★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇名テナー ムンテアヌーのシューマン:歌曲集「ミルテの花」全曲

2024-10-14 09:45:45 | 歌曲(男声)


シューマン:歌曲集「ミルテの花」全曲

          1. きみにささぐ
          2. 自由な心
          3. くるみの木
          4. だれかが
          5. 西東詩編「酌亭の書」から―ただひとりいて
          6. 西東詩編「酌亭の書」から―手あらく置くな
          7. はすの花
          8. お守り
          9. ズライカの歌
          10. ハイランドのやもめ
          11. 花嫁の歌「おかあさま、おかあさま」
          12. 花嫁の歌「あの人の胸に」
          13. ハイランドの人々の別れ
          14. ハイランドの人々のこもり歌
          15. ヘブライの歌から「心は重く」
          16. なぞ
          17. ヴェネチアの歌「静かに船を」
          18. ヴェネチアの歌「広場を風が」
          19. 大尉の妻
          20. 遠く、遠く
          21. ひとり残る涙
          22. だれも
          23. 西の国で
          24. あなたは花のように
          25. 東の国のばら
          26. 終りに

テノール:ペトレ・ムンテアヌー

ピアノ:フランツ・ホレチェック

発売:1978年8月

LP:日本コロムビア OC‐8021‐AW

 シューマンとクララ・ヴィークの結婚式は、1840年9月12日にライプチッヒ郊外のシェーネフェルトの教会で行われた。シューマンは、その前夜、「わが愛する花嫁に」という献呈の文字をミルテの花で飾った一冊の歌曲集をクララの許へと届けていた。これがシューマン:歌曲集「ミルテの花」なのである。何故、ミルテの花かというと、北欧では花嫁のヴェールにミルテの花をつけ、その白い花の香りの高さによって、花嫁の純潔と美とを象徴する習慣があるからである。つまり、この歌曲集「ミルテの花」の1曲、1曲が、クララに対する愛情がこもった内容となっており、シューマンにとっては、長い間の苦悩と忍従を通して、やっと結婚が成就できたという思い出が込められた歌曲集なのである。シューマンは、当初、ピアニストを目指すが、指を痛め断念し、作曲と評論の道へと進む。このことにより、恩師の娘でピアニストのクララへの愛が、ピアノ曲の作曲へと向かわせることになる。しかし、クララの父の反対で結婚への道のりは簡単なものではなかったのだ。そんな中、シューマンは、ハイネ、バイロン、リュッケルト、ゲーテらの詩集から自ら詩を選び、そして作曲し、一つの歌曲集としてまとめ上げた。これが歌曲集「ミルテの花」として結実したのである。シューマンは、文学の素養を充分に持っていたため、詩の選択には誰もが一目を置く存在であった。このことが、ドイツ・ロマン派の味わい深い歌曲を完成させることに繋がったのだ。1840年は、この「ミルテの花」のほか「リーダークライス」「詩人の恋」など全部で180曲もの歌曲を書き続ける。このことから、この年は、後世”シューマンの歌の年”と呼ばれることになる。このLPレコードではテノールのペトレ・ムンテアヌー(1916年―1988年)が歌っている。ペトレ・ムンテアヌは、ルーマニア生まれ。ブカレスト国立歌劇場でデビューした後、ベルリンに留学。その後、イタリアに渡り、1947年にスカラ座にデビュー。ドイツリートでは日本でも熱狂的なファンがいた。このLPレコードでも少々くぐもったような音質が、シューマン独特のロマンの世界を表現することに成功しているといえよう。ドイツ・ロマン派の音楽、特に歌曲においては、詩的で幻想的な個人の内面の世界が、その歌声に込められていなくてはならない。その点から見ると、ムンテアヌーはこの曲集の最適な歌手の一人であったと言うことができる。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

2024-10-10 09:40:12 | 交響曲


ドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9131

 ドヴォルザークは、有名な交響曲第9番「新世界から」を書く4年前に、着手から僅か3カ月で完成させたのが、今回のLPレコードの交響曲第8番「イギリス」である。ドヴォルザークの研究家として名高い評論家のショウレック氏は、その著書「ドヴォルザークの生涯と作品」の中で「この曲は、男性的表現を持ち、直接にボヘミアの自然とチェコの民族から発生したものであるかのように素直に表現されている。彼の生命力と芸術的な円熟のみならず、彼の人格的および国民的特性の円熟を確証する最も典型的な作品である」と高く評価している。全9曲あるドヴォルザークの交響曲の中でも最もスラブ色濃い作品であり、特に第3楽章の哀愁を秘めたメロディーを一度でも聴けば、誰もがこの曲に愛着を持つようになること請け合いだ。全体は、古典的な交響曲の様式を踏襲しながらも、各楽章とも自由な形式によって書かれていることが、人気の秘密なのかもしれない。そして、全体に自然との触れ合いが感じられ、それが詩的な処理がされているため、素直に曲に入っていけるが嬉しい。ところでこの交響曲には「イギリス」という副題が付けられているので、何か英国と関わりの基に作曲されたたかのように感じられるが、実は、この曲の総譜が1892年にロンドンの出版社ノヴェロ社から出版されたから、というのが正解らしい。もしそうだとしたら、これからでも遅くないから、「ボヘミア」とでも副題を変更したらどうであろう。これならこの曲の持つイメージにぴたりと合う副題になると思うのだが・・・。このLPレコードで演奏しているのがヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。ここでのカラヤンの指揮ぶりは、その特徴である一糸乱れぬ端正な構成能力を遺憾なく見せつける。この曲は、古典的な性格に加えて、豊かな自然を思わせる豊饒さを備えた曲であるが、これらがカラヤンの本来持つ特性にうまく溶けあい、数あるこの曲の録音の中でも、名録音の一つに数えられるほどの仕上がりを見せている。そして、何と言ってもウィーン・フィルの伸びやかでピュアな響きがなんとも心地良い。これに加え、LPレコードが本来持つ音質の柔らかさが加味され、あたかも目の前に豊かな自然が浮かび上がって来るような錯覚にすら捉われてしまう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン=ジャック・カントロフ&ジャック・ルヴィエによるドヴュッシー/ラヴェル:ヴァイオリンソナタほか

2024-10-07 09:46:18 | 室内楽曲


ラヴェル:ヴァイオリンソナタ      
     フォーレの名による子守唄
ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ

ピアノ:ジャック・ルヴィエ

発売:1977年

LP:RVC(仏コスタラ出版社) ERX‐2317

 このLPレコードには、フランスの大作曲家のドヴュッシーとラヴェルのヴァイオリンとピアノのために書かれた全ての作品が収められている。意外に少ないと感じられるかもしれないが、2人ともロマン派の作曲家が得意としたヴァイオリンとピアノのための作品を、晩年に至るまで、あまり快くは思ってなかったようである。ところがこのLPレコードに収められた4曲の作品はいずれも優れたもので、特にドヴュッシー:ヴァイオリンソナタは、このLPレコードのライナーノートに「ドヴュッシーが彼の才能の頂点に立っていることを示している。彼の霊感がこれほど灼熱のほとばしりをみせ、これほど豊かな幻想と多様性をみせたことがかつてあったろうか」(ハリー・ハルブレイチ氏)と書かれているとおり、内容の充実した作品に仕上がっている。作曲は第一次世界大戦中の1916年から1917年にかけて行われ、重病をおして最後の力を振り絞り、2年前にスケッチしてあった作品を完成させたものだという。このヴァイオリンソナタは、ドビュッシーの全作品の最期となった作品。ドビュッシーは晩年になり、チェロソナタ、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ、それにこのヴァイオリンソナタの3曲を作曲した。一方、ラヴェル:ヴァイオリンソナタは、1927年のはじめ、4年前の完成に至らなかったヴァイオリン協奏曲を基にして完成させた作品。初演は1927年に、伝説のヴァイオリニストのジョルジュ・エネスコとラヴェル自身のピアノによって行われた。これは、丁度、ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタの10年後に当る。第2楽章のブルースで、ラヴェルは後の2つの協奏曲と同様にジャズの要素を取り入れている。この曲は、ラヴェルの室内楽曲の最後の作品となった。このLPレコードでは、フランス出身のヴァイオリニストで、後に指揮者に転向したジャン=ジャック・カントロフ(1945年生まれ)が演奏している。ピアノはフランス出身のジャック・ルヴィエ(1947年生まれ)で、1970年にジャン=ジャック・カントロフとフィリップ・ミュレとともにピアノ三重奏団を結成している。このLPレコードでの演奏内容は、フランス音楽の精緻さを強く感じさせるもので、まるで宝石箱から溢れ出る光のように、きらびやかであると同時に、どこまでも広がる透明感が何ともいえない優雅な雰囲気を、辺り一面に醸し出す。フランスの室内楽の醍醐味を存分に味わえるLPレコードだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団のベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

2024-10-03 09:38:52 | 交響曲


ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

指揮:ロリン・マゼール

管弦楽:クリーブランド管弦楽団

ヴィオラ:ロバート・ヴァーノン

録音:1977年10月2日

発売:1978年

LP:キングレコード SLA1168

 ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」には、如何にもベルリオーズらしい作曲の経緯がある。ベルリオーズの有名な「幻想交響曲」は、1830年12月に初演されたが、当時大きな話題を集め、その話を聞きつけて「幻想交響曲」を聴き、いたく感激した一人に、超人的技巧で名を馳せていた大ヴァイオリニストのパガニーニがいた。当時パガニーニは、ストラディバリウスのヴィオラの銘器を入手したが、これといったヴィオラ用の協奏曲がなかったため、ベルリオーズに新しいヴィオラ協奏曲の作曲を依頼したのであった。ところが出来上がった第1楽章の楽譜を見て、当初期待していたようなヴィオラが華やかに活躍する協奏曲とはなっておらず、このためパガニーニは作曲の依頼から降りてしまう。そうなると、後はベルリオーズの意図のみで作曲が進められることになる。テーマとしては、バイロンのメランコリックな夢想者の物語を内容とした長篇詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」が取り上げられ、さらにベルリオーズがイタリアに留学中の想い出の地、アブルッチを回想して「イタリアのハロルド」と命名された。曲は1834年に完成し、初演で大成功を収めたという。各楽章には標題が付けられている。第1楽章「山におけるハロルド、憂鬱、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷をうたう巡礼の行進」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナーデ」、第4楽章「山賊の饗宴、前景の追想」。ハロルド役はヴィオラの演奏。固定楽想を奏し、嘆いたり、取り乱したりするが、やがてハロルド自らが求めて山賊の洞窟に踏み入れ、そして、凶暴な山賊によって、昇天するという、如何にもベルリオーズ好みの怪奇的ストーリーとなっている。そんな内容の交響曲「イタリアのハロルド」を、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団は、各楽章に付けられた標題を、リスナーが思い浮かべられるかのように、実に丁寧に、しかも明快に劇的に演奏する。ロバート・ヴァーノンのヴィオラは、ベルリオーズの構想どおりオーケストラと一体化して、決して協奏曲的な表現は取らない。このLPレコードは、ロリン・マゼール(1930年―2014年)がクリーヴランド管弦楽団の音楽監督時代の録音。当時、ロリン・マゼールはまだ47歳であり、如何にも颯爽とした雰囲気の指揮ぶりに加え、既に巨匠の片鱗を覗かせており興味深い。この後の1982年にはウィーン国立歌劇場の総監督に就任し、ロリン・マゼールは世界の頂点に立つことになる。(LPC)

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