大遠足
穴を掘っている男がいた。
ところが 大きな岩に突き当たったので
それ以上掘り下げることができなくなった。
やむなく男は 岩にそって横に掘っていった。
それを見ていた者が
「 なんだ 穴を掘るといいながら 溝を掘っているじゃないか 」
と冷やかした。
しかし 穴掘り男は そんなひやかしには耳もかさず掘りつづけた。
この男にとっては 第三者が 「 穴だ 溝だ 」 と騒いでいるのは
・・・ なんの意味も持たなかったのです。
ただ 土があり シャベルがあり 岩があり ・・・
それすらもなくなって
・・・ 一心不乱に掘っている自分があっただけなのです。
この精いっぱいの境地
吸う息吐く息以外のなにものもない世界 ・・・
そんな人生こそ もっとも確かなものだ
・・・ とは言えないでしょうか。