★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・シゲティらによるブラームス:ホルン三重奏曲/ヴァイオリンソナタ第2番

2022-03-31 10:15:52 | 室内楽曲


ブラームス:ホルン三重奏曲
      ヴァイオリンソナタ第2番

ヴァイオリン:ヨゼフ・シゲティ

ピアノ:ミエツィスラフ・ホルショフスキー

ホルン:ジョン・バローズ

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐93(SR 90210)

 このLPレコードに収録されたブラームス:ホルン三重奏曲とヴァイオリンソナタ第2番は、いかにもブラームスらしい内省的な音楽である。そのしみじみとした味わいに一度嵌ると、そこからは容易には抜け出せないような感じを強く持つ楽曲なのだ。2曲とも夜更けに一人で聴くのに最適な曲ではある。そんな感じの曲であるからこそ、その演奏内容は曲想にぴったりと当て嵌まらねばならないのは、言わずもがなのことである。その点、このLPレコードの3人は、理想的な演奏者と言っても過言なかろう。もっとも3人といってもリーダー的存在は、ヴァイオリンのシゲティであろうことは言を待たない。ホルン三重奏曲の演奏については、ジョン・バローズのホルンの音色が実に自然で、限りなく耳に優しく響くことに感心させられる。それにシゲティの哀愁に満ちたヴァイオリンと歯切れのよいホルショフスキーのピアノとがうまく溶け合い、類まれなブラームスの室内楽の録音を遺してくれている。ブラームス:ヴァイオリンソナタ第2番は、シゲティによるヴァイオリンの至芸をたっぷりと味わうことができる。シゲティの演奏は、当時一般的であった恣意的な演奏態度を改め、楽譜に忠実に、作曲家が意図したものに近づける奏法を身上とした。一見するとぶっきらぼうに聴こえるシゲティのヴァイオリン演奏は、よく聴くと慈愛に満ちたしみじみとした一面が窺え、「これぞ本物のヴァイオリン演奏を聴いた」という満足感に浸れる。ヴァイオリンのヨゼフ・シゲティ(1892年―1973年)は、ハンガリー・ブタペスト出身。最初に父親からヴァイオリンの手ほどきを受けた後、国立音楽院で名ヴァイオリニストのイェネー・フーバイに師事。13歳の時ブタペストでデビューを果たす。その後、ドイツのベルリン、ドレスデンなどで演奏活動を行い大成功を収める。1925年フィラデルフィア管弦楽団との共演でアメリカでのデビューを飾った後、アメリカへの移住を図り、1951年にはアメリカの市民権を獲得。1931年~1933年には世界一周演奏旅行を行い、この間日本でも演奏会を行い、当時の日本のファンを喜ばせた。晩年は、アメリカを離れ、スイスに移住し、後進の指導に当たり、海野義雄、潮田益子、前橋汀子、宗倫匤など、日本の若手ヴァイオリニストの育成にも貢献した。ジョン・バローズ(1913年―1974年)は、アメリカ合衆国出身のホルン奏者、ミエツィスラフ・ホルショフスキー(1892年―1993年)は、ポーランドのレンベルク(現ウクライナ共和国リヴォフ)のピアニスト。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響のヨハン・シュトラウス名品集

2022-03-28 09:36:34 | 管弦楽曲


ヨハン・シュトラウス:美しき青きドナウ
           ウィーンの森の物語
           皇帝円舞曲
           ウィーンかたぎ
           喜歌劇「ジプシー男爵」
           喜歌劇「こうもり」序曲

指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:コロンビア交響楽団

録音:1956年3月22日~23日

発売:1979年

LP:CBS・ソニー 15AC674

 このLPレコードノライナーノートに宇野功芳氏(1930年―2016年)は「・・・当時、評論家として世に出てからまだ日の浅かったぼくは早速この新盤を買いに行き、豪華な舞踏会の情景を描いたジャケットを大切に抱えて電車に乗ったのを思い出す。・・・」と書いている。昔は、現在のような消費社会の日本では考えられないくらいLPレコードは貴重な個人の財産で、LPレコード店からお目当てのLPレコードを買って家に持ち帰ったときの幸福感は、他に例えようもないものだった。そしてLPレコードの楽しみの一つは、ジャケットが大きいために、表紙の写真や絵を心置きなく鑑賞できることであった。それが現在では、小さなサイズのCDあるいはダウンロードにとって代わってしまって、そんなささやかな楽しみも無くなってしまった。今回のLPレコードは、巨匠ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)が自分の録音のために臨時に編成されたコロンビア交響楽団を指揮したヨハン・シュトラウスの名品集である。ワルターは温厚な人柄とその大らかな演奏スタイルから、何か幸福な人生を歩んだと思われがちだが、指揮者としてウィーン時代からニューヨーク時代の録音を聴くと、何か痛ましい感じがするほどの激変を乗り越えざるを得なかった音楽人生であった。さらに私生活でも不幸に見舞われている。ワルターは、ウィーン国立歌劇場楽長・音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督、ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団楽長、ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督などを歴任したが、そんなワルターが最後に行き着いた安住の地が、米国でのコロンビア交響楽団との録音である。そしてこのLPレコードでは、自身の音楽人生のスタートとなったウィーンの音楽を指揮している。ここでの演奏は、ウィーン情緒を前面に出すというより、オーケストラの演奏効果を最大限に発揮させた力強い内容になっている。なので、ウィーン情緒を求めてこのLPレコードを聴くと肩透かしを食らうことになる。ワルターは、心不全のため米国カリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅で亡くなったが、このヨハン・シュトラウスの録音は、アメリカという新天地を強く意識して、敢えてウィーン情緒を盛り込まかった結果ではなかろうかと私は考えている。ワルターは一度も来日することなくこの世を去ってしまったが、その昔、日本人のリスナーは皆と言っていいほど、ワルターが遺した録音を聴くのが大好きであった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ニカノール・サバレタの ”ハープ・リサイタル”

2022-03-24 09:43:52 | 器楽曲


バッハ:ハープのための組曲BWV1006a(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番による)
ヘンデル:主題と変奏ト短調
コレルリ:ソナタニ短調
シュポーア:ハープのための変奏曲
フォーレ:塔の内の王妃
アルベニス:ソナタニ長調
     :マラゲーニア(組曲「エスパニア」から)

ハープ:ニカノール・サバレタ

録音:1963年10月28~29日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5199

 ニカノール・サバレタ(1907年―1993年)は、スペイン出身の偉大なハーピスト。当時は、ハープといえば”サバレタの前にサバレタなし、サバレタの後にサバレタなし”といった感じで、絶大な人気を誇っていた。自分で考案した8つのペダルを持つハープを用いての鮮やかな演奏は、当時の聴衆を完全に魅了したようだが、このことはこのLPレコードでもはっきりと聴き取ることができる。例えば、第1曲目のバッハ:ハープのための組曲BWV1006aを聴いてみると、原曲のヴァイオリンのための作品とは雰囲気がらりと変わり、ハープ特有の柔らかさが前面に打ち出され、新しい曲を聴いているような気分にさせられる。サバレタは、ミヨー、クシェネック、タイユフェール、ヴィラ=ロボスなど著名な作曲家から数多くの作品を献呈されているほか、自ら作曲や編曲を行った。さらに、埋もれていた作品の発掘も熱心に行い、この結果、サバレタは当時、ハープのレパートリーを広げることでも大いに貢献したのだ。このLPレコードでは、サバレタの豊かなその音楽性を存分に味わうことができる。サバレタのハープの奏でる、あたかも天国で弾いているようなその音色を一度でも聴いたら、二度と忘れられなくなる。それほど、サバレタのハープ演奏は、曲の核心をしっかりと掴み、その曲が持つ豊かな音楽の世界をリスナーに存分に伝えてくれる。ハープは、朝聴いても、昼聴いても、さらに夜聴いても、その時々の別な表情を見せてくれる、地味な存在ながら他に変えがたい愛すべき楽器ではある、と思う。ニカノール・サバレタは、スペイン北部のバスク地方のサン・セヴァスティアンで生まれた。マドリード音楽院で学んだ後、パリ音楽院に進む。1925年にパリのサル・エラールでデビューを果たし、たちまちのうちに評判となる。そして、ヨーロッパ各地でリサイタルおよびオーケストラとの共演を行う。1934年からはアメリカを中心とした演奏活動を展開して人気を集める。第二次世界大戦後は、ヨーロッパを中心として世界中で演奏活動を行い、“世界最高のハープ奏者”としてその名が世界に知られるようになる。フランスの伝統的で華麗な奏法を身に着けた上で、自ら考案した8つのペダルを持つハープを駆使して、鮮やかなテクニックと多彩な表現で聴衆を魅了した。スペインに居を定め、欧州各地に演奏旅行に出かけ、1959年から1962年までシエナのキジアーナ音楽院でハープ科を担当した。また、自ら作曲を行ったほかに、編曲や当時埋もれていた作品の発掘にも熱心に取り組んだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のブルックナー:交響曲第7番

2022-03-21 09:41:58 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第7番(原典版)

指揮:フランツ・コンヴィチュニー

管弦楽:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

録音:1958年6月20~22日、ライプツィヒ

発売:1977年5月

LP:日本コロムビア OC‐7112‐K

 フランツ・コンヴィチュニー(1901年―1962年)は、モラヴィア生まれの旧東ドイツの指揮者。オペラ演出家(ライプツィヒ歌劇場首席演出家)のペーター・コンヴィチュニー(1945年生まれ)は息子。当初フランツ・コンヴィチュニーは、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でヴァイオリンとヴィオラを弾いていたが、第二次世界大戦後の1949年に古巣のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団に音楽監督・首席指揮者として迎えられ、楽団を再び栄光の日々の時代のレベルにまで引き上げた功績者なのである。ドイツ・オーストリア系の作曲家の作品を得意としており、中でもブルックナーの交響曲は必ず「原典版」で指揮したとされる。その指揮振りは「古風ではあっても古くさいという感じはあまりなく、むしろ現代の私たちに素直に訴えかける力強さと生命力にみなぎっている」(黒田恭一氏・ライナーノートより)と感じるリスナーが多くいた。このLPレコードでのブルックナー:交響曲第7番の指揮でも、悠然とした構えの中に、聴く者の琴線に触れるような、時折見せるなんとも人間くさい、そして懐かしい思いが込み上げてくるような演奏内容には共感を覚えざるを得ない。ブルックナー:交響曲第7番は、ビギナーのリスナーには少々難解かもしれないが、ジュニアのリスナーには是非とも聴いておいてほしい曲だし、シニアのリスナーにおいては必聴の曲といえよう。ブルックナーの交響曲第7番は、第4番と並んで人気が高い曲である。1881年作曲が開始されたが、第2楽章の執筆中に尊敬するワーグナーが危篤となり、ブルックナーは「ワーグナーの死を予感しながら」書き進めたという。そして1883年2月13日にワーグナーが死去すると、その悲しみの中でコーダを付加し、ワーグナーのための“葬送音楽”と名付けた。そして、1883年9月5日に全4楽章が完成する。初演は1884年12月30日、アルトゥル・ニキシュ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によりライプツィヒ歌劇場で行われ、成功を収めた。ブルックナーの交響曲は深遠で、しかも高度な演奏技術を要することから、初演時には正しく評価されない場合が多いいが、この交響曲第7番は例外で、初演時から高い評価を得ることができた。編成は、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ワグナーチューバ4(テノール2とバス2)、コントラバス・チューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、弦五部からなる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バックハウスのベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」/第17番「テンペスト」/第26番「告別」(ライヴ録音盤)

2022-03-17 09:48:29 | 器楽曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」
          ピアノソナタ第17番「テンペスト」
          ピアノソナタ第26番「告別」

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

録音:1954年3月30日、ニューヨーク・カーネギーホール(ライヴ録音)

発売:1972年

LP:キングレコード MZ 5098

 ウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)は、ドイツが生んだ史上最高のピアニストの一人であり、最後のヴィルトゥオーソとも言われる。その演奏が威厳に満ちたものであったことから“鍵盤の獅子王”という尊称で呼ばれていたほどの不世出の巨匠中の巨匠であった。完璧なテクニックと雄大なスケールの演奏には定評があり、特にベートーヴェンのピアノソナタでは、他と較べられないほどの高みに到達した演奏内容は当時絶賛された。このLPレコードは、バックハウスが28年ぶりにアメリカを訪れた際、1954年3月30日に、ニューヨーク・カーネギーホールで行った演奏会のライヴ録音という貴重なものである。バックハウスはベートーヴェンの3曲のピアノソナタを卓越した技巧で演奏し、その確信に満ちた演奏を聴くと、“鍵盤の獅子王”というニックネームが決して誇張でないことが自ずと分ってくるのである。特にライヴ録音独特の緊張感が伝わってくるところに、このLPレコードの持つ真の価値がある。何という力強いベートーヴェンであろうか。あたかもベートーヴェンの肉声を聞くような錯覚にも陥る程の名演を聴くことが出来る。この演奏後、バックハウスは、日本への演奏旅行へと旅立ち、日本の聴衆にもその優れた演奏を披露し、熱烈な歓迎を受けた。バックハウスは、ドイツ・ライプツィヒ出身。ドイツ国籍であったが、のちスイスに帰化した。1900年、16歳の時にデビューを果たす。1905年、パリで開かれた「ルビンシュタイン音楽コンクール」のピアノ部門で優勝。1930年スイスルガーノに移住した後、1946年スイスに帰化した。ヒットラーがバックハウスのファンであったことからナチとの間柄が疑われ、第二次世界大戦後はアメリカへの入国が拒否された。ようやく1954年にアメリカの入国禁止が解け、3月30日にカーネギー・ホールでコンサートを開いたのが、このLPレコードに収録された演奏である。コンサートで演奏された曲目は、このLPレコードに収録されたベートーヴェンの3曲のピアノソナタのほか、ベートーヴェン:ピアノソナタ第25番、第32番、さらにアンコールに応えて演奏したシューベルト:即興曲変イ長調op.142の2、シューマン:幻想小曲集op.12より第3曲「なぜに?」、シューベルト(リスト編曲):ウィーンの夕べ、ブラームス:間奏曲ハ長調op.119の3で、初版時はLPレコード2枚組に収められていた。音質は、今から44年も前であり、しかもライヴ録音ということなので十全ではないにしても、音の輪郭が明確に捉えられており鑑賞には支障はない。(LPC)  

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