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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-9-

2008年05月09日 | 投稿連載
   こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
           9
 多摩川の地図を見せると、祐二は川を等々力緑地の方へ指差した。
「水門のダム脇でその犬を見た。上へ逃げたっす。」
ポンポンと多摩川の野球場のあたりを祐二は叩いてみせた。
犬飼健太は、それをじっと見つめて押し潰された粘土の土偶のような
折れ曲がった口にみるみるなって、低くううと唸り声を出した。
「そうっか。まさか水門を超えて上流に行くとは思っても見なかった。
タマちゃんの時みたいに川崎方面へ下って行ったと思っていたよ。」
「タマちゃんって何?」
応接テーブルの上に広げられた地図を覗き込んで由美ちゃんが言った。
同じようにテーブルをソファに座って囲んでいた健太も祐二もサチも一瞬
時間が止まったように動かなくなった。
「?????」
妙な雰囲気にまん丸い頬をぷぅっと膨らませて由美ちゃんは、何か変なこと
言った?私。って顔になって鼻の穴をヒクヒクさせた。
「由美ちゃんって本当にモノ知らないよね。あれだけ日本中が多摩川に来た
アザラシのタマちゃんに夢中になったの、6年前よ。由美ちゃん、いくつだ
ったってわけ。」
サチが真面目な顔で語尾を伸ばして聞いた。
「中一かぁなー。」
「じゃ、矢ガモは、知ってる?」
健太が珍獣を見るように割って入った。
「イヤなカモ?」
サチと祐二が思わず受けてぷっと吹いた。
「じゃ、パンダのリンリンが死んだのは?」
「知らん、ヨ。いつ?」
サチが深ーいため息を吐いて追いかけて問題を出した。
「パンダは、どこから来ーたか?」
「うーん。ディズニーランドお!」
クスクスクスとサチや健太のささやき笑いが広がった。そしてもはや、
いや逆にかえってギッズローブの店内がなんだかたのしい雰囲気になった。
「もういいから、由美ちゃんでみんな遊ぶなよ。早くしないと川をドンドン
上って行っちゃうよ。そのパンダじゃなくて迷子犬。」
祐二はすっかり乾いて垂れ下がった前髪を櫛でリーゼント風に後ろへ撫で付
けて立ち上がった。
「そうか、そうだった。ナナ公探さなくちゃ。
最初の一日目が勝負なんだ。もしどっかでそいつ見かけたら連絡頼むよ。」
と健太が地図を仕舞って、入口へ進んだ。
「見つけたら何かモラエル?」
見送りに付いてきた由美ちゃんがおねだりするように声かけた。
「ああ。発見で一万。捕獲で三万。たっぷりスウィーツが食えるぞお。」
健太は、そう言うと由美ちゃんのぷっくり頬にチューしていそいそと出て行った。
「バカ!」
思いっきり由美ちゃんが叫んだ。
   米     米        米  
 運の悪いときは、たいがいつづく。そこで悲嘆にくれてヤケバチになるか、腹を
決めてしっかりと受け止めるかで人の大きさが決まってくる。ただし人によっては、
必ずしも不運をゆったりと構えているから人物が大きいかといえばそうとも云えな
い人もいる。
ちょうど上田祐二のように生まれつき楽天家でのんびりと生きている男がそうだ。
 財布を盗まれ、川に落ち、仕事の約束を忘れ従業員にヒンシュクを買い、おまけ
にカードもないので高級レストランでデカパイの春ちゃんと夕食デートができず、
結局自由が丘デパートの大衆食堂「ガスライト」でツケで春ちゃんと夕食を伴に
するようになってしまった。
祐二は、「たまにはこういう庶民の味もどうかな」と思ってね、と入口奥の通称
アベック席に猫田春を案内して座った。
「へん。庶民の味で悪かったね。」
「いやいや。マスター。そう言うわけじゃなくて。一ヶ月に一回はここの定食
食べないと気持ちが落ち着かなくてさ・・」
「一ヶ月に一回か。毎日来いって。」
「いや、そういう意味じゃなくて。本当は毎日来たいんだけど・・そうもいかなくて」
「まったく親子代々調子いいよな。」
とマスターは、咥えタバコでボックス冷蔵庫からビールを出して祐二と春のテーブル
にどんと置いた。
「おじさん。ぼく、豚の生姜焼き定食」
壁にしみのついた品書きを見上げていた春は遠慮気味に「私、煮魚定食」と注文して、
「わたし、こういう和食大好き。」
ウキウキと華やいだ声を出した。
「あいよ。きれいなジェンシナには、サービスしちゃう。」
と付きだしのマヨねぎまぐろを大盛りで小鉢に盛りだした。
中年のこの少し無頼派のマスターは、ズケズケとモノをいう人で気分で料理をつく
っているキライがあって早くさっさとできる時もあるし、つい遅くなることもある。
しかし自由が丘でこの量でこんな低価格でやっているのは、もうこの店ぐらいに
なった。このマスターからすると、今の自由が丘がおしゃれになりすぎていて
どうかしているといつも嘆いている。
儲けや効率より食堂をやっていることで生きていたい昔気質。
定食のメインのアジフライとかカツレツとかの他に山盛りサラダ、味噌汁、お新香に
なぜかやっこがおまけに付いてくる。それも気分によって男でも食べ切れない量が
一つ一つくる。特にアベック席でいい感じのカップルだと何も云わないのにどんどん
サービスしてくれる。
 そんな店にさわやかでデカパイの春が座るとマスターは上機嫌で、サービス
でやっこの他になぜか餃子を一皿余分にテーブルに載せた。
祐二は、ぺこぺこマスターに礼をいうとビールを二人分のコップにそそいだ。
「健太さんも大変ね。犬探し。徹夜で街を回るんですって。」
「ショウバイだもん。先輩の。」
一気に飲み干した祐二のコップに今度は春がビールをそそいだ。
「健太さんと高校がいっしょだったの?」
「ああ。野球部の先輩後輩。お互いレギュラーすれすれのピンチヒッター要員
だったけどね。それより春ちゃん。そのハルおばあさんはどうだったのよ。」
「うん。なんかお祖父ちゃんの知り合いでね。なんかこうイイ感じの人なの。」
「うーん。それってネコ画廊のおじさんの昔の恋人とか・・・・」
「ふん。たぶんね・・・きっとそうだと思うわ。」
「いろいろ聞かれたの?」
「ううん。何も聞かないの。おじいさんのこと。来週ポートレートの出来上がり
を取り来るって帰っていっちゃった。」
「あんな髭爺さんでもやることはやってたのかぁ・・・」
「うん。あのケンタッキー爺さんみたいな顔しててもね。何かこう信じられない
けど少しうれしい気持ちになるの。へえー。おじいちゃんが・・って」
「おじいちゃんの青春か・・・」
「バカ! みんなはじめっから爺さんじゃねえや。ネコさんはけっこうモテたんだ。」
とマスターがカウンターから声をかけた、
「もてた、の? 」と春と祐二が声そろえて聞き返した。


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プラチノとボヌール~シーちゃんのおやつ手帖45

2008年05月09日 | 味わい探訪
今日は地元・世田谷のお菓子を2つ紹介します。
プラチノのアンジュはマスコミでも多く取り上げられているので、
ご存知の方も多いはず。苺のショートケーキなど、他のケーキも
美味しいお店です。
ボヌールは石窯焼きのパン屋さん。パンもお菓子も飾らない素朴な味わいです。
 
コメント (2)
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