美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

大瀧詠一「指切り」

2019年07月04日 20時22分24秒 | 音楽


このところずっと堅めの文章が続きました。ここで、ちょっとコーヒー・ブレイクを。
大瀧詠一の「指切り」をお聴きください。以下は、本楽曲を聴きながら読んでいただければ幸いです。

Eiichi Ohtaki - 指切り


本楽曲は、1972年11月25日に発売された大滝詠一のソロ・ファーストアルバム『大瀧詠一』の収録曲です。『大瀧詠一Writing & Talking』(白夜書房)から、『大瀧詠一』制作の背景に触れた大瀧自身の言葉を引用します。

(1971年11月20日に発売されたはっぴいえんど通算2作目のスタジオ・アルバムである――引用者補)『風街ろまん』をやってたときに三浦光紀が「大瀧くん、ソロをやらないか」って言ってきてね。で、リーダーの細野(晴臣――引用者補)に「ソロやらないかって話、来たんだけど」って聞いたら「話があるうちにやっといた方がいい」って言ったから、それでやる事にしたんだよね。巷では大瀧がソロの野望をむき出しにして、とか言われたけど(笑)。

今にして思えばベルウッドへのはっぴいえんど引き抜き作戦であったということがわかりますね。そのダシにオレが使われたんだな結局。ファースト・アルバム発表以降見かえりがありませんでしたけどね(笑)。

引用文中の三浦光紀は、はっぴえんどが所属するURCレコードの制作現場に出入りしていた、キング系レコード会社ベルウッド所属の人物です。

次は、本楽曲についての大瀧自身の解説です。引用は、1995年3月24日発売のリマスター版添付のライナー・ノーツから。

これは一番〈はっぴいえんど〉的ではないサウンドとでも言いましょうか、まさに今言われるところの〈ポップス〉作品第一号でした。テーマは(はっぴいえんどの楽曲で、大瀧がヴォーカル担当の――引用者補)「かくれんぼ」と同じ〈恋愛の不毛〉風のものでしたが、サウンド(コード進行)がポップスしていました。(同じテーマは次の松本作品「VELVET MOTEL」(1981年3月21日発売の『A LONG VACATION』収録――引用者注)に引き継がれます)そのサウンドのキーとなったのがフルートと女性コーラスでした。フルートを担当したのは吉田美奈子です。69年ぐらいに細野を通じて知り合いましたが、71年春頃には「五月雨」でベースを担当していた元・ブルース・クリエイションの野地義行と〈PUFF〉というグループを結成し、そこで確かフルート演奏もしていたように記憶しています。エンディングが長いのは、彼女のフルートの演奏を十分に聞かそうという配慮からです。「夢で逢えたら」のエンディングが長いのも彼女の歌を十分に聞いてもらおうという配慮からですヨ)

またここで初登場したのが〈女性コーラス〉です。当時のフォーク・ロック系に女性コーラスが使われると言うことは全くない時代でしたし、当時のバンドは演奏は自給自足ですから特に女性コーラスがセッションで起用されるということは非常に稀でした。(もちろん女性がいるグループは別ですよ)ここで初めてシンガーズ・スリーの〈伊集加代子〉さんと出会います。この後このアルバム、サイダー・シリーズ、ナイアガラの一連もの、80年代のソニー時代から「怪盗ルビー」(1988年小泉今日子の楽曲、作曲は大瀧――引用者注)まで、殆どの大瀧作品に参加することになるのですが、この頃はまだお互いに全くの手探り状態で、これほどの長いツキアイになるとは当時思いもしませんでした。一つ言い切れるのは、彼女達とこのようなサウンドとの組み合わせの第一号はこの曲である、ということだけは確かです。

そしてこの曲は74年に〈ナイアガラ第一号アーティスト〉となったシュガー・ベイブによってカバーされ、デモ・レコーディングやステージでと随分演奏されました。更に90年にはピチカート・ファイヴによってもカバーされ、〈大瀧詠一→山下達郎→田島貴男〉と歌い継がれた歌となりました。

このボーカル・テイクは一番最初にテスト的に歌ったものでしたが、吉野ミキサーが異常に気に入り、冗談ながらも「これを使わないならこの仕事を降りる」とまで言われたのでそれを使うことになりました。まだ歌を掴んでいないあやふやな感じが良かったのだと思います。(もちろん、何度歌ってもこれ以上のことはなかったと思います)

ちなみに、ボーカリストとして名高い吉田美奈子は、このときフルート&ピアノプレイヤーとして公式に初登場したことになります。印象に残る魅力的なフルート演奏ですね。抜群のセンスの良さを感じます。中学時代からの親友Sの一押しアーティストだけのことはあります。Sは、大学生のころから約40年間、山下達郎と吉田美奈子を相当に聴きこんでいます。

また、山下達郎は、とあるラジオ番組で大瀧詠一に向って、「指切り」が大瀧作品のなかで一番好きという旨の発言をしています。『大瀧詠一』を聴くまでは洋楽一辺倒だったが、本アルバムをきっかけに、日本のポップスもきちんと聴くようになったそうです。

パーソネルは、以下の通りです。
作詞:松本隆
作曲&アレンジ:大瀧詠一
ドラムス:松本隆
ベース:細野晴臣
ピアノ&フルート:吉田美奈子
コーラス:シンガーズ“Sexy”スリー
パーカッション:江戸門、宇野、多羅尾

「多羅尾」は大瀧詠一の変名、というのはわかるのですが。「江戸門」と「宇野」がだれなのか、よく分かりません。お分かりの方、教えていただけませんか?


一言だけ、個人的な感想を述べれば、大瀧詠一の肩の力の抜けきった繊細な歌声は、とても魅力的です。

ところで、Wikipediaによれば本楽曲は、アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」を意識して作られた曲だそうですが、ベースまでそのままでは面白くないので、ザ・ステイプル・シンガーズの「リスペクト・ユアセルフ」風にしたとの由。参考までに、当2曲も紹介いたします。

Al Green - Let's Stay Together


The Staple Singers - Respect Yourself
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その11)

2019年07月03日 23時35分38秒 | 経済

世にはびこる「財政=家計」という俗説・俗信

*今日、たまたま参議院選にちなんでの、新聞記者たちが見守るなかでの、党首討論会が開かれているのを目にしたのですが、番組の終わり当たりで、若い女性記者が、安倍首相に向かって金切り声で「次世代にツケを残したままで良いというのですかぁ!」というふうな詰め寄り方をしていました。当人としてはとても良いことを言っているつもりなのでしょうが、救いようのない愚論であることは、当ブログをごらんの方には自明でしょう。世の中のおそらく99%は、こうした愚論に振り回されているのでしょう。それが現実であることを押さえながら、腹をくくって訳し続けることにします。

「財政=家計」論者たちが見逃しているのは、自分自身が発行する通貨を支出することとほかの誰かが発行する通貨を支出することとはおのずから異なる、という一点です。この、財政と家計を同一視するアナロジーを適切に使うために、私たちは、家計によって発行される“通貨”の例を見てみましょう。

クーポンを発行するある両親の物語です。それを受け取った子どもたちは家のこまごまとした仕事をすることになっています。それに加えて“モデルをうまく動かすために”、両親は、子どもたちに一週当たり10クーポンの税金を支払うのを求めることにしましょう。そうすれば、子どもたちは罰を免れるのです。これは、実際の経済活動における課税にとてもよく似ています。クーポンはいまや新しい家計通貨となりました。子どもたちから家事というサービスを購入するためにクーポンを“支出する”両親のことをよく考えてみてください。この新しい家計通貨によって、両親は、連邦政府と同様に、いまや彼自身の通貨の発行者となったのです。自分自身の通貨の発行権を持った家計が、実際のところ、自国通貨の発行権を持った政府ととてもよく似ていることがよく分かりますね。

さあ、この新しい家計通貨がどのように働くのかについていくつか疑問を差しはさんでみることにしましょう。その両親は、子どもたちに家事をさせるためにクーポンを支払う前に、子どもたちからなんとかしてクーポンを得なければならないでしょうか。もちろん、そんな必要はありません!実際、両親は、子どもたちが家事をするよう、そうして、子どもたちから週当たり10クーポンの支払いを集めるために、まずは、子どもたちに支払うことによって支出しなければなりません。子どもたちは、両親に帰すべきクーポンをほかからいったいどうやって手に入れることができるでしょうか。できませんね。

現実経済において、連邦政府は、自分自身のクーポンの発行権を持ったこの家計と同様に、支出するドルを課税か借り入れによって得るには及びません。また、支出できるようにするためにほかのどこかからドルを得るにも及びません。その両親は、彼ら自身のクーポンを印刷しますが、連邦政府は、現代の科学技術によって、支出するドルを印刷する必要がありません。

思い出してください。連邦政府それ自体は、ドルを持っているわけではないし、持っていないわけでもありませんでしたね。それは、ボーリング場が得点をため込む箱を持っていないのと同様のことがらです。ドルに関していえば、わが連邦政府は、得点記録係のようなものです。では、あの両親は、親子クーポンのたとえ話のなかでどれくらいのクーポンを持っているのでしょうか。それは大した問題ではありません。両親は、子どもたちがどれくらいのクーポンを両親に返さなければいけないのか、また、毎月どれくらい稼ぎどれくらい支払っているのかを一枚の紙に記録するだけなのです。連邦政府が支出するとき、その財源はほかのどこかから“もたらされる”わけではありません。それは、アメフトのスタジアムやボーリング場で得点がほかのどこかから“もたらされる”わけではないのと同じです。どうにかして税金を集めたり、借り入れたりすることが、財政支出に役立つ“財源の貯蔵分”を増やすわけではありません。

実際、(市中銀行の口座の数字を増やすことによって)財政支出をしている合衆国財務省の職員は、(市中銀行の口座の数字を減らすことによって)税金を集めている内国歳入庁の職員や、あるいは、(財務証券を発行することによって)“借り入れ”をしている職員の電話番号を把握しているわけではないし、接触があるわけでもありません。もしも、財政支出ができるようにするためには、どれくらい課税し借り入れをするかが重要なのだとしたら、それぞれの所属の職員たちは、少なくともお互いの電話番号くらいは知っているはずですよね。明らかに、彼らのそれぞれの目的の実現のために、そのことは重要ではないのです!

(連邦政府ではなくて)われわれ民間部門の見地に立てば、私たちは、支払いをすることができるようになるために、まずはドルを持つことが必要です。それは、子どもたちが週ごとの支払いをできるようになるために、両親からクーポンをもらわなければならないのと同じです。そうして、州政府や諸都市や民間企業は、みな同じ船に乗っています。それらはみな、支出する前にどうにかしてドルを得ることができるようにならなければなりません。それは、支出することができるようになるのに必要なドルを稼ぐか、借りるか、何かを売るかしなければならないことを意味します。実際、論理のポイントとして、私たちが税金を払うのに必要なドルは、直接的に、もしくは、間接的に、通貨の発端から、政府の支出から(もしくは――後で議論しますが――政府の貸し出しから)もたらされるのです。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その10)

2019年07月02日 16時53分12秒 | 経済

財政=家計 という俗信の根深さ

*少々、私見を差しはさみます。政府の、大手マスコミを通じての、幼保無償化・学費無償化のために消費増税10%は不可避である、という印象操作の試みは現状において半ば以上成功したと言っていいでしょう。しかし、本書を訳せば訳すほど、それがいかに馬鹿げた話なのか、心底分かってまいりました。当ブログをご覧の方々も、同じ思いでいらっしゃることでしょう。なぜ馬鹿げていると言えるのでしょうか。それは、モスラ―が主張しているように、政府が財政支出をするのに、課税によって財源を作る必要などまったくないからです。デフレに傾斜しつつある現状においては特にそうです。増税するかどうかは、財源作りとはまったく関係なくて、ひとえに経済状態が過熱気味かどうかの判断によるのですから。それゆえ私は、かなり暗澹たる気分で、本書の翻訳を進めております。今回は、私がいまぼやいたことと深く関連する事柄が述べられます。

われらがオバマ大統領がたびたび間違った発言をしておりますが、連邦政府が、“お金を使い果たす”ことなど金輪際ありません。そういうものではまったくないのです。連邦政府は、チャイナやほかのどこかからドルを“得ること”に頼っているわけではありません。財政支出とは、政府自身の銀行・FRBに設けられている市中銀行の口座の数字をアップさせることなのです。政府の支出に数字上の上限などまったくありません。政府が支出したいと思ったときはいつでも支出できるのです(これには、社会保障や公的医療保険制度への支出と同様に国債の利払いも含まれます)。自国通貨ドルでのすべての政府の支出がここに含まれます。

だからといって、いくら政府が財政出動をしたとしても、物価が上昇したりしない、つまりインフレになったりしないだろうと言っているわけではありません。

しかし、政府の財政が破綻したり破産したりすることなどない、とは言っております。そんなことがありえないことは自明です。注1)
***
注1)あなたがいま次のような疑問を抱いたことを私は知っていますよ。本書の少し後で、私はその疑問に答えています。しかし、あなたが本書をよどみなく読み進めることができるように、あなたの疑問とそれに対するとりあえずの答えとを掲げておきましょう。

疑問:政府は、支出するためにお金を必要とするから課税するのでないとすると、ではいったいなぜ政府は課税するのだろうか。

答え:連邦政府は、経済学者たちが“購買力”と言う代わりに仰々しく“総需要”と呼ぶものを規制するために課税するのです。要するに、もしも経済が“過熱気味”だったら増税はそれを冷却化するだろうし、“冷え込みすぎ”のときは減税がそれを温める、ということです。税金は、支出のために財源を得るためのものではなくて、私たちが購買力を持ちすぎていてインフレを引き起こしそうなとき、あるいは、購買力が過小で失業や不況を引き起こしそうなとき、その購買力を規制するためのものなのです。

***
*要するに、「税金の本質は、経済状況のスタビライザー(安定化装置)であることに存する」と言っていることになります。とするならば、実質賃金が低下し続けるデフレ不況下で消費税という逆進税を強化するのは、愚かにもほどがあるということになりますね。

ではなぜ、政府のだれも「政府の財政が破綻したり破産したりすることなどない」という主張を一向に受け入れるそぶりさえ見せそうにないのでしょうか。なぜ、議会の下院歳入委員会は、「財源をどうするんだ」と相変わらず気をもんでいるのでしょうか。たぶん彼らは、連邦議会を家計と同一視して、財政支出ができるようにするためには、まずなんとしてもお金を“得”なければならないという俗説を信じているのでしょう。彼らは、政府を家計と同一視してはならないという意見を小耳にはさんだこともあるのでしょうが、一向にその俗説を信じることをやめようとしません。彼らにとっては、理にかなった説得力のあるほかの説明の仕方がまったくないのです。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その9)

2019年07月01日 01時06分07秒 | 経済

FRB

*今回は、国会議員やマスコミによって唱和され続けている「じゃあ、財源はどうするんだ」という愚問に対して、明確な解答が提示されます。
FRB議長バーナンキは、平易な英語で、彼らがお金を配る(すなわち支出したり貸し付けたりする)のは、単に、銀行口座の数字を変えているだけのことである、と私たちに言っているのです。私たちが“財政支出”と呼んでいる、表計算ソフトへのデータの記入は、課税や民間部門からの借り入れをしなければならないようなものではまったくないのです。パソコンのデータは、ほかのどこかからもたらされるものではない。みんな、そのことは分かっているのです!

私たちは、ほかのどこかで、同じようなことを見かけないでしょうか。あなたのアメフトのチームがキックして得点した場合、スコアボードの点数は、そう、7点から10点に変わりますね。その場合、スタジアムはどこで3点を得たのだろうかといぶかしがる人がはたしているでしょうか。いませんね。またあるいは、あなたがボーリング場でピンを5本倒したら、あなたのスコアは、10点から15点になります。その場合、あなたは、ボーリング場はどこで5点を手に入れたのだろうか、などと思い悩んだりしますか。すべてのボーリング場とアメフトのスタジアムは、あなたがあげた得点をあなたが手に入れたことを確認するために銀行の“金庫”に得点の保存をしておくべきだと、あなたは考えますか。もちろん、そうは考えませんね。そうしてもしもボーリング場が、あなたの“フット・フォールト”を見つけて5点分減点するとき、ボーリング場は、そのなくなる5点を補充するしょうか。そんなこと、ありえませんね。

以下のことを、議論の出発点として記憶に留めておいてください。すなわち、

連邦政府は、お金なるものを決して“持っている”わけではないしもしくは“持っていない”わけではない。

ということを。

*おそらくここで、モスラーは「政府には通貨発行権がある、という事実が重要である」と言いたいのでしょう。

それは、アメフトのスタジアムが、尽きてしまう得点の貯蔵庫を“持っている”わけではないしもしくは“持っていない”わけではないのと同じです。ドルについて言えば、連邦政府の代理機関やFRBや財務省を通じて活動しているわれらが連邦政府は、得点記録係なのです(そうしてこの係は、ゲームのルールを作ったりもします!)。

もはやあなたは、先の疑問、すなわち

財源はどうするんだ???!!!

に対して、はっきりと答えられえるのではないでしょうか。
あなたの答えは、こうです。

政府は、FRBに設けられている市中銀行の口座の数字を変えることによって財源を作り出しているのである。
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