☀ 朝日俳壇も食欲の秋 ☀
先週の朝日歌壇は秋の食べ物の歌が多かった。俳壇には見られなかったので私は「歌人は食いしん坊だ」などと書いたが、今週の俳壇は「食べ物の秋」。「鰯雲」という秋の季語が朝日俳壇に頻出し、秋が深まってゆくことを感じさせる。
♦ 長谷川櫂選 大串章選
★★ 難民や空いっぱいの鰯雲 (西東京市) 吉田 悠
長谷川櫂 {評} 手の施しようがないという感じの鰯雲
大串 章 {評} シリア難民の姿を見ると心が痛む。
※ 「鰯雲」は秋の季語である。高いところにできる巻積雲の俗称で小さなかたまりがたくさん集まっている。二人の選者もこの鰯雲を難民に見立てている。鰯雲は鰯が大漁になる兆しともいわれる。しかし難民のあてどなく彷徨うさまにも見えてくるのだ、鰯雲は。
♦ 長谷川櫂選
★ うれしさや今年も家の栗おこは (岐阜市) 阿部恭久
岐阜の栗はほっくりしてオイシイ。もち米と共に炊けばさぞかしだるう。美味しい句である。
♦ 金子兜太選
★ 青森の林檎を青森にて食べた (小平市) 荻原慎一郎
※ 産地でもぎたての林檎を食べればオイシさも格別、きっと真っ赤な林檎だろう。
★ 梨食へばこころの襞の猶も透く (秦野市) 熊坂 淑
※ いま梨の旬である。瑞々しく甘い。食べていると心が溶けてしまいそうになる。
★ 鰯雲まあるい孫の顔笑みて (吹田市) 稲田 うめ代
※ 鰯はカルシュームが豊富だ。孫の健康を願いながら見る鰯雲は明るく元気な雲だ。
10月5日 松井多絵子
歌壇情報 新刊歌集・歌書
✿ 尾崎朗子歌集 『タイガーリリー』 (ながらみ書房・本体2400円)
純情を暴走させることもなくタイガーリリーは胸に人恋ふ
✿ 川野里子 『七十年の孤独 戦後短歌からの問い』(書肆侃侃房・本体1800円)
「文化と言葉の焦土」から現在までを概観し、未来を見出すための何か」を探る論考。
評