シリーズはどんどん長くなるので忘れないように各回のサマリーを書いておきましょう。
1日目 真の患者中心のケアとは心がけているでは不十分
2日目 医療職は全知全能でも神でもない
3日目 人間は誰しも主体性を持っている
4日目 患者の理解力を高める因子1-患者家族がリラックスできる環境づくり
5日目 患者の理解力を高める因子2-ヒエラルキーを避ける努力
私のクリニックに一室だけ患者は椅子に座り、医師やNPはスタンドのブースでコンピューターへ入力する部屋があります。私の殆どの患者がこの部屋に耐えきれません。目線が違うだけでも威嚇されている錯覚に陥るからです。同じ患者でも目線が同じ部屋では、同様の反応ば起こりません。文献で読んだことのある内容が実際の臨床で自分の経験と一致する。凄いと思いました。
私の患者層のほとんどは社会の底辺でなんとか生き延びている人たちで、社会で蔑まれ、忌み嫌われた方々です。しかし元々は私と同じように生まれてきた人たちです。彼らは私の立ち位置、表情、ジェスチャー、言葉遣い、全てに敏感な人たちです。身体的な立ち位置は昨日書いたヒエラルキー環境も作り出します。他には何を刺激すると思いますか?
過去の暴力や性暴力やいじめを受けた経験を蘇えらせます。
逆らえない圧倒的な力による制圧。それが暴力です。小児から若年層起こる性暴力は権力関係の図式から生まれる場合が殆ど。親や教師やコーチなど権力関係にある大人が子供へ。集団レイプは同い年であっても圧倒的な数で襲い掛かります。暴力も同様です。
このような経験を持っている方にとって、権威を持つ医療者と接することは容易ではありません。医療者側にその意図がなくても立ち位置、口調、表情、などでトラウマが蘇ります。蘇らなくても、シャットダウンする人もいます。普通の表情をしていても思考過程が停止する人もいます。
トラウマ経験のある人がどの人かわかれば簡単だと思います。でも実際はそうではありません。過去として心の奥底に沈めて忘れようとしている人は大変多くいます。レポートシステムや救済システムが整っている北米でも報告率は大変低いと言われています。システムの整っていない日本はその数が更に多くなるのではないでしょうか?
北米ではTrauma Informed Practiceと言うアプローチに取り組んで久しい。だって、いつどこで医療者側が無意識のうちに患者を傷つけているかわかりませんから。ならば一挙一動をただそうではないか?!そのような潮流です。国をあげて取り組んでいるものです。その理由はこのシリーズの最後に書きます。こちらはBC州のサイト。
一つだけ釘をさしておきます。患者層の特徴的なことを昨日と今日で書いています。これは背景を理解することで医療者の言動を考え直すためで、レッテルを貼るためのものではないことを忘れないでください。私たち医療者は人間相手の仕事で、3日目に書いたような牛の仕分け作業をしているわけではありませんから。そして2日目に書いたように、患者になったからと言って全てを喋らなければならない規則などどこにもなく、医療者側もその人の情報を一部知ったぐらいで、その人の全てを知ったような言い方や態度を取るべきではありません。忘れないでください。
続く
冒頭写真: ここも夏に行ったことがあるところ。左下の方に写っているのがHoodoo. 以前はエンリギみたいな笠があったのですが雨風でなくなっていました。