★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノンのボロディン:交響曲第2番/リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 、歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

2025-01-13 09:36:00 | 交響曲


ボロディン:交響曲第2番
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
            歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:キングレコード GT 9351

 このLPレコードでロンドン交響楽団を指揮しているのが、フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910年―1976年)である。マルティノンは、リヨンに生まれ、パリ音楽院でヴァイオリン、作曲、指揮を学ぶ。パリ音楽院管弦楽団、ボルドー交響楽団などの首席指揮者などを歴任した後、シカゴ交響楽団音楽監督を経て、1968年からはフランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任する。しかし、これからという66歳で世を去ってしまう。マルティノンは、何と言ってもフランス音楽を振らせたら、右に出る者はいないと言われたぐらいフランス音楽との相性が抜群に良い指揮者であった。中庸を得た明快な指揮ぶりと、知的でセンスのある繊細な音づくりには定評があった。そんな特徴を持つマルティノンにロシア音楽を振らせたらどういうことになるのか?既に紹介したチャイコフスキーの「悲愴交響曲」では、幾多あるこの曲の録音の中でも、今もって上位にランクされるほどの名演奏を聴かせてくれた。さて、このLPレコードのボロディンとリムスキー=コルサコフの二人のロシア作曲家の曲をマルティノンはどう指揮するのであろうか?ボロディンとリムスキー=コルサコフは、19世紀後半に活躍した“ロシア五人組”のメンバーである(あとの3人は、バラキレフ、キュイそれにムソルグスキー)。その中の一人、ボロディンは、大学教授と作曲家の二足の草鞋を履いた生活を送ったため、作品の数はそう多くはないが、歌劇「イーゴリ公」やこのLPレコードの交響曲第2番などの名曲を今に遺している。交響曲第2番は、古典的な交響曲の手法に基づきながら、スラブ的な民族色を打ち出した曲として今でも多くのリスナーから愛好されている曲。一方、リムスキー=コルサコフは、若い頃海軍士官の経歴を持ち、後に作曲家に転じ、晩年は、音楽院の院長として後輩の育成にも貢献した。このLPレコードでのマルティノンの指揮ぶりは、ボロディン:交響曲第2番では、実にメリハリに利いた明快な表現力が実に魅力的だ。30年以上前の録音とは思えないほど、現在でも通用するような表現力の驚かされる。リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲は、マルティノンのセンスのいい指揮振りが一際印象に残る。リズム感に溢れたその演奏は、自身が持つ資質を存分に発揮した演奏と言えよう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のルーセル:交響曲第3番/第4番

2024-12-26 10:32:47 | 交響曲


ルーセル:交響曲第3番/第4番

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AA‐7595
 
 アルベール・ルーセル(1869年―1937年)は、最初は印象主義の作風から始まり、その後新古典主義の作品を作曲するに至ったフランスの作曲家。当時、ラヴェルとともにフランス楽壇の重鎮として活躍した。ルーセルは、海軍に入り軍艦の経験を積む。1894年に海軍を退くと、パリで音楽の道を志し、ダンディなどに師事。ルーセルの作風は、初期作品は印象主義音楽に影響を受けたが、もともとは古典主義者であった。同時代のドビュッシーやラヴェル、サティの作風とルーセルとの作風の違いは、その強烈なリズム感と重厚なオーケストレーションにある。ラヴェルと同じようにルーセルもジャズにも興味があったようで、「夜のジャズ」という歌曲を残している。日本においては、同時代のフランスを代表する作曲家のフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルに比べ、ルーセルの認知度は必ずしも高いとはいえない。これは、強固な構成と形式美を追い求めるルーセルの音楽は、フランス音楽独特得の雰囲気とは少々異なるところに原因があるのではないかと推察される。フランス音楽は、繊細さを追究する反面で、強烈な主張を持った音楽も存在する。つまり、フランスにおいてはルーセルの音楽もまた、フランス音楽そのものなのだ。このLPレコードには、交響曲第3番/第4番が収録されている。第3番は、ダイナミックで強烈なリズムを持った交響曲であり、そのエネルギッシュさが特に印象に残る。第4番も基本的には第3番と似たような作風の曲であるが、第3番には無かった平穏さも持ち合わせ、一回り大きな印象を受ける。これら2曲の交響曲は、現在ではフランクやサンーサーンスの交響曲と並び、フランスを代表する交響曲に位置づけられている。さらに、このルーセルの2曲の交響曲は、この後につづくオネゲル、ミヨー、リヴィエ、デュティユーなどに大きな影響を与えたといわれているほど、重要な作品と言える。このLPレコードでは、フランス出身の名指揮者アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)とパリ音楽院管弦楽団(パリ管弦楽団の前身)の演奏で、ルーセル独特の世界が思う存分繰り広げられる。第3番の演奏は、激しいリズムと奥深いオーケストラの音色が巧みに取り込まれ演出され、そのエネルギッシュさに圧倒される思いがする。第4番は、第3番とは異なり、優美な側面を間に挟みながら曲が展開される。このため、第3番ほど強烈な印象は与えないが、深みのあるオーケストレーションが、よりスケールの大きな交響曲としている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フリッツ・ライナー最後の録音 ハイドン:交響曲第101番「時計」/交響曲第95番

2024-11-21 09:40:18 | 交響曲


ハイドン:交響曲第101番「時計」
     交響曲第95番

指揮:フリッツ・ライナー

管弦楽:臨時編成による交響楽団

録音:1963年

LP:RVC(RCA) RCL‐1001

 このLPレコードで指揮をしているハンガリー出身のフリッツ・ライナー(1888年―1963年)は、10年間にわたりシカゴ交響楽団音楽監督を務め、同楽団を一流オーケストラに生まれ変わらせたことで知られる。リスト音楽院に学び、バルトークやコダーイ等に師事したという。1909年、同音楽院を卒業後、ブダペストのコミック・オペラに入団し、ティンパニー奏者と声楽コーチを担当。フリッツ・ライナーの録音を聴くと、いつも歯切れのいい、軽快な指揮ぶりに感心させられるが、これはティンパニー奏者としての経歴からきているのではないかとも言われている。1922年のアメリカに渡り、シンシナティ交響楽団の音楽監督に就任後、 ピッツバーグ交響楽団、メトロポリタン歌劇場などで活動する。そして1953年に、シカゴ交響楽団の音楽監督に就任し、死去までの10年間、同楽団の黄金時代を築いたのである。このLPレコードは、フリッツ・ライナーが遺した数多くの録音の最後の録音(1963年)となったもので、特に、ハイドン:交響曲第101番「時計」は、数ある同曲の録音の中でも、屈指の出来栄えを誇るものとなった。オーケストラは、単に「交響楽団」とだけクレジットされた”覆面オーケストラ”となっている。その実態はメトロポリタン歌劇場管弦楽団、ニューヨーク・フィル、ピッツバーグ交響楽団、シカゴ交響楽団等からの選抜メンバーで構成された臨時編成のオーケストラ。ハイドン:交響曲第101番「時計」は、1793年にウィーン近郊で着手し、翌1794年にロンドンで完成させたロンドン交響曲のうちの1曲。愛称の「時計」は、19世紀になってから、第2楽章の伴奏リズムが時計の振り子の規則正しさを思わせることから付けられたもの。一方、交響曲第95番は、ハイドンが1791年の第1回ロンドン旅行のおりに作曲した交響曲で、いわゆる「ロンドン交響曲」と呼ばれる中の1曲で連作の中では唯一の短調作品。交響曲第101番「時計」は、全楽章にわたり、フリッツ・ライナーの特徴である、筋肉質で、しかも軽快なリズムに乗り、オーケストラの持つ能力を極限にまで引き出す指揮ぶりには感心させられる。これを聴くと大変耳の良い指揮者であったことが推察できる。逆に言うと、オーケストラは少しの手抜きも許されず、さぞ大変であったのではなかろうか。交響曲第95番は、統一感のある肉太な指揮ぶりが印象的。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

2024-10-10 09:40:12 | 交響曲


ドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9131

 ドヴォルザークは、有名な交響曲第9番「新世界から」を書く4年前に、着手から僅か3カ月で完成させたのが、今回のLPレコードの交響曲第8番「イギリス」である。ドヴォルザークの研究家として名高い評論家のショウレック氏は、その著書「ドヴォルザークの生涯と作品」の中で「この曲は、男性的表現を持ち、直接にボヘミアの自然とチェコの民族から発生したものであるかのように素直に表現されている。彼の生命力と芸術的な円熟のみならず、彼の人格的および国民的特性の円熟を確証する最も典型的な作品である」と高く評価している。全9曲あるドヴォルザークの交響曲の中でも最もスラブ色濃い作品であり、特に第3楽章の哀愁を秘めたメロディーを一度でも聴けば、誰もがこの曲に愛着を持つようになること請け合いだ。全体は、古典的な交響曲の様式を踏襲しながらも、各楽章とも自由な形式によって書かれていることが、人気の秘密なのかもしれない。そして、全体に自然との触れ合いが感じられ、それが詩的な処理がされているため、素直に曲に入っていけるが嬉しい。ところでこの交響曲には「イギリス」という副題が付けられているので、何か英国と関わりの基に作曲されたたかのように感じられるが、実は、この曲の総譜が1892年にロンドンの出版社ノヴェロ社から出版されたから、というのが正解らしい。もしそうだとしたら、これからでも遅くないから、「ボヘミア」とでも副題を変更したらどうであろう。これならこの曲の持つイメージにぴたりと合う副題になると思うのだが・・・。このLPレコードで演奏しているのがヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。ここでのカラヤンの指揮ぶりは、その特徴である一糸乱れぬ端正な構成能力を遺憾なく見せつける。この曲は、古典的な性格に加えて、豊かな自然を思わせる豊饒さを備えた曲であるが、これらがカラヤンの本来持つ特性にうまく溶けあい、数あるこの曲の録音の中でも、名録音の一つに数えられるほどの仕上がりを見せている。そして、何と言ってもウィーン・フィルの伸びやかでピュアな響きがなんとも心地良い。これに加え、LPレコードが本来持つ音質の柔らかさが加味され、あたかも目の前に豊かな自然が浮かび上がって来るような錯覚にすら捉われてしまう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団のベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

2024-10-03 09:38:52 | 交響曲


ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

指揮:ロリン・マゼール

管弦楽:クリーブランド管弦楽団

ヴィオラ:ロバート・ヴァーノン

録音:1977年10月2日

発売:1978年

LP:キングレコード SLA1168

 ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」には、如何にもベルリオーズらしい作曲の経緯がある。ベルリオーズの有名な「幻想交響曲」は、1830年12月に初演されたが、当時大きな話題を集め、その話を聞きつけて「幻想交響曲」を聴き、いたく感激した一人に、超人的技巧で名を馳せていた大ヴァイオリニストのパガニーニがいた。当時パガニーニは、ストラディバリウスのヴィオラの銘器を入手したが、これといったヴィオラ用の協奏曲がなかったため、ベルリオーズに新しいヴィオラ協奏曲の作曲を依頼したのであった。ところが出来上がった第1楽章の楽譜を見て、当初期待していたようなヴィオラが華やかに活躍する協奏曲とはなっておらず、このためパガニーニは作曲の依頼から降りてしまう。そうなると、後はベルリオーズの意図のみで作曲が進められることになる。テーマとしては、バイロンのメランコリックな夢想者の物語を内容とした長篇詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」が取り上げられ、さらにベルリオーズがイタリアに留学中の想い出の地、アブルッチを回想して「イタリアのハロルド」と命名された。曲は1834年に完成し、初演で大成功を収めたという。各楽章には標題が付けられている。第1楽章「山におけるハロルド、憂鬱、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷をうたう巡礼の行進」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナーデ」、第4楽章「山賊の饗宴、前景の追想」。ハロルド役はヴィオラの演奏。固定楽想を奏し、嘆いたり、取り乱したりするが、やがてハロルド自らが求めて山賊の洞窟に踏み入れ、そして、凶暴な山賊によって、昇天するという、如何にもベルリオーズ好みの怪奇的ストーリーとなっている。そんな内容の交響曲「イタリアのハロルド」を、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団は、各楽章に付けられた標題を、リスナーが思い浮かべられるかのように、実に丁寧に、しかも明快に劇的に演奏する。ロバート・ヴァーノンのヴィオラは、ベルリオーズの構想どおりオーケストラと一体化して、決して協奏曲的な表現は取らない。このLPレコードは、ロリン・マゼール(1930年―2014年)がクリーヴランド管弦楽団の音楽監督時代の録音。当時、ロリン・マゼールはまだ47歳であり、如何にも颯爽とした雰囲気の指揮ぶりに加え、既に巨匠の片鱗を覗かせており興味深い。この後の1982年にはウィーン国立歌劇場の総監督に就任し、ロリン・マゼールは世界の頂点に立つことになる。(LPC)

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