私の4作目です
11/22 僕の妹 十条寺春香
僕がもうすぐ5歳になるころ妹が生まれた。
僕はまだ幼くて、産院の病室の母の側にいた。
僕は眠っていた。
なんか部屋が騒がしくてはっきり目は覚めなかったけど
母の死にそうな声が聞こえてきて、
母ちゃん死んじゃうのって僕の上にかがみこんだ誰かに聞いたような気がする。
それからみんないなくなって、僕は立ち上がった。
灯りを追って、声のする部屋に行ってみた。
母は見えなかったけど、幾人のも人がいた。
それから誰かが動いて、ひざが見えた。
裸のすねで、ちょっと背のびしたら足の間が見えた。
オレンジ色だった。
そこから急に頭が出てきて、
誰かが叫けび、それから見えなくなったけど
すぐ大きな声を出している物体が見えた。
僕がそこにいるのを見て、そら、お前の妹だよ
と誰かが言った。
それから母の声がした。
僕がそこにいるのを知った母が僕を呼んだ。
おいで、敬太郎 お前の妹だよ
そして僕は妹を見た。
血だらけに見えた。
僕はこの子、ケガしてるって言った。
みんな笑った。
これからお風呂に入って洗ってくるから。
赤ん坊が産湯に連れて行かれると僕は急に眠くなり
次に目が覚めたときはベッドの中の母の横にいた。
母は赤ん坊に乳を飲ませていた。
僕はなんと僕も飲むと言って母の乳房をつかんだ。
母はそのまま僕にも飲ませてくれた。
僕は赤ん坊が母のおっぱいを飲むのが気にいらなかった。
だから母にそう言った。
母はおっぱいは赤ちゃんのものよ。
あの時は特別に敬太郎にもあげたけど、もう終わりよ。
敬太郎はお兄ちゃんなんだから。
僕は説明しがたい気持ちになって、妹っていうのが嫌いになった。
でも兄ちゃんも姉ちゃんも妹を大歓迎した。
赤ん坊用のベッドの脇で春ちゃん、春ちゃんと呼んでいた。
僕を見ると兄が敬太郎も見る?って僕を抱き上げた。
僕は赤ん坊を見たけど、触りたくなって手を伸ばした。
兄は触りたいんだと僕の手を赤ん坊の顔に近づけた。
僕は手を伸ばし、指を広げて赤ん坊の顔のつかめるところをつかんで
ひっぱった。
赤ん坊が声を出して泣きだした。
兄も姉もびっくりして、僕を引き離した。
ダメ、赤ちゃんにはいい子、いい子するの
と言ったのだ。
たぶん、2人が母にちくった。
母はやさしく、僕と赤ん坊の様子を見ていて、僕が一人で
赤ん坊に接近しないようにしていた。
母は末っ子の下が生まれたときの嫉妬感情を理解していた。
僕は末っ子だった。末っ子のはずだった。
少なくとも春香が生まれてくるまでの5年間は末っ子だった。
だからすごく甘やかされた。
母に次の子ができて家族のみんな驚いたくらいだった。
母は春香が眠っているとき、僕をひざの上において前みたいにしてくれた。
だけど、赤ん坊が泣いたりすると、僕をおろし、僕がもっとと言うと
お兄ちゃんでしょ、今さっちゃんが泣いているの。
と信じがたいほど冷たくなった。
春香なんかいなくなればいいのに
と、僕は思っていたけど、僕の安全のために声には出さなかった。
家族のみんな、春香が好きだったから。
春香が床の絨毯の上でハイハイをし、まもなく立って伝い歩きを始めた。
誰もいないことを確かめて、春香がつかまっている椅子をちょっと引いてみた。
春香はすぐ前につんのめった。
泣く? 僕は身構えた。
春香は泣きそうになって僕を見た。
僕は怖い顔をして口に指を当てシーっとやった。
幸子は泣きそうなのを懸命にこらえていた。
それからへつらうような笑うみたい顔をした。
それから僕は春香の横に行って、春香のほっぺたをつねってみた。
そんなにきつくなく。
それから少しづつ指に力を入れてみた。
春香が泣き声をだしそうになると指をゆるめ、シーと言った。
それから指を他の場所においてつねった。
泣きそうになるとゆるめてシー。
そうしたらまた笑うような顔を見せた。
今考えると、あれは僕にへつらった?
いじめられないように僕をなだめた?
人の気配を感じると僕はさっと隠れた。
人のいるときは春香に近づかなかった。
春香はまだカタコトしか言えないからチクる心配はなかった。
ある日、春香が風呂だった。
母が入れていたけど、兄も姉もいた。
春香の裸を見たのは初めてだった。
春香も僕を見た。
あ、ああと言いながら僕を指さそうとした。
僕は兄の後ろにいたから母には見えなかった、と思う。
僕はその場を去った。
僕は春香が足を広げて湯の中に横たわっている姿を忘れられなかった。
春香が幼かったかったから家が留守になることはなかった。
だから春香と2人だけになりたいという僕の願望が果たされることはなかった。
それは僕が年中組から帰った日だった。
兄も姉も学校で、母は見当たらなかった。
春香は赤ん坊用のベッドで眠っていた。
僕は手を洗って冷蔵庫から牛乳を出すと、僕のコップに注いで
それから戸棚からビスケットの箱を出した。
ビスケットを食べながら母を探した。
どこにもいない。
僕はビスケットの粉を手から払い、春香のベッドに行った。
僕は春香の薄い毛布をはがし、春香の着ているもののボタンを外した。
春香のおしめは複雑で外すのは難しかった。
だから僕はおしめの上のほうから手を刺しこんでみた。
春香の体は湿っていた。
奥に奥に手を入れて、足の間に届いた。
春香が目を開けた。
僕を見て、泣きそうになった。
僕は春香に口でシーと言った。
それからおしめの中に突っ込んだ手で春香の足の間をさぐってみた。
ぐにゃぐにゃだった。
その中に手を入れた。
春香がまた声を出したけど、泣き声ではなかった。
僕は春香を見ながらそこで手を動かした。
どのくらいかして僕は手を抜き、ボタンをかけ、毛布をかぶした。
それから洗面所に行って手を洗った。
そういうチャンスはめったになかった。
春香が歩きだして部屋ばきを履くようになったころだから2歳くらい?
夏だった。
僕は夏休みを持て余していた。
居間のテレビの前のソファでエアコンの風と、扇風機の風を僕に集中させていたとき
春香がフラフラ来た。
春香はジュースのペットボトルを持っていた。
開けてと言った。
僕はキャップを開けてやってから、春香をソファに座らせた。
それから春香の紙のパンツ(まだおしめパンツだったのだ)の中に手を入れた。
足の間に手を入れて中をさわりまくった。
春香は何も言わない。
春香がジュースのボトルを落とした。
それは春香のパンツの上に落ちた。
僕は慌てて、手を抜くとそのボトルをつかんだ。
幸いこぼれたのはわずかだった。
春香、と僕が言うと春香はぐったりしてソファの背によりかかっていた。
玄関で音がした。
僕は台所に急いで行って、牛乳の箱を持ったまま玄関に行った。
敬ちゃん、それは母だった。
箱ごと飲んじゃ駄目よと言われた。
僕は牛乳が大好きで1リットル入りのパックからよく牛乳を直飲みして
兄や姉から文句を言われた。
母は寝ている春香を見つけて、抱き上げて子供用のベッドに寝かせた。
母は春香の寝ている間にと隣の家に行っていたと僕に言った。
ネー、どこか行こうよ、退屈だよと僕は母にせがんだ。
母はそうね、と言ってちょっと考えていたけど
おじいちゃんの家に行こうかと言った。
今夜お父ちゃんに相談するねと僕に言った。
兄と姉が戻ってきてから僕は母の言ったことを話した。
僕たちおじいちゃんちに行くんだよ。
兄も姉もどこのおじいちゃんと僕に聞いた。
僕が知らないと答えると母に聞きに行った。
まだ決まっていないわよって母の声が聞こえた。
おじいちゃんの家は母ちゃんのお父さんが生まれ育った家よ。
長野県の信州よ。
母の父という人は母が結婚する前に亡くなった。
酒もタバコもやらないのに脳溢血でなくなったそうなんだ。
それが節制なのか好みだったのか僕は知らない。
うちでは誰も酒もタバコもやらなかった。
でも、僕は隠れて酒もタバコもやった。
どちらも若いときの数年だったけれど。
母は3人兄弟の真ん中で長女だったけど、兄も弟も事故死で実家の後継だった。
父が帰宅した。
夕食が始まって、僕たちはおじいちゃんちに行くんだよと切り出した。
父が母を見た。
だって夏休みじゃない。
お金をかけずに行けるところなんかないわ。
いつ行くつもり?
お盆の前後はどうかしら?
僕はこの夏は長い休みはとれないから決まったらおしえてと母にいい、
父は早々に夕食を終え、部屋に行ってしまった。
父は母の祖父を持て余していた。
と言ってもずっと後に父から聞いたのだけど。
昔の人なんだ 父は言っていた。
翌日母は祖父に電話していた。
そして子供たちが全員そろうとおじいちゃんと話したわ。
来てもいいって。
母は祖父を大事にしていた。
父が亡くなり、後継だった孫の母の兄も亡くなり、あげくに大学の山岳部だった弟まで
亡くなってしまった。
祖父がどんなに落胆したか母は見ていた。
祖母と母の母、福子と彼女自身、女ばかり。
彼女たちは祖父をそっと殿様のように扱って言葉少なく慰めた。
祖父は武家出身だったけれど、優しい人だった。
女たちの思いやりを感謝し、この際後継のことなんか忘れよう
もうそんな時代じゃないんだ。
と、心の中では繰り返し自身を説得してはいた。
祖父の家に着くと大きな家に子供たちは驚いた。
昼間だと言うのに家の中は暗かった。
祖父は男2人、女二人のひ孫に目を細めて喜んだ。
男だ、ひ孫だし、後継ぎになる とまず思った。
久しぶりに娘が戻ってきて福子は嬉しかった。
直樹さんは後から来るの?
母は休みが取れればねとあいまいに言った。
子供たちと母は大きな部屋に通された。
ここを使ってちょうだい。
母は子供たちに荷物を置かせると
こちらにと他の部屋に連れて行った。
家具のない部屋だった。
この家の仏間よ、と子供たちは仏壇の前に正座させられた。
そして順に線香をともし、母を真似して手を合わせた。
夕食はまた別の部屋で長いテーブルだった。
おじいちゃんは近所の人にも手伝ってもらい子供が喜びそうな食事を
準備したのだ。
母はおじいちゃんの側に座り、なつかしそうにおじいちゃんと話していた。
おじいちゃんは普段は飲まないのだけど、その晩はとっくり1本ほどを飲んだ。
子供たちが食事をしなかったらどしようと母は思ったそうだ。
でもどの子も春香まですごい食欲で食事をした。
その食欲は祖父母を喜ばせた。
食事の終わりごろにおじいちゃんはひ孫たちに言った。
お前たちはこの家の後継なんだ。
この家はお前たちの家になるんだからね。
と、始めたのだ。
母はチラっと母福子の顔を見た。
福子はひ孫に生き生きと声をかけている父(義理の)に
安堵の笑い顔だ。
もっと頻繁に来てちょうだいと祖母は娘・母信子にささやいた。
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