走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

社会的理解

2015年02月25日 | 仕事
田代まさしとAskaの経緯を読んでみた。

社会的理解とサポートがなくかわいそうな二人だと思った。日本にはまだまだ「本人がその気になれば止められるはず」と言う「弱い本人の意思のせい」に問題をすり替えているような印象を受けた。薬物依存の根本はそんなにシンプルなものなのでしょうか?

一度クリーンになった人が再び薬物依存に戻ってしまう可能性は統計にもよるが50ー80%と言われている。かなり高いと思いますか?喘息、糖尿病、高血圧がコントロール以内からコントロール外になる再発率に比べて10%くらい高いぐらいだ。

先日行った研修の参加者で数人に元薬物依存者がいた。そういう人たちには必ずと言って愛する家族がいる。安定した収入がある。社会的ストレスが低いという状況だ。薬物依存に戻ってしまう最大の原因はストレスだ。しかし人間生きている限り何らかのストレス因子に出会うものだ。ストレスフリーの人生なんてありえない。その時に強い衝動に駆られると聞く。薬による快感、何もかも忘れてリラックスできる。昔体験したその感覚が強く襲ってくると。犬を連れて散歩に出かけたり、家族に囲まれてその笑顔を見ていれば気が紛れ衝動が薄くなっていくとか。こういうことが出来るのは大きなストレス因子がない人だ。薬物依存になった為に家族を、職を、家をそして友人を失う人が殆どだ。自業自得といえばそれまでだ。リカバリープログラムを終えて社会に復帰しても過去は取り戻せない。「後悔」それ自体がストレスとなる。大きなストレス因子を抱えている人にとって小さなストレス因子がまるでエベレスト登頂にも似た大きなチャレンジとなる。そんな時昔の仲間に薬物を勧められれば、、薬へのアクセスがあれば、再使用は簡単だ。

ポストアキュート退薬症状というものがある。急性期の退薬症状ではなく薬をやめて6ヶ月後から2年後ぐらいまで起こる鬱っぽい症状だ。眠れない、倦怠感、やる気が起こらない、気分が落ち込む、集中できない、食欲を失う、、、
研修の参加者の一人がこう言った 「長年の友達を失くしたことと同じで喪失感に襲われるには当然だ」と。ピンときた。緩和ケアのグリーフと同じだ。薬だとて人生を共にしてきた日々、友人を失う感覚に似ている。この時期に薬物依存に戻ってしまう人も多い。こういう事をしっかり認識してもらい周囲がサポートしていくことは非常に大切だ。

薬物依存を正確に理解しサポートすることが出来る社会が無ければ、薬物依存に苦しむ人の増加は避けられない。薬物依存からの回復の可能性も低くなる。

DRUG後進国と呼ばれる日本だが備えあれば憂いなし。じわじわ押し寄せる薬物依存に前向きになって欲しいと思う。



キャニオンランド国立公園
ニードル地区
ピクトグラムをもう一枚。どんな意味が込められているのかな?

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