★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇バックハウス・カーネギー・ホール・リサイタル(1954年3月30日)第2集

2025-01-20 09:40:39 | 器楽曲(ピアノ)


~バックハウス・カーネギー・ホール・リサイタル(1954年3月30日)第2集~

ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番
        ピアノソナタ第25番「かっこう」
シューベルト:即興曲Op.142-2
シューマン:幻想小曲集Op.12より第3曲「なぜに?」
シューベルト(リスト編曲):ウィーンの夜会第6番
ブラームス:間奏曲Op.119-3

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

録音:1954年3月30日、ニューヨーク、カーネギー・ホール

発売:1972年

LP:キングレコード(ロンドン・レコード) MZ 5099
 
 このLPレコードは、ドイツの大ピアニストのウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)が、ニューヨークのカーネギー・ホールで行ったコンサートのライヴ録音の第2集(第1集は別掲)である。この夜のコンサートは、バックハウスのアメリカにおける実に28年ぶりの演奏であった。実際のコンサートでの演奏曲順は、このLPレコードとは異なり、ベートーヴェン:ピアノソナタ第25番に続き、ピアノソナタ第32番が演奏され、最後にアンコールに応えて4曲の小品が演奏された。一般的に言って、当時のライヴ録音は音質が悪く、鑑賞には向かないものが多いが、このLPレコードは、ライヴ録音ながら何とか鑑賞に耐え得る音質となっている。バックハウスは、ドイツ・ライプツィヒ出身(1946年にスイスに帰化)。16歳(1900年)の時にデビュー。1905年、パリで開かれた「ルビンシュタイン音楽コンクール」のピアノ部門で優勝を果たす。第二次世界大戦中は、ヒトラーがバックハウスのファンであったためにナチスの宣伝に利用され、これが戦後に禍し、ナチ協力者として米国でバックハウスの来演を拒否する動きが起こった。このことが、このLPレコードの「アメリカにおける実に28年ぶりの演奏」の真相であったのだ。そう思ってこのLPレコード聴くと、聴衆の熱狂の真の意味を理解することができる。このニューヨークでのコンサートの後、同年4月5日~5月22日に訪日を果たし、日本のファンの熱烈な歓迎を受けることになる。バックハウスは、1969年6月28日にオーストラリアでのコンサート演奏中に心臓発作を起こす。しかし、医師の忠告を聞かず、最後まで弾き終え、運ばれた病院で亡くなった。このコンサートの最後に弾いたのが、このLPレコードにも収められているシューベルト:即興曲Op.142-2であった。バックハウスは、よく“鍵盤の獅子王”と言われるが、バックハウスの技巧の素晴らしさを言い表したもの。このLPレコードのA面に収められているベートーヴェン:ピアノソナタ第32番は、正に“鍵盤の獅子王”に相応しく、威風堂々と曲に真正面から取り組み、スケールの大きな表現でこのベートーヴェン後期の大作が持つ、深い精神性を余すところ無く表現し尽している。一方、第25番は、ベートーヴェンの中期の比較的簡素なピアノソナタであるが、バックハウスは、決して手を抜くことはせず、全力で一気呵成に弾きこなす。こんなところがバックハウスの魅力なのでろう。アンコールで弾いた4曲は、いずれもこれらの曲に込められたバックハウスの深い愛情が聴き取れる優れた演奏となっている。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ロベール・カザドシュのサン=サーンス:ピアノ協奏曲第4番/フォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラード、前奏曲第1番/第3番/第5番

2025-01-16 09:59:20 | 協奏曲(ピアノ)

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第4番

フォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラード
     前奏曲より第1番/第3番/第5番

ピアノ:ロベール・カザドシュ

指揮:レナード・バーンスタイン

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

録音:1961年10月30日/12月14日、ニューヨーク

発売:1978年

LP:CBS/SONY 13AC 400

 このLPレコードは、フランスを代表する作曲家サン=サーンスとフォーレの曲を、フランスの名ピアニストであったロベール・カザドシュ(1899年―1972年)が演奏し、フランスの香りが馥郁とするところが魅力となっている。カサドシュは、パリ音楽院で学び、1913年に首席で卒業。以後、世界を舞台に演奏活動を行う。ギャビー夫人と息子ジャンとの共演により、モーツァルトの「2台ピアノのための協奏曲」や「3台ピアノのための協奏曲」のLPレコードも遺されている。かつて、パリ音楽院やエコール・ノルマルからは、アルフレッド・コルトー、マルグリット・ロン、イブ・ナット、サンソン・フランソワ、ディヌ・リパッティそしてロベール・カザドシュと、“フランス・ピアノ楽派”とでも言える一連の優れたピアニストを輩出し続けた。ロベール・カザドシュは、この“フランス・ピアノ楽派”の最後を飾る大ピアニストであったのだ。その演奏は、フランス音楽の粋を徹底して極めたもので、デリケートであり、抒情味溢れたもので、しかも透明感が際立っていた。少しも無骨なところは無く、印象派の絵画を思わせるような、全体に光が散りばめられたような演奏内容は、一度聴くと忘れられない。ただ、演奏スタイルそのものは、古典的でオーソドックスなもので、この意味では、今聴くと一種の古さを感じるかもしれない。しかし、それを上回る優雅さや品のよさは、今聴いても万人を納得させる説得力を持っている。サン=サーンスは、全部で5曲のピアノ協奏曲を作曲したが、ピアノ協奏曲第4番は、サン=サーンスが作曲家として最も充実した時期に書かれた作品。2楽章構成で、さらに各楽章が2つの部分に分かれた構成を取っている。次のフォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラードは、オリジナルは1880年に出版されたピアノ曲で、翌年フォーレの手によって管弦楽を伴う形に編曲された。最後のフォーレ:前奏曲は、全部で9つある曲から第1番、第3番、第5番が録音されている。フォーレの前奏曲は、あまり知られた曲ではないが、コルトーは「苦も無く千変万化するピアノの多様性で人の心を奪う」と高く評価している。これら3曲を演奏するロベール・カザドシュは、その持ち味である正統的で端正な切り口を持った演奏を存分に聴かせる。あたかも抒情詩を朗読でもするかのように、一つ一つ味わうように演奏するすスタイルは、今ではほとんど聴くことができないものだけに、貴重な録音である。バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの伴奏も深みがあって聴き応え充分。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノンのボロディン:交響曲第2番/リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 、歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

2025-01-13 09:36:00 | 交響曲


ボロディン:交響曲第2番
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
            歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:キングレコード GT 9351

 このLPレコードでロンドン交響楽団を指揮しているのが、フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910年―1976年)である。マルティノンは、リヨンに生まれ、パリ音楽院でヴァイオリン、作曲、指揮を学ぶ。パリ音楽院管弦楽団、ボルドー交響楽団などの首席指揮者などを歴任した後、シカゴ交響楽団音楽監督を経て、1968年からはフランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任する。しかし、これからという66歳で世を去ってしまう。マルティノンは、何と言ってもフランス音楽を振らせたら、右に出る者はいないと言われたぐらいフランス音楽との相性が抜群に良い指揮者であった。中庸を得た明快な指揮ぶりと、知的でセンスのある繊細な音づくりには定評があった。そんな特徴を持つマルティノンにロシア音楽を振らせたらどういうことになるのか?既に紹介したチャイコフスキーの「悲愴交響曲」では、幾多あるこの曲の録音の中でも、今もって上位にランクされるほどの名演奏を聴かせてくれた。さて、このLPレコードのボロディンとリムスキー=コルサコフの二人のロシア作曲家の曲をマルティノンはどう指揮するのであろうか?ボロディンとリムスキー=コルサコフは、19世紀後半に活躍した“ロシア五人組”のメンバーである(あとの3人は、バラキレフ、キュイそれにムソルグスキー)。その中の一人、ボロディンは、大学教授と作曲家の二足の草鞋を履いた生活を送ったため、作品の数はそう多くはないが、歌劇「イーゴリ公」やこのLPレコードの交響曲第2番などの名曲を今に遺している。交響曲第2番は、古典的な交響曲の手法に基づきながら、スラブ的な民族色を打ち出した曲として今でも多くのリスナーから愛好されている曲。一方、リムスキー=コルサコフは、若い頃海軍士官の経歴を持ち、後に作曲家に転じ、晩年は、音楽院の院長として後輩の育成にも貢献した。このLPレコードでのマルティノンの指揮ぶりは、ボロディン:交響曲第2番では、実にメリハリに利いた明快な表現力が実に魅力的だ。30年以上前の録音とは思えないほど、現在でも通用するような表現力の驚かされる。リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲は、マルティノンのセンスのいい指揮振りが一際印象に残る。リズム感に溢れたその演奏は、自身が持つ資質を存分に発揮した演奏と言えよう。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇若き日のアシュケナージのシューベルト:ピアノソナタ第18番「幻想」

2025-01-09 09:42:29 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:ピアノソナタ第18番「幻想」D.894(Op.78)

ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ

録音:1970年、ロンドン・オペラ・センター

発売:1977年

LP:キングレコード SLA 1131
 
 シューベルトのピアノソナタ第18番は、初版譜に“幻想曲”と書かれていたことから「幻想ソナタ」と呼ばれている。この曲はシューベルトのピアノソナタの中でも、内容的に優雅で、完成度も高い曲である。しかし一方、「冗長度が高く、演奏効果を出し難いピアノソナタ」という評価を下す向きもあることも事実。このLPレコードは、そんなシューベルトのピアノソナタを、ピアニスト時代の若き日のウラディーミル・アシュケナージ(1937年生まれ)が弾いた録音である。アシュケナージは、旧ソ連出身のピアニスト&指揮者である。1956年に「エリザベート王妃国際音楽コンクール」に出場して優勝を果たし、一躍その名を世界に知らしめ、その後の欧米各国での演奏旅行で、その実力が認められるに至った。1962年には「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝。しかし、1963年に、ソヴィエト連邦を出国し、ロンドンへ移住し、以後実質的な亡命生活を送ることになる。1970年頃からは指揮活動にも取り組み始め、現在では指揮者としての活動が中心となっている。現在、スイスのルツェルン湖畔に居を構え、ここを拠点として、シドニー交響楽団およびEUユース管弦楽団の音楽監督として世界的な活動を展開している。2004年から2007年までNHK交響楽団の音楽監督を務め、2007年からは桂冠指揮者を務めているので、今やアシュケナージの名を聞くとピアニストとしてより指揮者のイメージの方が定着している。このLPレコードの録音は、1970年、ロンドン・オペラ・センターで行われたので、アシュケナージ33歳の時のピアノ演奏ということになる。アシュケナージのピアノ演奏は、超人的な演奏技能により、どんな難曲でも難なく弾きこなす凄さに加え、抒情的な表現でも並外れた才能を発揮する。このLPレコードではそんなアシュケナージの抒情的な演奏の冴えを存分に味合うことができる。シューベルトのピアノソナタは、ベートーヴェンのそれとは異なり、多くの曲が歌曲のように美しいメロディーに埋め尽くされているが、そんなシューベルトのピアノソナタの特徴が、もっとも多く盛り込まれたピアノソナタが、この第18番「幻想」なのである。特に、第1楽章に、この曲の持つ叙情性と歌曲性とが集約されているわけであるが、アシュケナージは、ものの見事にこの二つの側面を表現しており、改めてピアニストとしてのアシュケナージの実力の高さに、眼を見張らされる思いがする。何か、アシュケナージの指から、こんこんと音楽が湧き出してくるような、不思議な体験をさせられるLPレコードである。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇セラフィン指揮ローマ国立歌劇場管弦楽団とロス・アンヘルスらのヴェルディ:歌劇「椿姫」ハイライト

2025-01-06 09:56:36 | オペラ


ヴェルディ:歌劇「椿姫」ハイライト
        
        前奏曲
        乾杯の歌
        想い出の日から
        ああ、そはかの人か~花から花へ
        燃える心を
        天使のように清らかな娘が
        お命じのとおり~死ぬほかに
        プロヴァンスの海と陸
        闘牛士の合唱「マドリードから来た闘牛士」
        過ぎし日よさらば
        パリを離れて
        もし、清らかな娘さんが

指揮:トゥリオ・セラフィン

管弦楽:ローマ国立歌劇場管弦楽団

独唱:ヴィオレッタ=ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス(ソプラノ)
   アルフレード=カルロ・デル・モンテ(テノール)
   ジェルモン=マリオ・セレーニ(バリトン)
   ガストーネ子爵=セルジオ・テデスコ(テノール)

合唱:ローマ国立歌劇場合唱団

LP:東芝EMI EAC‐30069
 
 ヴェルディの初期のオペラの傑作「椿姫」(オペラ本来の題名は「ラ・トラヴィアータ(道を踏みはずした女)」であるという)の物語の原作は、フランスの小説家のアレクサンドル・デュマ。アレクサンドル・デュマと言っても、「モンテ・クリスト伯」などの名作で知られる、あの文豪アレクサンドル・デュマのことではなく、同名の息子のことだそうだ。1848年に発表されたこの小説「椿の花をつけた女」を読んだヴェルディは、オペラ化することを思い立ち、3ヶ月という短時間で完成させ、1853年3月に初演された。初演当時の評判は芳しくなかったようであるが、その後、徐々に評価が高まり、現在では最も人気のあるオペラの一つとして世界中で愛好されている。このLPレコードのライナーノートに大木正純氏は「厳しい目で見れば、ドラマとしての迫力や構成の密度の点で、また音楽的充実度の点でも、このオペラがヴェルディの他の名作を凌駕しているとは言いがたい。にもかかわらず、こうした抜群の人気を保っているは、この感傷的なドラマと、それにふさわしい甘美な音楽、華やかな舞台のたまものと言っていいだろう」と書いている。正にこの文章に尽きている。一旦、「椿姫」のオペラの世界に入り込めば、多くのリスナーは「もう理屈などはどうでもいい」という思いに浸るほど魅力に富んだオペラなのだ。このLPレコードでヴィオレッタを歌っているヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス(1923年―2005年)は、スペイン出身の名ソプラノ歌手。1945年、リセオ歌劇場でオペラ歌手としてデビューし、1947年の「ジュネーヴ国際音楽コンクール」で優勝し、以後世界的な脚光を浴びる。指揮のトゥリオ・セラフィン(1878年―1968年)は、イタリア出身の指揮者。1909年、トスカニーニの後任として、スカラ座の音楽監督に就任。1924年~1934年、米国メトロポリタン歌劇場の指揮者を務めた。1934年に帰国し、ローマ歌劇場の音楽監督に就任、同歌劇場の黄金時代を築く。この経歴から分かる通り、セラフィンは当時、イタリア・オペラの最高の指揮者として高く評価されていた。LPこのレコードでのヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルスは、実に気品のある歌声を聴かせており、ヴィオレッタの一生をものの見事に表現し尽くしている。また、トゥリオ・セラフィンの指揮は、このオペラの物語を劇的に盛り上げており、その見事な棒捌きにリスナーは、ただただイタリア・オペラの魅力の虜になるばかりだ。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする