もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「悪人」

2010-10-31 23:41:15 | 映画
パサついた金髪と
携帯をいじる指、爪の付け根に入り込んで取れない土の黒。
ピカピカの白い車。
それだけで祐一がブルーカラーだと解る冒頭から釘付け。

淋しい人と愚かな人
自分に心があることを忘れた人と
はなから心なんてない人
想像力のある人とそれを持たない人
そして
欲望の押さえがきかない人と
ギリギリで人であることを捨てない人

そんな人々が偶然であるかのように出会い
一人の女が殺される。
犯人は「悪人」であるに決まっている。

しかし、誰がそう決めつけられるのか?

祐一は
淋しくて愚かで
自分に心があることを忘れてしまったから
欲望と愛情と執着の区別がつけられなかった。
光代に会うまでは。

光代は
淋しさのために
自分に心があることを忘れたことにしていた。
けれど、人生で初めて愛する人に出会った女は
心を欲望に明け渡してしまった。
愚かに成り果て掴んだ
ほんのひと時の、濃密にゆがんだ幸せ。

祐一を育て上げ、自覚もなく愛情で縛りつける祖母。
彼女が悪徳商法にはまるのも淋しさだ。

老人の淋しさを食い物にする小悪党は
解りやすく「悪人」だが
現実には『話を聞いてくれるいい人』と思い込む人々も存在する。

親の前とは違う顔を持っていた娘を殺された父親は
原因を作った大学生を襲おうとして思い直す。
彼には心があったから。
そしてあの大学生には、痛みを与える価値もない。

『大切な人はおるね?』
大学生の友人に問いかけるように語る被害者の父親の言葉。
簡単な言葉で語られる大切な真実。
「悪人」はどうやって出来上がるのか?
それは他人事なのか?
自分の心に問いかけてしまったシーン。

祐一も光代も「大切な人」ができたから
追い詰められてしまったしね。
そんなことを知らなかったら逃げ続けただろうに。

寒々しい灯台でままごとのように過ごす二人。
時は限られているのに手を離せない二人。
二人で暮らす夢を見た祐一が描いた画。

心を取り戻した祐一が愛する光代の為に最後にしたこと。
その時祐一の伸ばした手は届かなかったけれど
心は光代に届いたよね。

世間中が「悪人」と呼ぼうと光代には「愛する人」なのだ。


妻夫木くんの荒み方はすごい。
適当に染めた金髪と頓着のない服装とピカピカの車。
意味の無い夜中の走り。
現場の仕事をしている若者にままいるタイプそのもの。
そして目が死んだままだもの。

しかし深津さん、すごすぎ。
孤独だが人生をはみ出せず暮らす光代そのものだったのに
出会い系で出会った祐一のために
全てを放り出し愛にのめりこんでゆく様が
生々しく愚かしく
全身が女という生き物になっていた。
こんな深津さん見たことない。


「悪人」を作り上げるのは世間とマスコミには容易いことのようだ。


~追記

通勤時にふいに思ったのだが、
悲しい人 が一番多かったんだって。
大学生も殺された女も 悲しい人だもの。
そして
小さな優しさを持った人々も、物語には重要でした。

コメント
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