✾ 「うたつかい」 より七首 ✾
二日前に 「うたつかい」 という歌誌が送られてきた。私のブログを読んでくださる方からである。2015年秋 第24号。毎月100人以上の投稿者、選歌という制度がないため、投稿した短歌は全て掲載されるらしい。24号のテーマ詠「乗り物」、まず乗ってみる。
♦ 新しい乗り物として魂はたまたま僕を選んだ、のか 飯田和馬
※ 魂という言葉は深刻なので私は詠まない。この1首は軽く詠みながら重い内容である。
♦ 坂道で追い風受けたTシャツは船の帆になり少年になる 岡本真帆
※ Tシャツは白であろう。坂道の追い風が作者を船に乗る少年に、辺りを青海にする。
♦ 二歳には二歳の悪夢、君がまた眠りにつくまでわれは乗り物 金澤和剛
※ 二歳は作者の子供だろう。その子を背負う自分の背中を乗り物に例えている。2歳児でも夢は、時には恐ろしいかもしれない。鋭く、新鮮な表現である。
♦ 風を切り自転車を漕ぐわたくしはいま新しい風を産みます キョースケ
※ 風のなか自転車を漕ぐ作者が風になってゆく、シンプルで気持ちのよい1首である。
♦ 高速のバスに揺れつつうかうかとはじまりそうな行方を思う 香村かな
※ 旅のはじめの期待と不安。バスを空まで走らせてゆくような高速道路は。
♦ 「ものわかりの良い」は褒め言葉だろうか おくれてやってくるバスを待つ 小林ちい
※ 話せばすぐに「わかった」という人はアテにならない。じっくり考えてほしい。
♦ お迎えの馬車は立体駐車場3階Aで待機している 嶋田さくらこ
※ 「お迎えの馬車」はシンデレラ物語など、メルヘンの世界の乗り物である。その馬車が立体駐車場3階Aで待機している。この飛躍が鮮やかだ。作者の島田さくらこはツィツターでお馴染み、つばの広い帽子を斜に被り顔が分からない。「おはら風の盆」の女を思わせる。新鋭短歌シリーズで第一歌集『やさしいぴあの』を刊行している。「うたつかい」の編集長。
昨日買ったカボチャを切ったら私に馬車が来ないような気がして、、、。
10月20日 松井多絵子