★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇創設者フリーダー・ベルニウス指揮シュトゥットガルト室内合唱団のシューマン:合唱曲集

2024-06-10 09:47:13 | 合唱曲


シューマン:合唱曲「ロマンス」第1集 作品69                          

            ①タンブリーンを打ち鳴らす女
            ②森の乙女             
            ③修道女             
            ④兵士の花嫁             
            ⑤海の精             
            ⑥聖堂

       合唱曲「ロマンス」第2集 作品91                
            ①ローズマリーの花             
            ②陽気な狩人             
            ③水の精             
            ④見捨てられた乙女             
            ⑤布を漂す女の夜の歌             
            ⑥海の中に

       3声の女声のための3つの歌 作品114
            ①挽歌             
            ②トリオレット(三行詩)
            ③箴言詩

        合唱曲「ロマンスとバラード」第3集 作品145

             ①鍛冶屋             
             ②尼僧             
             ③歌手             
             ④ジョン・アンダースン
             ⑤鷲鳥の番をする少年のロマンス  

指揮:フリーダー・ベルニウス

合唱:シュトゥットガルト室内合唱団

ピアノ:ハルトムート・ヘル
ソプラノ:クリスツィーナ・ラキ
フルート:コンラート・ヒルツェル
ホルン:ヨハネス・リツコフスキー

LP:東芝EMI EAC‐40146

 シューマンは、1847年から幾つかの合唱団の指揮を手掛け始めるが、そうした指揮者としての実用的意味合いと、合唱団から受けた刺激が基になり、幾つかの合唱曲を書き遺している。このLPレコードでは、これらの作品が収められている。シューマンの合唱曲は、元来は重唱用の曲であるが、現在では合唱として歌われることも多く、このLPレコードにもそのような例がある(菅野浩和氏のライナーノート。以下曲の概要は同氏による)。「ロマンス」第1集op.69は、6曲からなる女声四重唱ないしは五重唱(あるいは重唱でなく合唱)の曲集で、ピアノは任意と記されている。6曲目の「礼拝堂」では伴奏について、「ピアノ、またはフィスハルモニカ」と記されている。フィスハルモニカはリード・オルガンのような楽器であったが、現在では廃れてしまっていて、その詳細は不明という。「ロマンスとバラード」第4集は、第5集と同様、5曲からなるが、その5曲目にはフルートとホルンが加わっている点が珍しい。3声の女声のための「三つの歌」op.114は、作曲年代が遅く1853年。この曲集では、ピアノが任意でなく、外すことが出来ない。もっとも、1曲目の「挽歌」では、常に声と重ねて使っているが、2、3曲目では、声とは異なったピアノ特有の動きが出て来る。「ロマンス」第2集op.91は、5曲目までは4部合唱でピアノ伴奏が付いているが、省略可能。6曲目の「海の中に」は、最初からピアノは登場せず、合唱は6部。指揮のフリーダー・ベルニウス(1947年生まれ)は、南ドイツのルートヴィヒスハーフェン出身。シュトゥットガルト音楽院とチュービンゲン大学に学び、在学中の1968年にシュトゥットガルト室内合唱団を組織、以来、40年以上にわたって活動を共にし、来日も果たしている。シュトゥットガルト室内合唱団は、指揮者ベルニウスが学生時代に創設した合唱団。メンバーはバロック音楽のスペシャリスト、18~20世紀のオラトリオやオペラを専門とする歌手などで構成されており、プロジェクトに応じて選抜されていく。1970年から2年連続で「ヨーロッパ合唱コンクール」において優勝し、1982年には第1回「ドイツ合唱コンクール」で第1位となった。このLPレコードでの演奏は、清冽なアンサンブルの響きが誠に美しく、神聖な雰囲気も濃厚に漂わせ、シューマンの合唱を心から堪能することができる。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルによるロッシーニ:弦楽のためのソナタ集

2024-06-06 09:40:33 | 管弦楽曲


ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集 第1番/第2番/第3番/第6番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年8月17日~21日、スイス、サンモリッツ、ヴィクトリア・ホール

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) SE 8006

 このLPレコードに収められたロッシーニ:弦楽のためのソナタ集は、1804年、ロッシーニが僅か12歳の時に作曲した弦楽四重奏のための作品である。弦楽四重奏曲といってもヴィオラは使われずに、ヴァイオリン2、チェロ、コントラバスという異例の楽器編成が取られた。何故このような編成となったかは謎であるが、どうも当時、芸術パトロンをしていたアマチュアのコントラバス奏者のために書いたため、というのが事の真相らしい。この弦楽四重奏曲を基に弦楽合奏用に編曲したのが、弦楽のためのソナタ集(第1番~第6番)である。全部で6曲からなるこの曲集は、全てが急・緩・急の3つの楽章からなっている。この曲集の一つでも聴いてみれば分るが、その完成度の高さから、とても12歳の少年が書いた曲とは想像もつかないのである。後年、オペラ・ブッファで名を馳せたロッシーニであるが、室内楽曲は多くはなく、この処女作ともいえる弦楽のためのソナタ集が、ロッシーニを代表する室内楽曲として現在、定着している。つまり、ロッシーニは恐るべき少年であったわけである。このLPレコードで演奏しているのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ベルリン・フィルである。このソナタ集を演奏するのは、通常の弦楽四重奏では、どうもその真価は発揮されないようである。このことを最初に指摘したのは、この曲集を校訂したアルフレド・カセルラという作曲家であり、「弦楽合奏で演奏するのが一番いい」ということを言い出した。以後、現在では、通常、弦楽合奏で演奏されている。このLPレコードは、ベルリン・フィルのメンバーによる弦楽合奏である。ここに収められた4曲の中では第3番が一番有名であるが、他の3曲もそれぞれ魅力的な曲で楽しめる。後年、オペラ・ブッファで名を馳せたロッシーニを彷彿させるように、何とも親しみやすいメロディーが現れては消え、また新しいメロディーが現れるといった塩梅であり、まるでオペラのアリア集でも聴いているかの感覚に捉われる。そんな曲をカラヤンは、比較的スローな曲の運びを見せる。カラヤンの指揮ならば、さぞや疾風怒濤の如く演奏すると思いきや、その逆で、実に細部に目が行き届いた、ゆっくりとしたテンポの演奏だ。このため、否が応でもベルリン・フィルの豊かな弦楽合奏の響きがリスナーの耳に届くことになる。カラヤンの見事な作戦勝ちといったところか。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇バリリ弦楽四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番「ラズモフスキー第2番」/「大フーガ」op.133

2024-06-03 09:44:01 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

     

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第8番「ラズモフスキー第2番」                 「大フーガ」op.133

弦楽四重奏:バリリ弦楽四重奏団

発売:1963年

LP:キングレコード(ウェストミンスター) WXO‐1

 バリリ弦楽四重奏団は、若きウィーン・フィルのコンサートマスターのワルター・バリリ(1921年―2022年)を中心に1945年に結成された。1950年代末に解散するまでの間、ウィーンコンツェルトハウス弦楽四重奏団とともに、当時のウィーンを代表する弦楽四重奏団として活躍した。特に、ベートーヴェン、モーツァルト、シューベルトなどの演奏において定評があった。途中、ヴィオラ奏者とチェロ奏者は交代したが、第1ヴァイオリンのワルター・バリリと第2ヴァイオリンのオットー・シュトラッサー(1901年―1996年)は、解散するまで変更はなかった。その演奏内容は、常に安定しており、しかも、重厚な中にもウィーン情緒が込められたものとなっており、当時、日本の多くのファンの心を掴んでいた。ベートーヴェンは、弦楽四重奏曲を「大フーガ」を含めて全部で17曲を作曲したが、これらの創作期は次の4つに集約される。第1期(1798年~1800年、op.18の6曲)、第2期(1805年~1806年、op.59の3曲)、第3期(1809年~1810年、op.74、95)、第4期(1824年~1826年、op.127、130~133、135)。このLPレコードに収められた弦楽四重奏曲第8番は、第2期の1806年に作曲された曲。第2期は、ベートーヴェンの創作力が爆発的に発揮された時期に当る。3曲はロシア大使のラズモフスキー伯爵の依頼によって作曲されたため、“ラズモフスキー四重奏曲”と呼ばれており、このLPレコードに収録された弦楽四重奏曲第8番は「ラズモフスキー第2番」と名付けられている。この第2番は、他の2曲に比べて規模は比較的小さいものの、それでもこれまでの弦楽四重奏曲のイメージを大きく塗り替えるような豊かな広がりと、室内楽を越えるような力強い表現力が特に印象に残る。第1楽章はソナタ形式、第2楽章はモルト・アダージョ、第3楽章はロシア民謡がフーガ的手法で処理され、第4楽章はプレストで、ロンド・ソナタ形式。そんな曲をバリリ弦楽四重奏団は、深みのあるバネのような強靭さで、しかも、優雅さを少しも損なわずに、とうとうと流れるように演奏して、ベートーヴェンが新たに切り開いた弦楽四重奏曲の世界を描き切って、見事と言うほかない。「大フーガ」も、4人の息がぴたりと合い、豊かな弦の響きと完璧なその演奏技法に、リスナーは思わず引き込まれそうになるほど。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする