと同時に、その背景にある一本筋の通った音楽性は、当時、多くの聴衆から愛され、日本でも多くのファンを有していた。シューベルト:交響曲第8番「未完成」は、これが本当の「未完成」だと思わせる、強い説得性のある演奏内容に仕上がっている。けっして表面的なメロディーの甘美さを追うのでなく、シューベルトが到達した、ある意味での彼岸の境地にまでフルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルの演奏は高まりをみせる。もうこれは“「未完成」演奏の決定盤”といっていいほど内容が充実しており、「音楽は単に技術的なものだけでない」とする、フルトヴェングラーのみが成し得る奇跡的録音と言っても過言なかろう。一方、メニューインの弾くメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲は、こんなピュアなヴァイオリン演奏は、滅多に聴くことはできないと思わせるほどの精神性の高まりに、聴いているだけで緊張感が自ずと高まる。その音楽性は、伴奏するフルトヴェングラー指揮ウィーンと同質だけに、両者の共演したこの録音は、これも“メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲演奏の決定盤”と言ってもいい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィルのシューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

2022-06-23 09:41:40 | 交響曲(シューベルト)


シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

指揮:ルドルフ・ケンペ

管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニック

録音:1968年5月22日、27日

LP:CBSソニー 13AC 956

 シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」が完成したのは、自身の死の8か月前、ベートーヴェンが死去してから約1年の後のことある。シューベルトは、ベートーヴェンを崇拝していたこともあり、何としてもベートーヴェンに比肩できる交響曲を書いておきたいと考えていた。そして完成したのが「ザ・グレート」である。それだけに自信作であったと思われるが、当時の評判は捗々しいものではなかった。唯一、メンデルスゾーン指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウスでの演奏会において評価されたぐらいだったという。しかしシューマンは、この交響曲をして「天国的長さ」という有名な言葉で表し、その真価を広く知らしめた。以後、シューベルトの代表的作品の一つとして知られている。このLPレコードは、ルドルフ・ケンペ(1910年―1976年)がミュンヘン・フィルを指揮した録音だ。ルドルフ・ケンペは、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、バイエルン国立歌劇場音楽総監督、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、BBC交響楽団首席指揮者などを歴任したドイツの名指揮者。「ザ・グレート」は、全楽章がシューベルト特有の歌うような優美な旋律で覆い尽くされた交響曲であるが、ケンペはこの録音でその長所を最大限に発揮させることに成功している。ともすると巨大さだけが強調されがちなこの曲を、ケンペは緻密で流れるように旋律を歌わせ、ケンぺとミュンヘン・フィルとが一心同体化したかのようにして曲が進む。ケンぺの手綱捌きは実に見事で、この交響曲の雄大さを余すところなく表現し尽し、さらに優雅さも兼ね備えた稀に見る名演が完成した。交響曲第9番「ザ・グレート」の録音の聴き比べ企画の記事で、このケンぺ指揮ミュンヘン・フィルの録音が抜け落ちている出版物を見かけることがある。本命中の本命の録音を抜かしてランキングを付けるのはあまりにも問題だ。現在、CD盤も発売されているようなので選者には一度聴き比べてもらいたいものだ。そして演奏の質の高さに加え、LPレコードの音質の素晴らしさについて、改めて思い知らされる一枚でもある。ちょうどコンサートホールの指揮台の位置でオーケストラの音を全身で浴びているような感じだ。LPレコード特有の柔らかい感触にに加え、奥行きの深い響きが何とも心地良い。一度でもこのLPレコードを聴くともうLPレコードの世界から離れなくなる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのシューベルト:交響曲第8番「未完成」/ グリーグ:劇音楽「ペールギュント」から        

2021-06-03 09:54:35 | 交響曲(シューベルト)


シューベルト:交響曲第8番「未完成」
グリーグ:劇音楽「ペールギュント」から
       
        ①朝
        ②オーセの死
        ③アニトラの踊り
        ④山の王の宮殿にて
        ⑤ソルヴェイグの歌

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルグ交響楽団
    ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団(劇音楽「ペールギュント」)

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9172

 これは、ドイツの名指揮者ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)のシューベルト:交響曲第8番「未完成」とグリーグ:劇音楽「ペールギュント」を収録したLPレコードである。カイルベルトは、プラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団・音楽監督、バンベルク交響楽団・首席指揮者、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ベルリン国立歌劇場・音楽総監督、バイエルン国立歌劇場・音楽総監督をそれぞれ歴任し、さらにバイロイト音楽祭においても活躍、このほかザルツブルク音楽祭などにも客演するなど、ドイツ音楽の巨匠として活躍した。このカイルベルトとカラヤンは、同年同月(1908年4月)生まれで活躍した時期が重なるが、その辿った道は、カラヤンが万人向けのスターの道だったとすれば、カイルベルトは伝統的ドイツ音楽を深く掘り下げた玄人受けする道だった。つまり、知名度ではカイルベルトは、カラヤンに一歩も二歩も譲るが、そのつくり出す音楽は、多くの愛好家の支持を受けていた。「未完成」でのカイルベルトの指揮は、厳格な構成をとり、我々が期待するような情緒纏綿なスタイルとは一切関係がないかごとき演奏に終始する。最初聴くと面食らうほどの印象を持つ。ところが、改めて聴いてみると、「この『未完成』という曲は、皆が思っているほどロマンチックな曲ではない。構成がきちんと整った伝統に則った曲なのだ」とカイルベルトが言っている通りの指揮ぶりである。第1楽章は、実に堂々とした構えで、真正面から曲を捉え、一部の隙もない演奏だ。ドツ音楽の巨匠の面目躍如とした指揮に吸い込まれそうになる。第2楽章も、抒情的的な感覚というより、じっくりと腰を落ち着かせ、シューベルトの心に入って行くように、精神性の高い演奏内容に徹する。リスナーは、何か、シューベルトの独白を聴いているかのような感覚に陥る。2つの楽章を聴き終えてみると、最初に感じた違和感は何処かに消え去り、これまでベールに覆われていた「未完成」という曲の真の姿に接することができたという充足感に浸ることができる。やはりヨゼフ・カイルベルトは“真の巨匠”だったのだと、実感できた演奏内容であった。一方、グリーグ:劇音楽「ペールギュント」は、「未完成」とはがらりと変わり、起伏に富んだ劇音楽の特性を存分に発揮し、カイルベルトは実に楽しげに音楽を盛り上げる。何か、北欧の澄んだ空気がLPレコード針を通して伝わってくるかのようである。この曲のベスト録音盤と言ってもいいほどの出来栄えだ。(LPC)

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