駅をテーマにした短歌④~待つ~
染野太朗・吉岡太朗「短歌同名誌」に寄せられた駅をテーマにし短歌に「待つ」」を詠まれた歌が多い。駅から生まれる様々なドラマ、ことに「待つ」は情感を込めやすい。
待つには様々な形やサイズがある。私たちは待ちながら生きているのだから。
♦ 私にも乗れる電車があるという 手を振り手を振りうつむいて待つ (千束)
※ 乗れない電車とはふさわしくない相手なのか。相性のいい相手が現れるまで待つ、この電車は生涯を伴にできる相手のことか、同じ目的地へ行く電車のように。
♦ 春の駅のホームできみを待っていて明るいうちに眠たくなるね (嶋田さくらこ)
※ この駅は地下鉄ではなくホームには春の光。そこできみを待つ。信頼できる君なのであろう。下句の「明るいうちに眠たくなるね」から作者ののどかな気分が伝わってくる。
♦ 次を待つ十三分が長くって空が描かれたコーヒーを買う (月丘ナイル)
※ 駅のホームに立ち電車を待つ間の長さ。13分は何とも長い。缶珈琲を飲みながら待つのもいい。青い空を、珈琲の缶に描かれた空を見ながら飲む珈琲はオイシイでしょうね。
♦ 屋根のないホームの端で待ってゐる待ってゐる待ってゐる待ってゐた (本多真弓)
※ 「待ってゐる」が三度繰り返され作者がどれほど待っているかが強調されている。結句は「待ってゐた」。待ちくたびれて屋根のないホームを去った。切ない一首だ。たぶん恋の。
♦ 金沢の駅(うまや)に君を連れてくる<かがやき>という高速を待つ (喜多昭夫)
※ <かがやき>とは列車の名か。或いは高速バスか。作者の大切な君が乗っている。古都・金沢で君を待つ作者。駅ではなく「うまや」で君を待つ、愉しいひととき。
あゝ私も金沢に行きたい。鈍行列車で。 5月27日 松井多絵子