走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

自由の権利 最終回

2015年09月26日 | 仕事
オーナーも、警官も私もパディが自主的に病院へ行くように交渉した。しかし彼女は私達全員が彼女の敵で、彼女を陥れようとしている考えから離れられない。

聞く気はないと言ったが、ローカルのリソースや連絡先を伝えて退却することになった。もちろんオーナーからは強制退去を行う旨をしっかりと伝えられた (理解したかどうかは不明)。

非常に残念だった。トータル2時間半も費やして結果は何も変わらなかった。

折しも数日前に高齢のホームレスが路上で突然死した余韻も残っている日だった。

彼も精神病があり助けを頑なに拒んでいた。診察も受けず、ホームレスアウトリーチのアプローチも何度も断った。頑固者、非協力的、、、しかし精神病という立ち位置はどうなるのだろう。

治療選択の自由はそれぞれの効果、副作用、成り行き全てを理解してから選択をする。もちろんその選択が間接的に身体に危険をもたらそうと、それは個人の自由に基づく。英語では

We have the right to live at risk.

と言う。スカイダイブ、エベレスト登頂、カーレーシングなどのアクティビティから身体に害があると知っていても薬物を使用する。コンドームなしでの複数者との性行為が性病にかかる可能性をあげると知っていながらその行為を続ける。抗がん剤の治療を拒否する、などが例だ。周りがとやかく言う権利はない。個人の自由なのだ。

しかし精神病や痴呆で理解力がない場合は?そういうテストをして意思決定能力がないと決まれば簡単にになる。しかしそれに協力しない状態の人はどうなるんだ?!先日亡くなったホームレスの男性もパディもこれに当てはまる。

今の私の立場からは歯がゆい法律だ。しかし奪われる患者側はどうだろう。意思決定能力がないと判断すれば自由の権利を奪うことになる。大変大きい事なのだ。白黒付けれないグレーな領域の人を精神病があるから、痴呆があるからと判定なしに権利を奪うわけにはいかない。基本的人権:自由を奪われる世界が存在してはならないのだ。

頭ではわかっている。しかし数日後には強制退去(そういう仕事をするプロがやってきて、荷物と本人を追い出し、その場で鍵を作り変える)されパディは正式に71才のホームレスになるのだ。代償が大きすぎる。それを思うと心が痛む。実際、ホームレスの中で精神病の疾病率は非常に高い。パディは一人ではない。

パディが治療を受ければパラノイアが無くなり、退去の理由になった事象は起こらないと思う。アパートに住む事ができるのだ。選択の成り行きが雲泥の差だ。それなのに本人の意思以外では病院へ連れて行く事はできない。悔しいとさえ感じてしまう。


オーナーと相談して退去日は私とデニーが来れる日に決まった。パディにとって最悪の日になるが、少なくとも私達からサポートが受けられるので、、、、彼女が望めばの話ですが。

シリーズ終わり。





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