えくぼ

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あゝ五月、詠うなら今

2016-05-01 09:27:34 | 歌う

            ~ あゝ五月、詠うなら今だ ~

 今日から5月が始まる、あたりは新緑、そのなかに燃えるように咲いている赤いつつじ。テンションの高まる5月の日々は。今こそ詠もう。ためらわず詠もう恋の歌を。たとえばこんな歌を。穂村弘の 『短歌ください』 から引用してみる。

 ✿ この空を覚えていようと誓った日そのことだけをただ覚えている (ウルル・女・22歳)

 「ダ・ヴィンチ」誌上に投稿されたのは5年前だから今は27歳かウルルさんは。この1首に選者の穂村弘は次のようにコメントしている。

 ~ 「この空を覚えていよう」と誓ったことだけを覚えていて、どんな「空」だったかは忘れてしまった。わかるような気がします。人間ってそんな風に不完全というか穴だらけで。でも、
そこに生きることの秘密があるように思えてなりません。少なくとも詩歌の謎はその穴だらけ感と関わっているようです」。~

 もしウルルさんが「この空を覚えていようと誓った日」の時刻や天候を、彼の表情を、彼女自身の言葉まで詠んだら日記の一部になってしまう。読者は退屈する。ウルルさんはその時の彼を覚えていないのだから、この彼の恋人にはならなかったのだ。空は絶えず変化し人の心も変わりやすい。5月は直に終わる、6月は雨、春はまもなく去ってしまう。

     「ください」と言われ戸惑う私の短歌を貴方が求めるなんて  

                        5月1日  松井多絵子