走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

貫禄がつくと

2018年01月09日 | 仕事
この患者さんのプライマリーケアをして何年ですか?と学生が聞く。

彼は私より若いが癌で余命はおそらく6ヶ月以下。癌と診断されてから一般的な治療を拒みメキシコで民間治療を受けていた。状態が悪化して治療が続けられずカナダへ帰国。緩和ケア目的の放射線療法も途中でやめてしまい、彼の気持ちはやはりメキシコでの治療。

今週は緩和ケアチームと家族カンファレンスの予定。今後の事を話し合い治療を一貫させるために。

診察中に私が言った一言。
末期の癌になると誰も死ぬことばかり話す。いつなのかどう死ぬのかと。でも私は今をいきている今に焦点を当てたい。どう生きるのか、何をしたいのか、この今をどう充実させるのか、そう言うことと。

彼とその彼女は雷に打たれたような表情をする。今を生きる、、、、。
彼が私に質問する。メキシコでの治療をどう思うのか?と。

どう生きたいのかはあなた本人が決めること。私の個人的な意見で、もし私があなたなら、メキシコには行かない。費用はかかるし、今の状態で国外へ飛行機で行くのなら航空会社から色々な書類にサインを求められるし(彼は沢山の医療機器をつけているし携帯しなければならない)入国審査も難しい(痛み止めの麻薬はかなりの高容量)。それに民間治療があなたの癌にどんな有効性があるのか証拠は?可能性は?効くかもしれない、と言う少ない可能性にかけるにはあまりに代償が大きすぎる(時間、コスト、体力の消費など)だから私ならカナダで最高の治療を受けることに専念して好きな人との毎日を大切にする、と話した。

彼は真剣に聞いていた。頷いていた。

そんな私たちの会話を聞いて学生は私と彼は長い関係があるのだろうと思ったと。いえいえ、診察は2度目。彼が私の患者になったのは先月。人間関係を築くのに時間があればそれはそれで良い事。しかしこう言う仕事では一瞬で信頼されるようなまっすぐな態度で患者と向き合う事で時間をかけなくても関係が築けるのだ。

向き合うことは真実を突きつけて傷つける事ではない。オープンな姿勢で不安も怒りも受け取れるようなそんな姿勢だ。こう言う所に年の功が現れるんですかね?



先週の写真。山の中腹にあるロッジの窓から。お家の窓からこんな山が見れたら良いのに。

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