葉巻がちょくちょくなくなるのを執事のせいだとにらんだ主人が、隣室に大声で怒鳴った。
「ジョージ! 誰かわしの葉巻を盗む奴がいるようだな!」
返事がない。さらに声を張り上げて何度も繰り返したが、やはり返事はない。
主人は隣室に入っていき、執事と向かい合った。
「ジョージ、たったいまお前にいったこと、聞こえなかったのか?」
「旦那様、何も聞こえませんでした。きっと壁の具合がおかしいのでしょう」
「そうか、それならお前、むこうの部屋で何かいってみろ。本当に聞こえないか確かめてみようじゃないか」
執事は隣の部屋へ行き、ありったけの大声で叫んだ。
「どこかの恥知らずのくそったれ野郎が、俺の女房に手を出しているぞ!」
何回か繰り返し叫んでから、執事は自分の部屋に戻った。
「何か聞こえましたか、旦那様?」
「お前のいう通りだったよジョージ、何も聞き取れなかった。葉巻でも、どうかね?」
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