走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

追いかけっこ

2014年09月07日 | 仕事
ジェシカと出会ったのは2ヶ月前。教会ではボランティアの方々がフリー朝食をサーブしていた。ホームレスアウトリーチにジェシカを診てくれと頼まれた。
その日は会話を交わしてだけで、診察もなく彼女は去って行った。その後も何度か見かけたが「私は大丈夫。何の問題もないの」と近づいても席を立たれる状態。

今度はメンタルヘルスセンターから頼まれる。公園で寝泊まりするジェシカが奇声をあげて警察沙汰になることが多いとか。
診てくれと頼まれても本人にその気がなければ、私の出番はない。

最近になってジェシカは妊娠していると噂が流れる。
確かに彼女のお腹は大きい。
こうなると私も積極的にならなければ。なんたってホームレスと薬物依存、身体を売って薬物を購入している彼女だから、もし妊娠しているならハイリスク妊娠となるから。それに本人はともかく(自分の意思で今の生活スタイルを選択)生まれてくる赤ちゃんは守らなければ。

シェルターも使用しない彼女をみつけるのは難しい。特に最近、警察の取り締まりが厳しく、ブッシュテントと呼ばれるスクワットが次々閉鎖されホームレスの人たちは新しい隠れ場を探しに移動中。街中を走り回った。偶然にも公園の芝生の上で昼寝中のジェシカを発見。

とてもメローでで危険性がなさそうなので横に座って話しかける。赤ちゃんが動いているのを感じる。父親は誰かわからない。今の彼は子供には関わりたくないという。以前出産した子は男の子だったから、今回は女の子。女の子が欲しかったのよー。妊娠五ヶ月ぐらいじゃないのかなー。とニコニコしながら話す彼女。街に主治医ががいる彼女。しかしここ半年ぐらい診てもらってないからと。いくら彼女が妊娠していると口にしても診察なしでは妊娠の確証はできない。

駐車場は遠く診察用具は何も持っていないし、プライバシーもない公園で診察するわけにはいかない。自分の診療所か主治医のところで診察を受けるように伝えた。
しかし彼女は来なかった。そうすると今度はMCFD(子供や家族の虐待予防、子供の保護などをする政府の組織) のソーシャルワーカーから電話をもらう。診察したのかと。

ウエルフェアのチェックをもらうところで疑われMCFDが動いたよう。

また街中を探すかと思っていたところ、ジェシカが自己注射の部位から感染して蜂窩織炎ぽくERにいった情報をゲット。こんな絶好のチャンスはないと出かけた。忙しいER医師をひっ捕まえ事情を話す。妊娠の確認が必要と。
で、エコー結果は妊娠中。それだけ。胎児の発育状況から妊娠期間も判定せず (ジェシカは最後の生理日もサイクル日数も覚えていない) 退院。妊娠に関しては主治医がフォローアップをするようにと。

だー、同じ医療者同士だから細かく言わなくても出産に必要な血液検査と胎児の発育状況を調べるかと思いきや、、、、、蜂窩織炎の治療と単純エコーだけ。
う、う、もっと具体的に何と何を調べて欲しいとはっきり言えばよかった。妊娠ケアに積極的でないことが問題なのに、分かってもらえなかった。このまたとないチャンス中に全部調べてほしかった。

もちろん、その翌週も彼女は診療所に現れることもなかった。来週主治医のところに電話をかけなければ。そこにも行っていなければまた町中を探し回るか、、、、

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