魔法使い

患者の一人に、「魔法使いなの？」と言われた。

なんでも以前の医師はできなかったことを私はしている、と。

？？？？

彼は不安症に学生の時から悩まされてきた。会社の社長となってもそれは変わらない。変わらないどころかひどくなる一方。家庭医に処方される薬は効かない。ただ一つを除いては。それは大量のベンゾ系の薬。それでも不安は強くなり、大事な会議の前やカンファレンスでのプレゼンの前に症状を和らげるために飲酒をする様になった。家族との関係も悪化し、カウンセラー経由で紹介状が来た人。

不安症は改善に向かっている。アルコールに頼る必要もない。ベンゾ系の薬の減量も着実にできている。家族とも会社でも上手く行っている、と言う。こんな気分になれたのは何十年ぶりだ、と晴々しい笑顔で言う。君は不思議なくらい自分の症状を良くしてくれた、と言う褒め言葉だった。

引退した彼の以前の主治医の処方記録を見たときは驚いた。なんてこったい。めちゃくちゃにも程がある。私がしているのはEBPに沿ったことを、患者によく説明して、そして本人もカウンセリングを続け、毎日運動もする。一緒に計画を立てて、それを実行できるから効果も出ると言うもの。とてもシンプルなことだ。魔法はいらない。