★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団他のブラームス:弦楽六重奏曲第1番/第2番

2024-12-23 09:47:30 | 室内楽曲


ブラームス:弦楽六重奏曲第1番/第2番

弦楽六重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
           
        アントン・カンパー(第1ヴァイオリン)
        カール・マリア・ティッツェ(第2ヴァイオリン)
        エーリッヒ・ヴァイス(ヴィオラ)
        フランツ・クヴァルダ(チェロ)
        
      フェルディナンド・シュタングラー(第2ヴィオラ/第1番)
      ウィルヘルム・ヒューブナー(第2ヴィオラ/第2番)         
      ギュンター・ヴァイス(第2チェロ)

LP:東芝EMI IWB‐60045
 
 ブラームスは、弦楽四重奏曲にヴィオラ1、チェロ1を加えた弦楽六重奏曲を、第1番と第2番の2曲作曲している。弦楽四重奏曲を3曲しか作曲しなかったのに対し、弦楽六重奏曲は2曲作曲したということになる。これは、ベートーヴェンとは異なり、ブラームスの志向としては、弦楽四重奏曲よりは、より重厚な響きがある弦楽六重奏曲に向いていたためであろう。第1番は、1859年に着手され、翌1860年夏に完成した。全4楽章は、明るい牧歌的なメロディーに溢れており、このためこの第1番を愛好するリスナーは多い。第2番は、第1番を作曲した5年後の1865年に完成した。この曲は「アガーテ六重奏曲」と呼ばれることがある。それは、ブラームスが、声の美しい女性、アガーテ・フォン・シーボルトに、結局は結ばれぬ恋心を抱いた頃の作品であるからだ。ブラームスは、結婚に至らなかった呵責の念をこの作品に込めたと言われている。そう言われて聴いてみると、第1番は牧歌的で明るい曲調の作品に仕上がっているのに対し、この第2番は、思索的で心の内面を覗き込むような内省的な曲となっている。悲恋の感情なのであろうか、デリケートな感情が克明に描写され、第1番には無い奥深さを感じさせる作品となっている。このLPレコードで演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団を中心としたメンバーである。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の創設は1934年で、戦後2度来日を果たしている。ウィーン交響楽団のメンバーだった第1ヴァイオリンのアントン・カンパー(1903年―1989年)を中心に、流れるような美しい、そして甘い音色が際立った演奏をする弦楽四重奏団として、当時多くのファンを有していた。要するにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、古きよき時代を思い起こさせる、ウィーン情緒たっぷりの弦楽四重奏団であったのだ。1967年カンパーの現役引退を機に解散した。このLPレコードでの第1番の演奏は、通常我々が耳にする明るく牧歌的で、スケールを大きく取った第1番の演奏とは大分異なり、弦楽四重奏のメンバーが主導権を握り、実に緻密で清らかな流れに沿った静寂な演奏に終始する。私はこの演奏については、何か、新しい第1番の世界を聴いたかのような感じを受けた。一方、第2番の方は、6人が対等な関係を維持し、如何にも弦楽六重奏曲的な広がりの演奏を繰り広げる。特に、第2番特有なデリケートな曲調を、実に緻密な演奏で表現し切っているところは、見事と言うしかない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ボーザールトリオのシューマン:ピアノ三重奏曲第1番/第2番

2024-12-02 09:54:17 | 室内楽曲


シューマン:ピアノ三重奏曲第1番/第2番

ピアノ三重奏:ボザール・トリオ
            
          メナヘム・プレスラー(ピアノ)
          イシドーア・コーエン(ヴァイオリン)
          バーナード・グリーンハウス(チェロ)

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐165
 
  シューマンには、「歌曲の年」「交響曲の年」それに「室内楽の年」と呼ばれる年があり、それぞれのジャンルの曲を集中的に作曲した。「室内楽の年」と呼ばれる年は、1842年であり、この年に入ると、3曲の弦楽四重奏曲を一気に書き上げ、さらに、ピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲という傑作を世に送り出している。しかし、ピアノ、ヴァイオリン、チェロによる「4つの幻想小曲」以外、この年には本格的なピアノ三重奏曲には手を染めていない。これは何故か?その理由は詳らかではない。私の推測にしか過ぎないが、シューマンのこの時期というと、過度とも言えるほどロマンの色濃い作品を書いていたわけで、なるべく弦の多い形式の曲に傾斜していたためではなかろうか。シューマンは、この5年後の1847年にピアノ三重奏曲第1番を書き上げ、さらに1851年までにあと2曲を書き加え、全3曲のピアノ三重奏曲を完成させている。この頃のシューマンは、若い頃からのロマンの雰囲気に加え、古典形式への傾斜も見せ、複雑な作曲環境の中にあり、さらに、徐々に神経障害の兆候も見られ、決して順調とは言えない環境にあった。このため、3曲あるピアノ三重奏曲のうち、現在、よく演奏されるのは早い時期に書かれた第1番であり、第2番、第3番は晦渋な作品としての位置づけが一般的であるようだ。しかし、よく聴くと第2番、第3番もシューマンでしか表現できないような、繊細さが込められた作品となっている。このLPレコードには、ボザール・トリオの演奏で第1番と第2番とが収められている。ボザール・トリオは、米国のピアノ三重奏団で、1955年にピアニストのメナヘム・プレスラー(1923年―2023年)によって結成され、2008年のルツェルン音楽祭のコンサートをもって解散したが、その演奏内容は常に高い評価を勝ち得ていた。このLPレコードでのボザール・トリオの演奏も、シューマン独特のロマンの色濃い雰囲気を最大限発揮させ、リスナーはその名演に釘付けとなる。3人の息がぴたりと合い、一部の隙のない演奏を聴かせる。第1番は、伸び伸びとしたロマン豊かな響きが、とりわけ魅力的な演奏だ。第2番は、一般的に言って晦渋な作品かもしれないが、シューマン愛好家にとってはお宝的作品。特に第2楽章、第3楽章の哀愁を帯びたボザール・トリオの演奏を一度でも聴いたら、二度と忘れられなくなる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇レオポルト・ウラッハのモーツァルト:クラリネット五重奏曲/フルート四重奏曲第1番

2024-11-25 10:08:22 | 室内楽曲


モーツァルト:クラリネット五重奏曲
         フルート四重奏曲第1番

クラリネット:レオポルト・ウラッハ

<クラリネット五重奏曲>

弦楽四重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団

<フルート四重奏曲第1番>         

フルート:ハンス・レズニチェック
ヴァイオリン:アントン・カンパー
ヴィオラ:エーリッヒ・ワイス
チェロ:フランツ・クヮルダ
         
発売:1965年

LP:キングレコード MH‐5202

 モーツァルト:クラリネット五重奏曲は、1798年に作曲され、同じ年の12月に初演された。この頃は、モーツァルトが金銭的にかなり厳しい時期であった。この時は、どうも妻の病気で資金を使い果たしたようである。この時以外にも、晩年のモーツァルトは、経済的にどん底にあったのは事実である。しかし、その真の原因は今に至るまで明らかになってはいない。モーツァルトに浪費癖があったのか、それとも・・・? 謎のままだ。いずれにしても、クラリネット五重奏曲を書いた頃のモーツァルトは、金銭的に追い込まれていたのだ。だがしかし、クラリネット五重奏曲を聴くと、それとは正反対の、まるで天上の音楽を聴くが如く、クラリネットの澄んだ音色が響き渡り、幸福感に溢れた曲になっているから驚きだ。やはりこれは、俗世間とは離れて作曲できるという、天才にしか与えられない特権なのかもしれない。この曲は、友人のクラリネット奏者のシュタットラーに捧げられているが、モーツァルトは、クラリネットについての知識を、このシュタットラーから得ていたようである。モーツァルトは、クラリネット五重奏曲のほかにクラリネット協奏曲という名曲を遺しているが、クラリネット自体はあまり好きな楽器ではなかったようだ。ところが、こんな名曲を遺したということは、シュタットラーの適切な助言があればこそ、ということなのであろう。その意味では、我々リスナーは、シュタットラーに感謝しなければならないということになる。このLPレコードで演奏しているレオポルト・ウラッハ(1902年―1956年)は、ウィーン出身の名クラリネット奏者。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者などを務めた。このLPレコードでもウラッハは、その暖かみのある音色を、陰陽あわせて実に巧みに表現している。今に至るまで、いわゆるウィーン情緒溢れる音色を自在に表現できるクラリネット奏者は、このウラッハをおいて他にいない、と言ってもいいほどだ。B面に収められたフルート四重奏曲第1番にも同じことが言える。モーツァルトは、あまりフルートという楽器が好きではなかった。これは当時のフルートの音程が安定していなかったためらしい。しかし、このフルート四重奏曲第1番も、クラリネット五重奏曲同様、典雅さを湛えた、誠に美しい曲に仕上がっている。フルートのハンス・レズニチェックの演奏も、この曲の良さを最大限に引き出すことに成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ランパル&ラスキーヌの”フルートとハープの夢の共演”

2024-11-04 09:51:54 | 室内楽曲


~ランパル&ラスキーヌ~フルートとハープ名曲集~

作者不詳:グリーンスリーヴス
クルムフォルツ:ソナタ ヘ長調
ロッシーニ:序奏と変奏
フォーレ:子守歌
イベール:間奏曲
ダマーズ:ソナタ

フルート:ジャン=ピエール・ランパル

ハープ:リリー・ラスキーヌ

発売:1979年

LP:RCV E‐1048

  このLPレコードは、フルートの名手であったジャン=ピエール・ランパル(1922年―2000年)とハープの名手であったリリー・ラスキーヌ(1893年―1988年)が共演して録音したもの。フルートとハープの組み合わせの曲は、モーツァルトの有名な協奏曲以外は、ありそうでいてあまりない、というより、あまり演奏されない楽器の組み合わせなのだ。そうであるからこそ、このLPレコードの存在自体が貴重になってくる。しかも、それぞれの奏者が超一流であるから、さらにその存在意義が高まる。そして、LPレコードという記録媒体が本来的に持つ、音の柔らかさやピュアな音質が存分に発揮されて、一度聴くと「LPレコード以外ではもう聴きたくない」と感じられるほど。フルートとハープは、数ある楽器の中でも最も古くからある楽器であるが、近代的な楽器として完成したのは、19世紀の前半という比較的最近というから、少々驚きだ。モーツァルトは、フルートの音程が不安定であったため、フルートの曲はあまり遺していない。一方、ハープはというと、長らく転調が出来ないという欠陥をもった楽器であったのが、ようやく19世紀に入り、エラールによって近代的な楽器へと生まれ変わった。この2つの楽器に共通するのが、作曲家、演奏家、楽器製造家いずれをとってもフランスとの関りが非常に強いということ。これは、フランス音楽が、この2つの楽器の優雅で、華やかな美しさに彩られた特質に、ぴたりと符合することから来ることなのであろう。フルートのジャン=ピエール・ランパルは、フランスのマルセイユに出身。1943年にパリ音楽院に入学。1947年に「ジュネーブ国際コンクール」で優勝しソロで活動を開始。1956年からパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者となる。現在では「ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」が開催されている。ハープのリリー・ラスキーヌは、パリ出身。1904年にパリ音楽院に入学。16歳でパリ・オペラ座管弦楽団にハープ奏者として入団。1934年にフランス国立管弦楽団が創設されると、ハープの独奏者に就任。現在では「リリー・ラスキーヌ国際ハープコンクール」が開催されている。このLPレコードでの2人の共演は、正に”夢の共演”の表現がぴたりと合い、優雅さと華やかさとが融合し、聴いていると、あたかも一面に美しい花々が咲き誇った花園に居るような気分に浸ることができる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン=ジャック・カントロフ&ジャック・ルヴィエによるドヴュッシー/ラヴェル:ヴァイオリンソナタほか

2024-10-07 09:46:18 | 室内楽曲


ラヴェル:ヴァイオリンソナタ      
     フォーレの名による子守唄
ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ

ピアノ:ジャック・ルヴィエ

発売:1977年

LP:RVC(仏コスタラ出版社) ERX‐2317

 このLPレコードには、フランスの大作曲家のドヴュッシーとラヴェルのヴァイオリンとピアノのために書かれた全ての作品が収められている。意外に少ないと感じられるかもしれないが、2人ともロマン派の作曲家が得意としたヴァイオリンとピアノのための作品を、晩年に至るまで、あまり快くは思ってなかったようである。ところがこのLPレコードに収められた4曲の作品はいずれも優れたもので、特にドヴュッシー:ヴァイオリンソナタは、このLPレコードのライナーノートに「ドヴュッシーが彼の才能の頂点に立っていることを示している。彼の霊感がこれほど灼熱のほとばしりをみせ、これほど豊かな幻想と多様性をみせたことがかつてあったろうか」(ハリー・ハルブレイチ氏)と書かれているとおり、内容の充実した作品に仕上がっている。作曲は第一次世界大戦中の1916年から1917年にかけて行われ、重病をおして最後の力を振り絞り、2年前にスケッチしてあった作品を完成させたものだという。このヴァイオリンソナタは、ドビュッシーの全作品の最期となった作品。ドビュッシーは晩年になり、チェロソナタ、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ、それにこのヴァイオリンソナタの3曲を作曲した。一方、ラヴェル:ヴァイオリンソナタは、1927年のはじめ、4年前の完成に至らなかったヴァイオリン協奏曲を基にして完成させた作品。初演は1927年に、伝説のヴァイオリニストのジョルジュ・エネスコとラヴェル自身のピアノによって行われた。これは、丁度、ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタの10年後に当る。第2楽章のブルースで、ラヴェルは後の2つの協奏曲と同様にジャズの要素を取り入れている。この曲は、ラヴェルの室内楽曲の最後の作品となった。このLPレコードでは、フランス出身のヴァイオリニストで、後に指揮者に転向したジャン=ジャック・カントロフ(1945年生まれ)が演奏している。ピアノはフランス出身のジャック・ルヴィエ(1947年生まれ)で、1970年にジャン=ジャック・カントロフとフィリップ・ミュレとともにピアノ三重奏団を結成している。このLPレコードでの演奏内容は、フランス音楽の精緻さを強く感じさせるもので、まるで宝石箱から溢れ出る光のように、きらびやかであると同時に、どこまでも広がる透明感が何ともいえない優雅な雰囲気を、辺り一面に醸し出す。フランスの室内楽の醍醐味を存分に味わえるLPレコードだ。(LPC)

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