バッハ:前奏曲 ハ短調 BWV999
フーガ ト短調 BWV1000
組曲 ホ長調 BWV1006aより ルール/ガヴォット/メヌエット1&2/ジーグ
組曲 イ長調 BWV1007
組曲 ホ短調 BWV996より アルマンド/ブーレ
リュート:ヴァルター・ゲルヴィッヒ
録音:1964年4月、8月ハンブルク市ブランケネーゼ・ティーンハウス&ロース音楽スタジオ
LP:日本コロムビア OW‐7796‐MC
リュートは、人類が生み出した楽器の中でも最も古いものの一つである。ギターと同じく撥弦楽器の一種に数えられ、主に中世からバロック期にかけてヨーロッパで用いられた古楽器群の総称を指し、ひとまとめにしてリュート属とも呼ばれる。元来はアラビア起源の楽器が中世にヨーロッパに伝来し独自に発達し、リュートの原型となった。日本や中国の琵琶とも祖先を同じくするという。10世紀以来ヨーロッパに入り、ムーア人たちによって各地に普及した。中世の文献にリュートがしばしば登場し、16世紀~17世紀には家庭の楽器として広く愛好され、18世紀に至るまでリュート音楽は、立派な音楽として尊重されたようである。しかし、1780年頃を境に、リュートは没落して行く。そして、20世紀になるとリュートが復活し、現在では古楽器ブームの影響もあり、完全に定着した。わが国でも日本リュート協会が設立されるほど、愛好者は多い。バッハは、自分でもリュートを弾いていたことが想像され、自ら作曲した器楽曲用の曲をリュート用に編曲している。このLPレコードでリュートを弾いているのは、当時“リュート界の重鎮”と言われたヴァルター・ゲルヴィッヒ(1899年―1965年)で、録音時にはケルン国立音楽大学のリュート専攻科の主任教授の地位にあった。ゲルヴィッヒは当初、合唱指揮者としてスタートしたのだが、このことがリュート演奏において、豊かな音色を紡ぎ出す源になったと思われる。「前奏曲ハ短調」BWV999は、バッハが最初からリュートの曲として作曲したもので、ケーテン時代(1717年―1723年)につくられた。「フーガト短調」BWV1000は、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の第2楽章からの転曲。「組曲ホ長調」BWV1006aは、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番からの4つの舞踏曲から取られ、ヴァルター・ゲルヴィヒの編曲。「組曲イ長調」BWV1007は、無伴奏チェロ組曲第1番から取られ、ヴァルター・ゲルヴィヒの編曲。「組曲ホ長調」BMV996は、後代の誰かの手でリュート風楽器用(バッハが作らせたリュート・チェンバロのことではないかと言われている)という但し書きが書かれている。このLPレコードでは、ゲルヴィッヒが如何にリュートから深い味わいを引き出して弾いていることを聴き取ることができる。ギターとも一味違う優雅な音色に、暫し時の経つのも忘れ、古の音色に聴き惚れてしまう。(LPC)
~ギター名曲集~
タルレガ:アルハンブラの想い出/アラビア風奇想曲
アルベニス:入江のざわめき/レイエンダ
モーツァルト(ソル編):“魔笛”の主題による変奏曲
スペイン民謡:ロマンス
ヴィラ=ロボス:前奏曲第1番
ムダーラ:ファンタジア
サンス:パバーナ&カナリオス
リョベート:3つのカタロニア民謡(アメリア姫の遺言/盗賊の歌/聖母と御子)
バッハ(セゴビア編):シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番より)
ギター:クリストファー・パークニング(タルレガ、アルベニス、スペイン民謡、
ヴィラ=ロボス)
アリリオ・ディアス(モーツァルト、サンス、リョベート、バッハ)
オスカー・ギリア(ムダーラ)
LP:東芝EMI EAC‐40033
ギター音楽を聴くと何かほっとした気分に浸れる。ピアノやヴァイオリンそれに管楽器を聴くと、多かれ少なかれ、何がしかの威圧感のような緊張感が常に付いて回ってしまう。それに対し、ギターの音色を聴くとその瞬間から、回りの空気がどことなく穏やかになり、リスナーはその中で夢ごごちで音楽を思う存分聴くことができるのだ。その一方では、ギターは“小さなオーケストラ”とも言われている通り、一つの楽器とは到底思えないほどの音の広がりを我々に聴かせてくれる。このLPレコードは、そんなギター音楽の名曲中の名曲を一堂に集めて、一流の演奏家が心を込めて演奏してくれている、誠に楽しくも懐かしい一枚。ギターの柔らかい音色に浸るのは、LPレコードが一番なのだ。「アルハンブラの想い出」は、タルレガがアルハンブラ宮殿を訪れた印象を綴った曲。「アラビア風奇想曲」は、タルレガの作品の中で最もロマンチックな作品。「入江のざわめき」は、アルベニスのピアノ曲集「旅の思い出」の1曲。「レイエンダ」は、アルベニスのフラメンコ風な曲。「“魔笛”の主題による変奏曲」は、モーツァルトのオペラを基にソルが書いた変奏曲。「ロマンス」は、“禁じられた遊びのテーマ”として知られている曲。「前奏曲第1番」は、ヴィラ=ロボスの「前奏曲集」(全5曲)から1番目の曲。「ファンタジア」は、16世紀のムダーラの曲で、ハープを真似た作品。「パバーナ&カナリオス」は、17世紀のサンスの優雅な宮廷舞曲。「3つのカタロニア民謡」は、リョベートがカタロニア民謡を編曲した曲。「バッハ:シャコンヌ」は、セゴビアがギター曲へ編曲した作品。このLPレコードで演奏しているのは、スペイン出身のギターの神様アンドレス・セゴビア(1893年―1987年)の門下生の俊英3人である。クリストファー・パークニング(1947年生まれ)は、米国出身の初めての天才的クラシック・ギタリスト。演奏スタイルは、均整のとれたなかにも瑞々しい歌心を通わせたもので、アンドレス・セゴビアも「まれにみる天分に恵まれた若者」と絶賛していたと言う。アリリオ・ディアス(1923-2016年)は、南米ベネズエラ出身のギター演奏の大家。セゴビアの教えを受け、師の助教授も務めた。歯切れの良い明確なテクニックには定評がある。イタリア生まれのオスカー・ギリア(1938年生まれ)は、パリ国際ギター・コンクールに優勝し、セゴビアの助教授に選ばれた、こまやかなニュアンスに富んだ演奏が持ち味だ。(LPC)
バッハ:ハープのための組曲BWV1006a(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番による)
ヘンデル:主題と変奏ト短調
コレルリ:ソナタニ短調
シュポーア:ハープのための変奏曲
フォーレ:塔の内の王妃
アルベニス:ソナタニ長調
:マラゲーニア(組曲「エスパニア」から)
ハープ:ニカノール・サバレタ
録音:1963年10月28~29日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール
LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5199
ニカノール・サバレタ(1907年―1993年)は、スペイン出身の偉大なハーピスト。当時は、ハープといえば”サバレタの前にサバレタなし、サバレタの後にサバレタなし”といった感じで、絶大な人気を誇っていた。自分で考案した8つのペダルを持つハープを用いての鮮やかな演奏は、当時の聴衆を完全に魅了したようだが、このことはこのLPレコードでもはっきりと聴き取ることができる。例えば、第1曲目のバッハ:ハープのための組曲BWV1006aを聴いてみると、原曲のヴァイオリンのための作品とは雰囲気がらりと変わり、ハープ特有の柔らかさが前面に打ち出され、新しい曲を聴いているような気分にさせられる。サバレタは、ミヨー、クシェネック、タイユフェール、ヴィラ=ロボスなど著名な作曲家から数多くの作品を献呈されているほか、自ら作曲や編曲を行った。さらに、埋もれていた作品の発掘も熱心に行い、この結果、サバレタは当時、ハープのレパートリーを広げることでも大いに貢献したのだ。このLPレコードでは、サバレタの豊かなその音楽性を存分に味わうことができる。サバレタのハープの奏でる、あたかも天国で弾いているようなその音色を一度でも聴いたら、二度と忘れられなくなる。それほど、サバレタのハープ演奏は、曲の核心をしっかりと掴み、その曲が持つ豊かな音楽の世界をリスナーに存分に伝えてくれる。ハープは、朝聴いても、昼聴いても、さらに夜聴いても、その時々の別な表情を見せてくれる、地味な存在ながら他に変えがたい愛すべき楽器ではある、と思う。ニカノール・サバレタは、スペイン北部のバスク地方のサン・セヴァスティアンで生まれた。マドリード音楽院で学んだ後、パリ音楽院に進む。1925年にパリのサル・エラールでデビューを果たし、たちまちのうちに評判となる。そして、ヨーロッパ各地でリサイタルおよびオーケストラとの共演を行う。1934年からはアメリカを中心とした演奏活動を展開して人気を集める。第二次世界大戦後は、ヨーロッパを中心として世界中で演奏活動を行い、“世界最高のハープ奏者”としてその名が世界に知られるようになる。フランスの伝統的で華麗な奏法を身に着けた上で、自ら考案した8つのペダルを持つハープを駆使して、鮮やかなテクニックと多彩な表現で聴衆を魅了した。スペインに居を定め、欧州各地に演奏旅行に出かけ、1959年から1962年までシエナのキジアーナ音楽院でハープ科を担当した。また、自ら作曲を行ったほかに、編曲や当時埋もれていた作品の発掘にも熱心に取り組んだ。(LPC)
シュトックハウゼン:「コンタクテ」~エレクトロニック・サウンドと打楽器のための~
「ルフラン」~三人の楽器奏者のための~
ピアノ/打楽器/木鐘 :アロイス・コンタルスキー
打楽器/ヴァイヴ/カウベル :クリストフ・ジーベン
チェレスタ/監修 :カールハインツ・シュトックハウゼン
LP:ワーナー・パイオニア H‐4403V
これは、現代音楽の旗手の一人であったカールハインツ・シュトックハウゼン(1928年-2007年)の2つの作品「コンタクテ」「ルフラン」を、演奏を含めて、シュトックハウゼン自身の監修で収録したLPレコードである。カールハインツ・シュトックハウゼンは、ドイツ出身の現代音楽作曲家。ケルン音楽大学で学んだ後、1952年にはフランスに移り、パリ国立高等音楽院に入学。この時、世界で初めての電子音楽を作曲。第二次世界大戦後の前衛音楽の時代において、ピエール・ブーレーズ、ルイジ・ノーノらと共に、12音技法から発展した音楽である「ミュージック・セリエル」の主導的な役割を担った。1977年から2003年まで、7つのオペラから構成される長大な連作「光(LICHT)」の創作に携わり、最終作である「日曜日」の第3場面「光‐絵」が、2005年の来日の際に、東京の夏音楽祭で演奏されたこともある。一方、1998年からは毎年キュルテンで「シュトックハウゼン講習会」を開催し、後進の指導にも取り組んでいた。シュトックハウゼンは、第2次世界大戦後、急速に勃興した現代音楽のリーダーの一人であり、当時その名は、広く浸透していた。今回、シュトックハウゼン:コンタクテとルフランを改めて聴いてみて、その作品の新鮮な感覚に引き付けられた。シュトックハウゼンは電子音楽の祖であり、この2つの作品も、電子音楽あるいはミュージック・コンクレート (1940年代の後半にフランスでピエール・シェフェールによって作られた現代音楽のひとつのジャンルで、音響・録音技術を使った電子音楽の一種)的雰囲気を持ったの作品である。シュトックハウゼンの作品は、どこで始まろうが、どこで終わろうか、関係ないような音楽だ。何かの思想が込められているわけでもない。どちらかと言えば絵画のような曲だ。絵画は、部屋の中にずっとあり、始めも終わりもない。それでいてある存在感があるのだ。シュトックハウゼンのこの2曲の作品を聴いていると、深い森の奥で自然が発する音の調和を聴いているようにも聴こえるし、あるいは宇宙の果てに行って、そこで奏でられる自然が発する音を聴いているようでもある。あるいはまた、戦争の惨禍の余韻が漂う、無人となった戦場に一人佇んでいるようでもある。要するに、その作品から受ける印象は、リスナー一人一人で全く違うと考えた方が、多分正解なのだろう。シュトックハウゼン:コンタクテとルフランは、これからの時代の中で、一層光り輝く何かを包含しているように思えてならない。今、再評価されるべき作品であると考えるが、どうであろうか。(LPC)